美しい婚約者
午後4時になった。午後3時までに俺は相手を連れてこなかったので、フェリア公爵家が用意した秘密兵器と結婚することになった。とても楽しみだ。アリアを奴隷にし、飼育するまでのスペアとしては十分であろう。
「それで、俺の婚約者は?」
双子の男が公爵の家で俺を出迎えてくれた。秘密兵器とやらの準備ができるまで、客間で待機することになった。その間、俺の応対を彼ら二人がしている。彼らはアリアの弟で、豚を追い落とす際に彼女の動きを知らせてくれた有用な駒だ。名前は確か、ジェイムズにカルロスだったかな?どっちがどっちか判別が全くつかない。
「今、父上が連れてきますので、お待ち下さい。」
「今回の件に関しては、姉が大変申し訳なかったと思っております。」
「済んだことだから、気にするな。姉に関しても見つけたら国が保護するから、安心しなさい。」
彼らはそわそわしていて、何か焦っているように見える。そこまで緊張しなくても、取って食いはしないのに。公爵家の秘密兵器、いい響きだ。とても楽しみではないか。
それから、沈黙が場を支配したので、気まずくなってしまった。彼らは間を持たせるために歌を歌いだした。
「金色の獅子の〜朝日が上る地は、赤く燃え〜すべて愛する楽園の王が誇り高く轟き、世界が刮目するその姿を〜最強、無敵、完璧〜光があまねく世界を照らしたまう〜ああ、完全無欠の王さま」
俺の応援歌か。音痴だが、余興には良いか。全く、アリアにも弟たち程度の忠誠心があれば良かったのだが、物事は上手くはいかないか。捕まえた暁には調教をしっかりとやらなくてはならない。
「応援歌の2番は歌わなくて良い。無理に歌うな。後、10分くらいの間、静かにお菓子でも食べて俺は待っている。」
「かしこまりました。ごゆるりとお過ごし下さい。」
それから、20分が経過したが、一向に来ない。そろそろここに来てから30分が経過している。女性の準備に時間がかかるのは分かるが、せめて当主の顔を見せるのは礼儀ではないだろうか?
「まだかな?そろそろ会いたいのだけれど、これ以上待たせるのなら強引に乗り込んで拐っちゃうよ?」
冗談ではなく、真面目である。十分に待った。今日の午後6時から晩餐会は開場するし、午後の5時30分には会場入りしなくてはならない。ここから会場まで30分は馬車の移動でかかるので、これ以上は待てない。事前に父上と母上に挨拶もしたいので、今すぐにここを出たい。
「大変お待たせしました、陛下。こちらが秘密兵器である家の子供のパミナにございます。」
「こんにちは、陛下。パミナでございます。」
正面玄関前の階段の上から降りてきたのは美しい令嬢であった。白銀の髪にアリアに良く似た顔立ち、いままでなぜ彼女のことを知らなかったのだろうか。
「これは美しい令嬢でございますね。私はカーネリウス、あなたの夫になるとともに、未来の国王になる男です。貴方を一目見て心が奪われました。私の妃になっていただけませんか?」
令嬢が横にいる父親の顔を伺い、そして俺の目を見て言った。
「ふつつかものですが、よろしくお願いします。」
気に入った。今日の夜は楽しもうじゃないか。久々の生娘だ。さぞかし面白い反応をするだろうな。
「では、宮殿に参りましょうか。」
「はい、よろしくお願い致します。」
少しだけ彼女の表情が堅いような気がするが、まあ良いか。最初はこんなもんか。
「では、宮殿には我が家の馬車で送りますので、王子は馬車で先に会場に向かっていただければと存じます。」
「一緒の馬車では行かないのか?」
「申し訳ないのですが、王子といえども、いまだ未婚の淑女が殿方と一緒の馬車に乗っては噂が立ってしまいます。王族に嫁ぐ女性は生娘が相場でございまして、疑われるようなことはしたくないのです。」
「わかったよ。別の馬車でもいいや。」
人間関係の面倒なのは十分わかっているし、これくらいは折れてやる。もうかなりの貸しを作っているわけだし、いつか相応の見返りが用意されることを期待するとしよう。
俺は護衛と一緒に馬車に乗った。見目が良い令嬢が婚約者になるので満足している。アリアにそっくりだった。たっぷりと彼女の代わりに可愛がってやる。アリアが帰ってきたら2人まとめて相手にするのも悪くない。
「王子、あの令嬢はいままでなぜ社交場にでなかったのでしょうか?」
「さあな、知らないし興味もない。それよりも、婚約発表で俺が公爵家のバックアップを得たことを周辺国に示せば次期国王の地位が磐石になると考えていいだろう。」
勇猛果敢なフェリア家と王家の仲を示せば俺が正当な後継者だと分かる。他国では俺の知名度はそこまで高くはない。これを機にあの豚なんかよりも俺の方が王にふさわしいと世界に発信するのだ。
その夜、俺は美しい婚約者と一緒に会場で婚約を発表した。アリアよ、貴様はさぞかし後悔しているだろうな。一時の感情で人生最大の好機を見逃し、妹に王妃の座を奪われたのだ。
「ざまあみろ。」
この時の俺は公爵家の秘密兵器の正体をまるで知らなかった。知っていれば、違った結末を迎えることになっていただろう。