探求者の矜持とそれを持たない者
いつもありがとうございます。
最前線に行ったとしても、マスターが出来るのはサポートぐらいなものである。
「ぐらいって……師匠はいつの間にそこまで謙虚になったの?」
「私は元から謙虚ですが」
「どの口がそれをほざくかな」
弟子と会話していると、サブマスターが入ってきた。
「あなたを後ろでのんびりさせておけるほど、俺は優しくない。あなたは鮮度を保つようにして、魔獣から様々なものを採取してくれ。少し経過したほうがいいものは、少し経過させるように保存を」
さすがサブマスターといったところか。マスターの使役する阿形と吽形の特性をきちんと理解している。
「分かりました」
弟子パーティ+αくらいなら、阿形と吽形に手伝ってもらえば出来る。老体に鞭打って頑張ることにした。
「見たことない通路発見!」
別パーティが叫ぶ。どうやらその通路はギルドマスターの執務室に繋がっていたようで、土属性持ちが慌てて塞いでた。
「……お馬鹿、ですね」
「あとで塞げば問題ないと思ったのかね」
「精霊に頼めば、いつ掘ったとか分かるのにね」
「協力した探求者は協会に報告しないとな」
マスターが口を開けば、ウーゴやマイニが呆れて追従してきた。サブマスターはすぐに権限を用いて報告している。
「しかし、皆さん腕いいねぇ」
「裕里、いきなりどうしたの?」
弟子の呟きを拾った春麗が「何を当たり前のことを」と言わんばかりに、訊ねていた。
「いやさぁ。こんだけ探求者がいるっていうのに誤射とか魔法巻き込みとかが一切ない」
「当たり前でしょ。巻き込まないようにみんな動いているんだもの。そうでないとベテランなんて言えないわ。それを言う裕里だって、私達以外の魔法も考慮して動いているじゃない」
「ところがどっこい。俺はそこまで気にして動いてるわけじゃないんだな」
「……裕里は無意識なのね。そこまで育てたマスターが凄いわ」
「え!? 俺何かしてる?」
気づかぬは本人のみ。春麗はマスターを褒めるが、マスターは何もしていない。やったのはマスターの亡き妻である。おそらく探求者になる前から仕込んでいたと思われる。
「……素晴らしい女傑だね」
「クリフさん、何を当たり前のことを。妻を口説くのに一年かけましたから」
あっさりとマスターが惚気れば、クリフがご馳走様、そう言って呆れていた。
この緊迫した空気の中でのほほんと話していていいのか、そうサブマスターが言いたくなったが、周りを見ればどこも一緒。これだから高ランクのベテランは。思わずそうぼやいた。
隠し通路を閉じて、一応救出に向かえば、ギルドマスターと依頼人は瀕死の状態で生きていた。これ幸いと誰かが二人を縄で縛り、受けから上級ポーションをぶっかけていた。
「ほい、一丁上がり」
「こいつらと一緒にいた生きてる探求者も捕らえた」
それを見た探求者は「こいつらか」と誰一人相手にしない。素行や態度の悪さで有名な札付きである。
「おそらくですが、ギルドマスターからポーションが安く流れたんだろ。そして、この大暴走を何とかすれば国際探求者になれるとでも思ったんじゃね」
誰かがそんなことを言っていた。それで間違いはないはずである。何せ国際ランク持ちに「運だけで成り上がりやがって」と突っかかっていたのだ。
「日本語しか出来ないあたりでアウトだと思うんだけど」
この中で数少ない日本探求者の弟子が、ぼそりと言う。
「それ以前の問題よ。だって国際探求者の求める技量と知識がないもの」
一緒に一度試験を受けたという春麗が駄目だしをする。その言葉に全員が頷いた。
弟子こと裕里君はある意味英才教育を受けておりました。魔獣の狩り方、解体の仕方、そして危機察知方法。当然その中には補助する仲間を邪魔しないことも含まれております。勿論それを教え込んだのはマスターの奥様です。ある意味最強