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それは突然の出会いだった

前回から遅くなってしまい申し訳ありません。頑張って更新します。




「貴女、お名前は?」

「え・・・スサノミコト・・・須佐野御子人です」

「スサノ・・・なるほど、スサノさんというのですね?」

「・・・はい」


 探索者になって間もないスサノにすら伝わるタダものではないオーラ。彼女が浮かべる笑みは柔和なものだったが、それでもスサノは一歩も動けなかった。


「スサノさん、突然ですが貴方は探索者ギルドに所属していますか?」

「え、えと、ギルドですか?いえ、無所属ですけど・・・」

「まあ!」


 スサノの答えに嬉しそうに声を上げるその女性。


「無所属のままでは何かと不便なことも増えるでしょう、もしよければ私のギルドに入ってみませんか?」

「えええええええええ!?」


 思いもよらぬ誘いに驚いたスサノだったが、それ以上に先ほど話していた受付嬢が大声を上げたのでスサノはそちらに気を取られてしまった。


「ど、どうかしたんですか?」

「知らないんですか!?この人が率いる『ティアマトギルド』といえば、探索者をしていれば一度は耳にするであろうというほど有名なところなんですよ?数多のギルドの中でも3本の指には確実に入るほどのトップギルドで、新規階層や一定期間しか現れない高難易度のダンジョン・・・通称レイドダンジョンでも常に高い成績を残しているという、それはもう凄いギルドなんですよ!」


 興奮冷めやらぬ、というよりさらに過熱していくように早口で捲し立てる受付嬢に若干引き気味のスサノだったが、すぐに女性の方に向き直って頭を下げた。


「すみません、何分無知なもので・・・無礼を働いてしまいました」

「あらあら・・・そんな、私困ってしまいます・・・買い被りすぎですよ、もう」


 謝罪をするスサノに困ったようにオロオロとかわいらしいしぐさを見せる女性。不覚にもスサノは受付嬢の言葉を疑ってしまうほどだった。


「第一『ティアマト』の称号はそちらがつけた称号なんですから、そんな不釣り合いな名前を使うなど・・・」

「いいえ、不釣り合いじゃありません!実力ですよ、実力」


 謙遜する女性だったが、受付嬢はここぞとばかりに持ち上げる。困ったようにスサノに視線を送る女性を見て少し考えてから口を開いた。


「その・・・ギルドに入るというお話ですが・・・」

「まあ!良いのですか?」

「ちょ、ちょっと待ってください!・・・こほん。お誘いは大変ありがたいんですけど、僕は見ての通り探索者としても人間としても未熟です。こんな僕をギルドに入れてもロクに貢献できないと思いますが?」


 やや下からやんわりと断るスサノ。しかしこれは本心とも言い難く、本当のところは―――――。


「信用できない、ということですね?」

「あ、いや・・・まあ、そんなところです」

「ふふっ、良いのですよ。むしろ警戒して当然のこと、二つ返事だったら将来が心配でしたわ」

「はぁ、どうも・・・」

「でも、ご安心ください。ギルドには定期的に監査が入りますし、当然そこで問題があれば政府から調査団が来ます。仮にスサノさんがギルドに入った後に問題があったとすれば、貴方が政府へ被害届や報告書を提出することによって解決されるケースがほとんどです。ギルド絡みの問題は優先度が高いのですよ」

「その通りなんです。もともとギルドは探索者たちが自主的に集団を作りそれが野放しになる前に政府側が慌てて枠を作った物なので、未だにしっかりと固まった制度にはできてないんです。ですから、制度化できていない部分は積極的に政府が介入するために優先度を高くしているというのが現状です。もちろん報告書のカテゴリー部分にギルド関係であることを示さなければいけませんが」


 女性に続いて受付嬢も補足説明を入れる。彼女たちの言い分によればギルド関係の揉め事はずいぶん音手厚い対応が政府から飛んでくるらしい。しかしその説明をする受付嬢の顔はあまり良いものではなかった。


「ここだけを聞けば正義感あふれる政府に見えるかもしれませんが、そうでもないんです。あまり大きい声でいえたことではないんですが、政府自体は探索者を増やしたいと言いつつも自分たちの管理下に置きたいのが本心です。当然といえば当然なんですけどね、でも人間を管理下に置きたいだなんてロクな人の考えることじゃありませんよ。結局ギルド問題についても、ギルドという集団が起こした問題に干渉することで恩を売るか、あるいはそれを糾弾してそれを理由に自分たちの管轄下にしたいか・・・。探索者が増えればこうなることもわかっていたでしょうに、なんとも身勝手な話です」

「確かに、あまり褒められたものではありませんね。尤もそのおかげで今のところはギルド内にとどまる問題がほとんどで、外に出るほどの大事は少ないようですけれど」


 ため息交じりに呆れたように手を振る受付嬢からはなんとも疲労が見える様子で、それだけでも普段どんな人間と関わっているかが窺えるようだった。スサノはというと話を聞くだけでもうんざりするような内容に辟易していた。自分のことながらこんな初心者に内部事情を漏らしていいのかという疑問もあったが、よく考えればここで聞いているのは自分たちだけなので、火元は嫌でもすぐにわかるという事実にたどり着き、ため息をついた。犯罪の片棒を担がされた気分であった。


「それで!」


 俯いているスサノの肩を掴み、女性はぐいっとスサノを抱き寄せた。


「改めて、私のギルドに入ってみませんか?貴方にとっても決して悪いことではないはずです。少なからず、私達探索者は上のランクに行けば行くほど他人との協力が不可欠になります。その時になって困るよりは早いうちから集団の中にいるのも一つ先手であると思いますよ?」


 確かに、とスサノは納得してしまう。先ほどの疑いは消えずとも、それを押し退けるだけの説得力と、どこから来たのかその声には安心感があった。本当に人を思いやっている者の表情、スサノにはそのように感じられた。


「スサノさん!私が保証しましょう・・・このギルドに入れるのなら迷わず入ったほうがいいです!中からも外からも評判良いですし、もちろん成績も優秀です。何より新人育成の成績がずば抜けて他のギルドより良いです。この人には人の才能を早いうちに見抜く眼があるんですから!つまり・・・貴方は何らかの才能が有り、それをこの人に買われてギルドに誘われているというわけです!」

「え、えぇ・・・?僕に才能があると、初対面でそういうんですか?」

「えぇ、その通りです。とはいえ最初からそれを信じた例は一つもないのでまずは損得勘定込みで入ってみませんか?絶対に損はさせないと思うので!!」


 ぐいぐいと推してくる受付嬢に相変わらず戸惑いつつ女性へと目を向けると、にっこりと柔らかい笑みを浮かべて佇んでいた。その場の空気もあり、終いにスサノの口から出た言葉は―――――。


「そこまで言うなら・・・はい、喜んでお誘いに乗らせていただきます。須佐野御子人、精一杯貴女の力となりましょう」

「まあ、そんなにかしこまらずに・・・えぇ、えぇ、わかりました。私も約束します、必ずや貴方の道を照らす指標となりましょう」


 そんなお堅い言葉で契約は交わされたのだった。この『ティアマトギルド』がどんなギルドか、スサノはこの時全く知らなかったのだが・・・とにもかくにも、こうしてスサノの探索者としての新たな一歩が踏み出されたのであった。




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