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茶師のポーション~探求編~  作者: 神無 乃愛
富士樹海迷宮編
13/25

迷宮でやるべきこと

いつもありがとうございます。


 第一層目に降りると、調査パーティの殆どが休息場所(セーフティゾーン)の設置を始めた。

 本来であれば、数層降りてからするが、現在は大暴走中。ゆっくり進むのが吉だと、ベテランは知っている。


 休息場所の設置は、探求者にとって命綱のようなもの。どれくらいの規模で、どれくらいの期間を保たせるか、というのが大事になる。

 今回は中で寝泊まりと食事ができるスペースで二日。そう弟子たちのパーティが決めたように、他のパーティも似たようなものだった。

 この休息場所、作るためには「結界石」が必要となる。結界石は大半が迷宮から採取できるが、品質や大きさにばらつきがある。弱く小さい石だと、一人が立って休む大きさで一時間程度しか保たない。ただ、そういう石でも複数個使えば時間を延ばしたり、休息するスペースを広くしたりも出来る。

 結界石は採取の他、探求者ギルドでも販売している。それを己が計画した迷宮攻略に合わせて最初に購入する。ギルド主体の緊急調査ではギルドが一部負担を、指名依頼や一般からの依頼で迷宮に潜る場合は、報酬の一部に結界石分の金が上乗せされる。これは国際規約でも決まっており、違反した場合はギルドも探求者も依頼人も罰せられる。個人の採取で潜った場合は全額個人負担だ。


 今回はギルド主体の調査に分類されるため、本来ならギルド負担で結界石が配られるはずだった。……のだが、屑石のためまともに作動するとは思えなかった。サブマスターが慌てて用意させていたが、職員たちは不服そうだった。「これからもっと金がかかるし、いつまでかかるか分からないものに、そこまで金を出せない」とほざいた職員に、サブマスターの雷が落ちていた。

 それをしっかりと見られても、ギルドマスターが何とかしてくれると思っているお花畑には、後程痛い目に合ってもらおう。その場にいた探求者たちの一致した意見だった。



 とりあえず溢れていた魔獣たちを駆逐していくのは、現役の探求者。マスターはお休みである。いそいそと脇に生える薬草類を確認していく。

「ウーゴさん」

 休憩に来たはずのウーゴに助けを借りた。

「……こりゃまずいタイプの大暴走だ」

 以前からこの地に生える薬草を知っているマスターと、大暴走迷宮を数多く見てきた二人だからこそ、すぐにわかるというものだ。

 大抵、大暴走が起きると、迷宮内の魔獣が凶暴化する。それはよく知られたことだが、薬草にも、大暴走前と比べて大きさが変わったくらいなら可愛い程度の差が生じるのだ。時には、今まで薬草の群生地だったところが毒草の群生地に。薬草の薬効が変化してしまうこともある。大変なのが、「霊草」に分類される薬草が軒並み消滅するか、毒へと変化するというものだ。

 今回はそれの一歩手前、ということはマイニにも聞いた方が早いかもしれない。


 ウーゴがこくんと頷くと、すぐに離れた。

「悪い、俺たちは一時撤退!」

 他のパーティにも分かるよう、大声をあげていた。


「これはまずいね。出来れば最下層まで行きたいところだけど、この装備と薬じゃ無理ね」

 さすがエルフ。すぐに状況が飲み込めたらしい。

「困りましたね。薬草がほとんどないのですよ」

 あればいくらでもポーションを作るのだが。水は、一応サブマスターの部屋でくんできたものがある。あそこの水は、富士樹海の地下水だ。直接源泉から取ったものに比べて多少劣るが、この際は仕方ない。

「あ、あちらのパーティ、浄化魔法持ちがいる。優先して水と薬草、それから食料関係にかけてくれるって」

 弟子が、どこと交渉したのか分からないが、いきなり言い出した。

「師匠は知らないだろうけど、俺が馬鹿して置いてかれたときに、少しの間一緒に動いた人なんだ」

 浄化魔法ばかりに頼り切って、一般の探求者を馬鹿にしていたらしいが、その時の師匠に、マスターがしたのと同じように置いていかれたらしい。似たようなことを考える方もいるものだ、とマスターは思った。

「まさか、ここで裕里に会えると思わなかったよ」

「うん。俺も。てか、日本語上手いよね。あの時話せなかったよね!?」

「覚えたさ。裕里が日本人だって知ったからね。裕里は?」

「俺は日本語だけです」

 わははは、と二人が場に不似合いな笑い声をあげていた。


 弟子にあって、マスターにないもの。それが、この人を引き寄せる能力だ。マスターはある種の才能だと思っている。

 当時双方ともに言葉の壁に苦しんだだろうが、それでも意思疎通をして、協力できるというのは、すごいことなのだ。それを弟子は知らない。


 そして、ブルーノと名乗った、浄化魔法使いが対価として要求したのは、弟子の料理とマスターが淹れる食後のお茶だった。


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