デブハーレムへの一歩
私に新たな仲間ができた。うれしい限りであるが、少々貧弱すぎる。今の私は冒険者であり、ソロプレイヤーだ。さすがに王族の護衛は一人ではできない。あの小屋にはコラゲン様しか王族の方はいなかった。他の兄弟はどこかに潜伏しており、居場所が分かっていない。この国の南の方にいることは分かっているが、それだけである。コラゲン様によると彼の兄弟は優秀であるので、案外冒険者をしているかもしれないとのことである。
「走れ、走れ、遅いぞ。後10週」
とりあえず、私はコラゲン様が自衛できるように鍛えて差し上げることにした。今のままでは刺客に見つかったら一発でアウトだ。だから、私が万が一対処できない時に備えて足腰を鍛えることが先決であると判断した。至極、シンプルなことである。私は太った人は嫌いではないが、戦闘に適しているとは思えない。そして、冒険者は最低限の武の心得がなくてはならないため、肉体改造させてもらう。
とりあえず、森の中のあらかじめ決めたコースを私が走り、その後ろからついて来てもらう形でトレーニングを積むことにした。すぐに疲れているようだが、この程度では暗殺者に簡単に殺されてしまう。筋肉が足りていない。
私は彼が強くなるためのサポートをできる限りした。
「嘗めてんの?」
私はある日、切れてしまった。食事も制限して、剣術修行と走り込みを私が依頼を受けている間もやるように言ったのに、無視しやがった。私がいない間に買い食いし、昼寝してやがった。
罰を与えなくてはならない。
「ほら、これでも食え。」
私はとても不味いことで知られるゴブリンの肉を王子に食わせた。魔力を摂取し、実力を上げてもらうためである。生まれつき魔力が少ない人間は、魔物を食らって増やせば良い。もっとも、それは命がけになる。魔物肉は魔力の耐性がない平民が食えば体が壊死して、再起不能になる。
そして、運が悪いと自分の体が食らった魔物の細胞に侵食され、オークのような見た目になるという。先日出会った変態貴公子もおそらくその口だろう。イケメンになれるという点が悪いといえるのか疑問であるが、それは別に良い。
「臭い。なんだこれは?」
「いいから食いなさい。貴方が食事制限したくないのは分かった。楽に強くなりたいのでしょう?これを食べなさい。」
嫌がる王子の口にねじ込んでやった。食えば食うほど強くなる。なら、食えば良いだろう。私が食べても全く力が増さないが、王子には伸びしろがある。
「おえ、おえええええ」
「口を開けろ、食いやがれ。」
私は心を鬼にして無理やり食べさせた。彼のことを縛り上げ、執事のことを人質に取り、吐いても肉を食べさせた。彼に二度と買い食いさせないためだ。私は心を鬼にした。
「こんなの人の食うものじゃねえ。鬼ババア」
「図に乗るな、豚野郎!」
「ババア、ババア、ババア、ババア、ババア、ババア」
「デブ、デブ、デブ、デブ、デブ、デブ、デブ、デブ」
腹が立ったので蹴り飛ばしてやった。
「ぐえ」
彼にはよく食べてよく寝てもらう。
翌日、彼の事を観察してみると、彼は魔力が大きく増えていた。期待以上の成長に、私も少しだけ驚いた。上位貴族や王族はその内在する魔力の大きさからカロリーの消費量が多く、すぐれた貴族や王族ほど肥満体形からほど遠い。
つまり、デブというだけで人格が疑われるレベルなのだ。私はデブということはそれだけ発展途上である証だと思っているので、逆に素晴らしいと思っている。
これは試練なのだ。
「てめえ、よくも昨日はやってくれたな。」
今は雑魚であることに相違ないが、成長の余地がある。何せコルゲンはまだ13歳。可能性はいくらでもあるし、修正ができる。
「お前はまだ伸びる。私についてこい。」
「お願いします。アリア様、あまりお坊っちゃまをいじめないでください。」
「そもそもお前が甘やかすからいけないのだろうが!」
疲れる。こいつらの世話はかかるが、なかなか充実している。少し歩くだけで汗をかいていたのが、今では新米の騎士と遜色ないレベルになっている。悪くない。
「お前らには今日は魔法の修業を積んでもらう。心して臨むように!」
「てめえをいつか倒してやるぜ、アリア!」
「お坊っちゃま、今日は負けませんからね。」
こいつらも明るくなった。良い傾向だ。この調子で一流の戦士になって欲しいと切に願うばかりだ。
「じゃ、とりあえず二人で最初に戦って、その後に私が講義してやる。最後に二人がかりで私を倒しにこい。」
今年の冬はひたすら修行だ。そういえば教会が帝国に潰されたとかいうことを風の噂で聞いた。それに公爵家と帝国が緊迫状態にあるらしい。まあフェリア家を倒せるとは思えないがな。
私は修業をつける傍らで、自分の魔法の修業を継続し、常にどんな敵であっても倒すだけだ。
町から少し離れると、ここ最近はずっとあいつが出てくる。
「また来たか、豚。」
「ぶひー。」
時折やってくる豚の貴公子を魔法で倒しつつ、私は日々強くなっていく。
春が待ち遠しい。そして、この雪景色の広がる山の中、私は今日もギルドの簡単な仕事をこなしては、体を鍛え、時には王子を走らせ、楽しい日々を送った。




