もう一人のS級
「死ぬかと思った。」
盗賊団のボスのゲロウは耐火服を着ていたので、無事に生き残った。地下通路を通って、町の近くの森の中の井戸から這い上がってきたところである。
「S級は無茶苦茶強ええわ。俺も一応S級だけど、あれはレベルが違いますな。」
盗賊団のボスがS級冒険者であることはこの団の中でも幹部しか知らない。俺の経歴を少し話そう。俺はかつては普通の冒険者だった。しかし、次第に立身出世を願うようになった。そして、コネを作るために俺は貴族の用心棒や暗殺を中心に仕事をした。羽振りが良かった。だが、俺はその程度では満足しない。さらに効率良く自分で金を稼ぎたいと思った。儲かれば良いのだ。金はパワーだ。そのためには一人の力では限界がある。俺は何年もかけて各地のならず者を集め、盗賊団の屑どもに奴隷の売買や強盗をやらせて金を集め、上納させた。
中には反抗的な奴もいる。俺は懸賞金がかかった奴らを集めて、たまに討伐をする。そうした自作自演で金と社会的地位を上げてきた。
今回も俺が何人か使えない奴の首を持ってギルドに行き、換金するはずだった。なのに、横取りされたのだ。プライドが傷ついた。面子があるのだ。
「あいつはヤバイね。うん。でも、幹部たちは黙ってないよ。」
タイガー盗賊団の幹部はS級冒険者の俺を隠れ蓑に利用している、個性豊かな仲間たちだ。彼らは好戦的で、かなりの脳筋集団だ。単純な強さでは私を超えている。ちなみに、殺されてしまった調教師のボイル君は幹部の中では最弱である。
幹部は皆、冒険者も兼業している。ギルドに討伐依頼が出回ったのも、幹部を招集するための合図だ。素行の悪さから冒険者ランクの低い幹部達は社会的な信頼はないが、実力はかなりのものだ。
タイガー盗賊団の幹部は最強の戦闘力を誇る化け物集団である。特に、あの豚が本気を出したら確実に虐殺騎士を殺せる。
タイガー盗賊団はA級首の集まりなので、ギルドの依頼票に掲載すれば問題なく各地に情報が回る。広告代はこちらが出さなくとも良いのだ。抜群のネームバリューである。とりあえず、今は幹部たちが全員集まるのを待つ。
色々と今回は想定外のことがあったので、俺の命も危ういかもしれない。さすがに召集された先で幹部の末端のボイルが殺されたのが不味かった。普段から保険として幹部以外の強い冒険者が来ないように、ギルド各所にスパイを配置し、仮に強い冒険者が依頼を受注したら、情報が伝わるようになっていた。今回のように敵が依頼を受けて1時間の内にアジトが壊滅するなんて想定していない。
絶対に報復する必要がある。数日以内に幹部の頭数を揃え、虐殺騎士を殺す。俺もこのままだと幹部に殺されるかもしれない。だから、放ってはおけない。
背後から殺気が突如として飛んできて、幹部がやって来たのを知る。
「おい、クソリーダー、てめえは俺を嵌めたいのか?」
「待ち合わせ場所が燃えていましたね。私たちを殺すつもりだったの?」
蛇男のピーサンと蛇女のアコンナダの二人が揃ってお出ましだ。アジトのことを知る幹部なら脱出ルートの先にある井戸で待ち合わせになるとわかっている。アジトにもしもの時があったときにはここで集合という決まりがある。
「良く来てくれた。今回の犯行はS級冒険者が引き起こした。俺はお前たちの力を借りたい。頼む。」
「S級ってお前もそうじゃねえか。」
「嘗めてるの?貴方しか容疑者がいないじゃないの?」
「誤解だ。話を聞いてくれ。あの鮮血の虐殺騎士がアジトを襲撃してきた。仲間の敵討ちを俺たちがするんだ。なあ、分かるだろ?俺がお前たちを売るような人に見えるか?」
「見える。」
「どうみても売るような屑だろ。」
少し傷つくな。まあ、いいや。
「お前が売っていないなら、虐殺騎士を見つけてリーダーであるお前が始末をつけるべきじゃないのか?」
「いや、あれは化け物だ。はっきり言って豚以外の幹部だと一対一じゃ勝てない。」
「そこまで強いの?」
「ああ、むちゃくちゃ強い。豚が来ないと話にならないレベルだ。」
俺たち3人がかりでも無理だ。
「それはかなりの強さだな。だが、豚は組織の一員ってことになってるが、あいつはいままで招集されても滅多なことじゃ参加してないぞ。今回の件も知らないんじゃないか?」
「大丈夫だろう。今回は冒険者ギルドにタイガー盗賊団の首が大量に持ち込まれたからな。絶対に噂になる。あいつも少しは興味を持つと信じたい。」
「それはないでしょうね。あれが興味を持つのは食事・酒・女だけですからね。」
豚は男に対しては残虐だが、女性にはかなり甘い。そのため、レイプしたことはなく、いまだに女性経験がない。そして、オークのような容姿から女性には恵まれていない。しかし、奴の性欲は凄まじく、部屋はいつもいか臭くなる。
「うーん、どうしようか。」
「とりあえず、他の幹部が来るのを待てばいい。そこから虐殺騎士の襲撃計画を練ればなんとかなるだろう。」
「ええ、危ない橋は渡らない方がいいでしょう。」
「そうだな。慎重に物事を進めよう。」
下手に手を出しても返り討ちになる。だから、連携して叩き潰すのがベストだ。
「S級のゲロウ様を敵に回したこと、後悔させてやる。」
楽しみにしておけよ。俺は容赦しない。
残る幹部は6人、あいつらが集まったら狩りの時間が始まるぜ。
ゲロウがせせら笑っていた頃、アリアは町を既に抜けていた。アジトを襲撃したその日の内に虐殺騎士は行方を眩まし、完全に行方を見失ってしまった。




