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国境越え

「行く先はアルシュタット王国で決まりね。」


 アルシュタット王国は既に滅亡し、現在、この国を含めた連合国で土地の配分をどうするのかを揉めているところである。国は荒廃しており、復興のために世界中から冒険者が集まっていて、人の出入りがかなり激しい。そして、おそらく犯罪率もかなり上がっているはずだ。


 治安は悪いが、逆に言えば、簡単に知り合いに見つかることはない。これは渡りに舟だ。それに盗賊の捕獲や人身売買の取り締まりを行えば生活の糧になる。


 女である私一人では目立つので、家からフルフェイスの鎧兜を持参してきた。素顔を隠す冒険者は珍しくないので、問題ない。これで顔バレ対策は万全だ。

 

「まずは国境を越えなくちゃね。」

 

 城下町から国境は早馬で1ヶ月かかる。それよりも早く国境を越える。まあ、やることは昼間はダッシュして、夜は良く寝るだけだ。整備された道ではなくて魔物が闊歩する森を抜ければショートカットになる。ざっと20日くらいで国境を越えられるだろう。追ってが来って来る前に何とかする。

 

 私は今日の夜の晩餐会に出席しないから、この国の王太子の顔に泥を塗ることになる。誰かが代役に立てられることになると思うが、我慢してくれ。他人の心配はもうしない。私は好きにやらせてもらう。それに、あの女好きの王太子のことだ。適当に取り巻きの女でも選んで結婚すれば良い。

 

 世間一般の基準ではカーネリウスは美形であると言われているが、私の中ではあの容姿は生理的に無理なレベルである。人を見かけで判断してはいけないとはいうが、食べ物の好き嫌いがあるのと同様に、あの容姿はどうしても無理なのだ。

 

 私は上位貴族には少ない身体的特徴である太った男性がタイプだ。今だから言えるが、かつて私の婚約者以外の男性に目移りしたことがある。今から数年前のことだ。私はスレイン様の王位継承が危ういと感じていたので、週に一回ほど親に冒険者の仕事をしていた。その時に知り合ったのだ。男性は冒険者の方で、凄まじく力持ちなまんまるとした男性だった。冒険者をしていて、世界各国を渡り歩いているという。


 彼に興味を持った私は彼に勝負を挑み、敗北した。

 

 小さい頃から兵士の訓練にも参加し、実戦を積んでいた私は少々天狗になっていた。まさか早食い競争で負けるとは思わなかった。私は反省した。そして、あの方に敗北して以来、黙々と訓練を続けてきた。あらゆることに全力を出した。絶対に負けないためだ。すべてはスレイン様を守るためだ。私は敗北をバネに強くなった。あの冒険者の方は大切なことを教えてもらった。尊敬しているし感謝しているが、それだけである。


 

 

 私は一人、森の中を駆け抜ける。おそらく私がいなくなったことで今頃は公爵家は大騒ぎだろう。ま、どうでもいい。




 大事なのは私が自分らしく生きることだ。今の私は他の人から見たら婚約者が死んでいるわりに明るい屑女と思うかもしれない。


 屑と思われても結構だ。私は開き直った。それに、彼は一度も私に頼らなかった。私と彼のいままでのことはすべて自己満足だった。こうなったら、このまま突き抜けていくだけだ。私は自分が納得する生き方をする。


 彼のことは好きだが、もういない。だからといって、今は恋人作りも結婚も考えられない。この先のことも行き当たりばったりだ。無論、人々の役に立ちたいという根底は変わらない。私は家族に恵まれ、環境にも恵まれてきた。だから、社会に貢献したい。それができるだけの力を私は与えられた。


 この家出はわがままである。しかし、嫌いな相手に嫁がされるくらいならいっそ国外に逃げる。


 婚約者に勝手に婚約破棄され、怒りと悲しみが混ざりあって貴族でいることが嫌になった。私は周りの人々が信じられない。スレイン様が素敵だと故王妃様は言っていたが、この国の誰もが彼のことを豚と貶す。私は自分の信じた人の味方だ。あの王妃様が言うなら、彼女の方が正しい。けれども、多数の人々の考え方がそれを否定した。そして、スレイン様が悪でカーネリウスが善という構図ができていた。


 父と王妃様が決めたから私は彼の妻として頑張ったのだ。それを今までずっと否定されてきた。スレイン様は不細工だと散々バカにされるし、周りの人々が皆、私のことを憐れな女だ見てきた。


 正直いって、辛かった。誰も私のことを信じてくれず、挙げ句の果てにはスレイン様が私を使って印象操作をしていると思われた。


 私には本当の味方がいなかった。家の地位が高いから人が寄ってきただけであった。まあ、もうどうでも良いことだ。


「後悔しても、遅すぎる。それに私は捨てられたんだ。」


 スレイン様が私を捨てたんだ。今までの自分を後悔したところで、意味はない。かえって惨めになるだけだ。忘れよう。


「グオオオオオ」


 魔物の咆哮が響いた。魔物の縄張りに入ったようだ。ウォーミングアップのために見つけたら殺すか。


「かかってこい、くそ野郎」


 大声でこちらの場所を知らせる。すると、向こうからやって来た。


「魔物を発見、討伐開始」


 3メートル以上の大きさを誇るサイクロプスが現れた。


「お前程度なら素手で十分だ。」


 サイクロプスは成人男性のの20倍の握力を持つ怪物だ。B級クラスの冒険者が10人集まって、罠に嵌めなければ殺せない。正面からの殴り合いは自殺行為とされる。


 だが、それは一般の冒険者の基準である。S級冒険者基準からするとサイクロプスとて有象無象に過ぎない。


 瞬く間にサイクロプスの腹に風穴ができた。


 アリアは正面に拳を突き出した。それだけだ。


「お腹が空いた。食事にしよう。」


 彼女はサイクロプスを解体し、肉を火で炙り、その場で食べ始めた。サイクロプスは独特の臭みがあって人によっては嫌うが、歯ごたえがあって臭みの処理をすれば非常に美味である。まあ、私は面倒なので処理をせず、そのままがっついた。


「うまい。」


 肉を焼いて食っただけだが、美味しい。残った肉はさっきからこちらを伺っている狼の餌にくれてやる。ここにあまり長く留まると血の臭いで魔物が次々に寄ってくるので、離れよう。


 狩をしつつ、食を味わう。このようなサバイバル生活を20日ほど続けて、何事もなくアリアは国境を越えた。


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