嵌められた
婚約を披露してから一週間後、パムサス教会から司祭が訪問してきた。俺の結婚式の日取りを相談するためだろう。国王は体調を崩していたので、同席していなかった。俺が代理として話を伺うことにした。
「よくぞ参ってくれた。心から歓迎する。」
教皇が来ていないのは癪だが、まあ大目に見てやる。
「貴様を破門する。」
今なんか言ったか?
「教会はカーネリウス・ヴェンサーを破門とすることを決定した。これは正式に決定した事項だ。貴様はおしまいだ。」
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
「死ね」
簡単には殺さん。まずは鼻を引きちぎった。
「ぎゃあ。やめろ、私に何をする?この狂った罪人め!」
次に喉を潰す。耳障りだ。口を開くな。
「があ」
次は……
「恐れながら、カーネリウス王子。この屑を痛めつけている暇はありません。」
「なぜだ?司祭ごときが王族である俺様を侮辱したのだぞ?散々苦しめてから殺すのが筋ではないか。貴様の頭は大丈夫か?」
「仮に教会から破門されたとしたら、たとえ国王でも追放されてしまいます。まずは弁明しに行くのです。」
「ふざけているのか?俺に何の落ち度がある?俺は決めたぞ。適当な綺麗事を並べ、嘘をつくパムサス教は今日をもって邪教とし、これよりこの国でパムサス教を敬う者は極刑とする。新たな国教は王神教とし、神の末裔である王族を敬うことにする。」
我ながら素晴らしいアイデアだ。
「カーネリウス様、考え直してください。パムサス教会は各国に支部があります。その政治力と軍事力を侮ってはなりません。」
「黙れ!」
うるさいので、部下を殴り飛ばした。
「精鋭部隊を召集しろ!まずは帝都内の教会をすべて焼き尽くし、聖職者を名乗る邪教徒を皆殺しにしろ!」
ここで先手を打たなければ父は俺を追放し、屑のどれかから次期国王が選定されてしまう。せっかく兄を排除したのに、これでは水の泡だ。それとも、あるいは公爵が俺の後見人につくかもしれん。奴がその地位に就くのは想像に難くない。すると俺を嵌めたのは公爵なのか?ならば殺す。
考えている間に精鋭部隊が10分足らずで召集された。部隊が遠征中であったら無理だったが、婚約発表以降は万が一に備えて俺の精鋭部隊を身近なところに置いておいた。
「皆の者、良く聞け!教会がこの大陸を統べる覇者である俺に反旗を翻した。もはや奴らの生存は俺が許さん。手始めに帝都内の教会をすべて焼き尽くせ!一人残らず教会の人間は殺せ!邪教徒はこうしてしまえ!」
俺は持っていた剣を振り下ろし、俺を破門するとほざいた司祭の首をその場で刈り取った。そして、その首を掲げた。
「首を集めてこい!褒美をやる!屑どもを晒し首にするぞ!」
血気盛んな俺の精鋭部隊が歓喜した。
「皆殺しだ!」
「腕がなるぜ!」
「僧侶は処女かな!楽しみだぜ!」
「王子最高!」
「幼女最高!」
「さあ、行け!帝都の教会が貴様たちの戦場だ!思う存分蹂躙してくるが良い!」
国王に何かされる前に先手を打ってやる。あの司祭が俺に先に話を通したのは運が良かった。遠慮なく大暴れさせてもらう。王太子である俺を止めることは近衛兵でも国王の許可なくばできまい。今日中に帝都内の教会はこの世から抹殺する。
その日、帝都の教会は阿鼻叫喚の地獄絵図になった。帝都の警備兵は王族直属の兵士を止めることもできず、帝都の教会は燃やされ、聖職者は身ぐるみを剥され痛め付けた上で殺し、シスターは犯されて辱しめられた挙げ句に殺された。孤児院にいた子供たちは家を失い、混乱に乗じて人身売買業者に拐われた。後日、競りに出され、彼らの多くが奴隷になった。
そして、集められた首は広場に晒された。民衆はひどく狼狽し、自ら進んで聖職者を殺しに行った住民がいた。他方では教会の人々を逃がそうとした住民もいた。聖職者を庇った住民は同じ住民の手で袋叩きにされ、始末された。
帝都は大混乱に陥った。
「どうなっている?」
帝都のあちこちで火災が生じ、人々の悲鳴が聞こえる。寝込んでいた国王がこの事態を知った頃にはカーネリウスが精鋭部隊を帝都に突入させてから3時間も経過していた。眼前の光景に国王は驚愕した。何があったのだろうか。さっぱり分からん。国王は熱で寝込んでいたのだ。無理もない。状況が全くわからない。そして、今は頗る体調が悪く、頭が回らない。
「申し上げます。カーネリウス王子がパムサス教から破門されたことに逆上し、教会からの使者である司祭を殺しました。その後、帝都の教会の全てに精鋭部隊で襲撃をかけました。国王陛下、指示をお願いします。」
息子が破門された?事実なら他の子供を王位に据えなくてはならない。それよりも、教会を襲撃したのか?正気か?
「げほげほ、貴様たちは教会周辺の住民の避難を指示しろ。火の手が回らないように魔法で鎮火しろ。それと、治安維持に努めろ。犯罪者が混乱に乗じるはずだ。」
「教会で現在、犯されているシスターはどうしますか?彼ら罪なき聖職者たちはどうしますか?それに孤児たちはどうしますか?」
「手遅れだ。放っておけ。優先すべきは帝都の民の保護だ。ここまでの蛮行を働いたのだ。教会とは確実に全面戦争に突入することになるだろう。だから、彼ら聖職者は助ける必要がない。無駄だ。」
色々と絶望的だ。これは夢に違いない。私は疲れているのだ。眠い。だから、もう寝よう。私は疲れた。
「国王陛下?」
私は熱で気を失った。次に起きたときはヴェンサー王家がパムサス教から破門されていた。つまり、パムサス教会に息子を差し出して恭順するという選択肢は完全に消えた。聖職者を晒し首にしたのは明らかに度を過ぎていた。世界中で覚えめでたかったカーネリウス王子の評判は地に落ちた。各国の聖職者と信者たちは怒り狂った。こうして、帝国は教会との全面戦争に突入した。




