出会い
「喜べ、アリア。お前は王族に嫁ぐことになった。」
「はい、分かりました、お父上。」
今から10年前、6歳の私に婚約者があてがわれた。どうやら以前に王妃様が主催した茶会で見かけた小豚王子に嫁ぐらしい。王妃様は優しいし、私に良くしてくださるので、悪くない話だと思った。王妃様はしばしば小豚を誉めちぎっていたのだからとても良い縁談なのだろう。
「これでこの国の政治は完全に掌握できる。ククククク。」
お父様も上機嫌だし、みんなハッピーである。とりあえず高笑いしてみた。ワハハハハハハ。
「ワハハハハハハ」
「ククククククク」
「ワハハハハハハ」
「ククククククク」
とりあえず、婚約したので週に一回か二回ほど王妃様のところに遊びに行くことになった。いつも小豚はお菓子を食べるのに夢中だった。まあ、見ていて愛嬌はあった。王妃様は私に元いた国の話を話してくれたり、おとぎ話を読み聞かせてくれたり、小豚がいかに素晴らしいかを力説してくれた。
「スレインちゃんは食べ物を残さず食べるのよ。」
「ふーん。凄いね。」
「スレインちゃんは猫に優しいのよ。」
「偉いね。」
「スレインちゃんはとても素直で誠実な子どもよ。」
「うん。」
小豚の話が一番長いけれど、王妃様がとても楽しそうなので私もハッピーだ。毎回、帰る際には小豚からお菓子や小物などをプレゼントされた。そして、そのお礼に王妃様と小豚の頬っぺたにチューした。どうやら家族になるのだからチューするのは当たり前らしい。
小豚よりも王妃様の方が当時の私は断然好きであったが、小豚のことは弟のように思っていたので好きではあった。私は下に弟が3人いたが、可愛いげがなく、反抗的だったので、そこまで好きではなかった。特に双子のジェイムズとカルロスは二人ががりで攻撃してくるのでうざかった。
彼に対する認識が変わったのは小豚の7歳の誕生日会だった。そこで私はいままでの彼に対する認識を改めることになった。
私は誕生日プレゼントに小豚のガラスの小物をプレゼントすることにした。いままで色々なプレゼントを貰っていたので、そのお返しであった。
「ブーブーブー。ブヒーブヒー。」
「ブーブー」
「ブヒーブヒー。」
誕生会で金髪の目付きの悪いガキとその取り巻きが小豚のことをバカにしだした。小豚が泣き出してしまい、誕生日が台無しになった。ジェイムズとカルロスも真似してブーブーとか言ったので、しっかりと泣かしてやった。
私は怒ったので彼らに殴りかかり、全員泣かしてやった。
「ちくしょう。こんなものいらないよ。」
小豚は私のあげた小豚の小物を地面に叩きつけた。小豚の小物は粉々に砕け散った。悲しくなって、私も泣き出してしまった。
私はとても後悔した。彼のことを傷つけてしまったのだ。彼は小豚のようだと思っていたが、それは間違いだった。私は泣きながら王妃様に謝罪した。彼女は私は悪くないと言ってくれたが、スレイン王子はお茶会に姿を見せてくれなかった。そのため、お茶会の度に毎回手紙を書き、王妃様に渡した。
「スレインさま、あなたと共に過ごせない私の心は死んだままです。貴方を思い出す度に私は生き返るのです。外は暑い夏の日ですが、私の心は凍りついたままです。貴方は私にとっての太陽です。貴方が私の心を溶かしてくれるのを心待ちにしています。 親愛なるアリアより」
「スレインさま、季節も食欲の秋となり、食べ物は旬を迎えました。さんまや栗が私のお父様の領地ではたくさん食べられるようになりました。ぜひとも今度一緒にモンブランを食べたいと思います。 親愛なるアリアより」
「スレインさま、季節は冬となりました。雪だるまを作るのが楽しいです。弟と雪合戦で毎日戦いますが、私からしたら雑魚です。いつか一緒に雪だるまを作りましょう。 親愛なるアリアより」
「スレインさま、この間は氷の上で釣りをしました。楽しかったです。 親愛なるアリアより」
手紙は段々と適当になっていった。王妃様とのお茶会ではスレインさまのお話を聞くこともあれば、私が最近剣術で弟を負かしたりしたことを話したり等、毎回雑談をしたりした。毎週会っていたのでスレインさまと関係なく個人的に王妃様とはかなり仲良くなっていった。
いままではスレインさまのことは小豚と心の中では呼んでいたが、最近では小豚と呼ぶのをやめた。そして、半年ほど会わなかったせいか彼がいかに素晴らしいかを王妃様から刷り込まれる内に本当に素晴らしい方であると思うようになった。
最近では生意気な金髪が「俺のものになれ」とか絡んでくるようになり、私はスレインさまがいかに謙虚で誠実な人であるかを知った。
ある日、王妃様に頼んでスレインさまの自室に上がらせてもらった。
「そ、そのね、スレインちゃんは大器晩成だから長い目で見て上げてね。」
部屋の中には横に大きく成長したスレイン様がお菓子を幸せそうに食べていた。思わずクスッと笑ってしまった。元気そうで良かった。
「スレインさま、遊びましょう。」
スレイン様は豚ではない。たくさん運動して、勉強して、大きくなっていく内におそらくお父様のような筋骨隆々の男性になるだろう。
マイナスからのスタートであるため鍛えれば伸びしろは凄いのだと思い、感動した。私が彼を導けば良いのだ。
彼は私の家族とは全然違い、いろんな意味で卵みたいだった。大きな衝撃を受け、同時に育てなければならないという使命感が芽生えた。孵化できるかは私次第だ。
そして、私は彼が好きになってしまったのだ。