それぞれの茶の好み
いつもありがとうございます。
予想以上に根気強くお待ちだったようで。そう思ったのだが、違った。
来たのは探求者ギルド日本支部の皆さんだった。
「さすがにここまで汚職にまみれた場所で、一週間以上も音沙汰がないとね」
すべての探求者ギルドを統括する本部からまで、人が派遣されていたのには驚きである。
「今までにない大暴走ですので、慎重に慎重を重ねた方がいいかと」
「それもそうか。ギルドが出来て以来、ここの大暴走は軽いのばかりだからね。よほど大人しい主なのかもしれないね」
サブマスターの一言に、あっさりと日本支部の皆さんが納得していた。そしてありがたいことに、結界石から食料、着替えに至るまで支援物資も一緒に持ってきてくれた。
そのために本部から派遣されたという探求者。闇属性の精霊に大変好かれたエルフで、マイニの知り合いだった。そして、「無限収納」の能力持ちだという。阿形と吽形の能力を一緒にしたものだというのはよくわかっていたのだが。
「こっちのバッグに汚れた服いれて。五分後に綺麗になって出てくるから」
どうやら水属性とも相性がいいようで、今までの服がすべて綺麗になった。大変ありがたいことである。
こうなると風呂を望むのが日本人の性だが、それを口に出すお馬鹿はここにはいない。マスターを含め「風呂入りたい」と思っているものの、黙って身体を拭くだけである。
「うまくいくと温泉が湧いていたりするんですがねぇ」
「さすがにこの階層じゃ無理だね」
などと弟子と話していたマスターだった。
「あんたら日本人の風呂好きは異常だよね、ある意味」
ウーゴが呆れたように呟いていた。
今までのマッピング情報を渡すとともに、毎日定時で連絡が入れれるよう、何人かの支部職員が残り、他はあっという間に撤収していった。
これ以上数が多くてもどうしようもない、というのは分かっていただけたようだ。
物資も入ったことだし、少しスピードを上げるチームと、今まで通りのんびりと動くチームに分ける。これは、大暴走時における鉄則でもある。
退路を分断されにくくするためだ。
「さて、休憩にしましょう。弟子には薬草茶にするとして、他は?」
「あ、cappuccinoで」
「そちらはウーゴさんご自身が淹れてください」
「俺はエスプレッソ」
「そちらもウーゴさんへ」
「ルイボスティを」
「ミントティで」
「アッサム使ってチャイを」
「ほうじ茶で」
「あ、私青茶で」
この一週間で色々覚えた探求者たちは、ウーゴを皮切りに各々が好き勝手言い始めた。
それをすべて聞いて淹れるのがマスターである。今までマスターのお茶うんちくに付き合ってくれたのだ。それくらいはサービスである。勿論、店に来たら「探求者割引」をしたお値段で淹れたり売ったりするが。
「ねね、マスター。私緑茶」
遠慮がちに春麗が言う。春麗の言う「緑茶」は「中国緑茶」のことだ。日本の緑茶と違い、水色も薄く、渋味も少ないのが特徴だ。そして「青茶」。日本では「烏龍茶」がよく知られている。ここにいる探求者の半分くらいが色合いに驚いていたのはいい思い出だ。
アッサムは言わずもがな。インドのアッサム地方で生産される茶葉の総称だ。ミルクティとして飲まれることの多い茶葉で、CTC製法で製茶されたものがよく出回っている。こちらはチャイに使われることが多い。この場合のチャイはミルクをたっぷりと使った俗にいう「マサーラ・チャイ」のことだ。
ここでうんちくを語りだすと色々大変なので、心の中で言うに留めて、黙々と茶を淹れていく。
その場にいた全員に飲み物がいきわたる頃に、ドライフルーツが出され、全員がまったりとし始めた。約一名、薬草茶を問答無用で飲まされている弟子をのぞいて。
CTC製法……Crush Tear Curlのこと。Crush、Tear、Curlの略。顆粒のように丸まった茶葉を作るための製法。機械を使って茶葉を細かくして丸めたもので、お湯に触れる表面積が大きいため、色や渋味の抽出が早くなる。
CTC製法に主に使われるのがアッサムやケニヤなど、渋味が強いものである事が多い