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最果ての村

 百年の恋も冷めるとはこのことか。


 見慣れぬ木目調の天井がなんというか最近しっくり来るようになっていた。

 リエルとの出会いから二日が過ぎようとしていた。

 この数日はいろんな事があったせいで長いようで短かったような。

 異世界の生活にも幾分か慣れてきたが、


「……眠れない」


 俺は現在、睡眠不足に陥っていた。平均睡眠時間は約二時間と言ったところだろうか。

 原因は不慣れな生活そう言いたいのだが……。

 しかし、


 

「ぐがぁー! ぐーががぁ! ぐがぁ!」


 隣の部屋から響き渡る騒音。

 おそらくこれである。


 騒音の犯人それは言わずもがな。例のエルフである。

 エルフは呼吸器系に何か重大な疾患でも抱えているのだろうか。

 事の発端はグローリエルことリエルと同棲する事になったことだ。


 年頃の少女と同棲なんて、邪な考えが脳裏をよぎるかもしれないが、現実はそんなに甘くはなかった。


 俺はリエルとの出会いの後、保護されるような形で人里にたどり着いた。

 人里の名前はミンスター村。


 村の総人口は約百人程度の田舎である。

 生活レベルはおそらく中世ヨーロッパ並みと言ったところだろうか。

 地理的な要因で過疎化が進んでおり、若者は少ないとの事。

 若者の多くは近くの都市に出稼ぎに行くのだとか。この点は俺のいた日本と変わらない。

 


 地理的にこの村はオーティス連合王国に属するコイオス王国のアンブロシア地方という場所にあるらしい。


 オーティス連合王国は十二の王国が集結してできた連合国家であり、ミンスター村のあるアンブロシア地方はコイオス王国という国家が治める土地ということだ。


 もっとも、アンブロシア地方は三分の二が山岳地帯であり、農耕面積が少なく又気候的に冬が長いことから食糧事情はかなり苦しいらしい。


 ミンスター村もその例に漏れず、山岳の一集落である。

 さらにオーティス連合王国全体からすると最南部の山岳地帯にあり、ミンスター村以南はその寒さから生存不可領域と呼ばれ人は住んでない。

 まさに最果ての村だ。


 ふむ、よくよく考えてみると、このミンスター村は惑星の極点に近いのかもしれない。

 南に近づけば近づくほど寒くなると言うのは南極が近いということではないのだろうか。


 この村に来てから積もる程ではないがポツポツと雪が降り出していた。

 日増しに強まっていく雪の降り方は本格的な冬の到来を予見させる。

 リエル曰く後一月経過したら、家から出れない程雪が積もるという。

 いきなり戦乱の世の中にぶち込まれなくて幸いといったとこか。

 近隣では主だった戦争などは起きていない。

 凌ぐのは冬将軍ただ一人なのだから。

 

 まぁ、そんな秘境にミンスター村はあるのだ。

 若者が離れていくのは無理もない。

 村の主要産業は狩猟と農業。

 もっとも、山岳地帯だという事で作れる農作物に限りがあり、狩猟の方に赴きが置かれている。


 特に今は雪が降ってしまったので、村の女性陣は長期保存食品の作成、男性陣は森での狩りに勤しんでいる。

 狩場の森はもちろん、俺が初めてこの世界に降り立った森。

 通称『迷いの森』。由来は人のみならず獣すら迷い誰も踏破することが出来ないからとの事だ。

 異世界人すら迷い込むのだ。

 もしかしたら、あの森には何らかの不思議な力があるのかもしれない。


 ちなみにリエルはその森の『森番』という文字通り森の番人をやっているとの事だ。

 エルフと言えば森。そんなイメージがあるが、実際何故やっているのか本人に聞いてみたところ。

 慣習みたいなものというだけでどこかはぐらかされたようだった。


 何かあるのだろうか。


 『森番』の具体的な仕事としては、狩猟に使うであろう獣道の整備と森に入る者の管理だそう。

 仕事の影響かリエルが住む家は森の入り口のすぐ近く。

 村の集落がある場所からは少し離れた場所ある。

 ログハウスのような丸太を積み重ねたような家だ。

 当面の間はこの家に厄介になることが決定している。

 なにせ、この世界の金銭を持ち合わせてないだけでなく、人のツテさえもないのだ。


 リエルの方は、

「一緒に住めばいい。 部屋は余ってる。 何か問題?」

 と住む事を快く許可してくれたのだ。


 まぁ、彼女の表情はどこか読めないところがあるので本心ではどう思っているのかわからないが。

 住居だけでなく食事や衣服の面倒も見てくれるとの事。


 正直、なんでそこまで面倒見がいいのか分からないが、ここは好意に甘えるしか無い。

 村から近隣の大きな町までは徒歩で一週間。しかし、行ったところで何ができるというのだろうか。

 どうやらこの世界には冒険者とかギルドとかは無く、日雇いの仕事は誰かの紹介がなければ出来ない。

 現実はシビアである。


 まぁ、でもやったね。これで夢のヒモ生活だ。しかも美少女に養われるなんて!

 なんて淡い希望を抱いていた時期が僕にもありました。


 まぁ、そんな麗しきエルフとの心踊る同棲が始まったわけではあるが、昔こんな話を聞いたことがある。

 彼女と同棲すると彼女の嫌な所がやけに目立ち、終いには別れることになるのだと。

 それを自慢げに話す奴がいけ好かない奴だったから覚えている。

 彼女の居ない俺には無縁の話ではあったが、今はその意味が痛いほどよく分かる。

 殴って悪かったな鈴木。


 私はここに宣言する!

 彼女、グローリエル・フォン・リーネルトは駄エルフであると!


 ウキウキ、ワキワキの同棲生活ではあるが困難はまず初日から降り掛かったのだ。


 初日だという事もあり、リエルが夕食の準備をしてくれたのだが、それはそうまさに残念という表現が一番しっくりくるだろうか。

 切る、焼く又は煮る、そして塩をかける。


 オーケー、素材の味を生かした料理なんだな、と意気込み俺を襲ってきた狼のような獣の肉料理を食べたところ、その後数分間の記憶が無い。

 流石に女性の作ったものは不味くても完食して、とりあえず美味しいと言う主義の俺でも食べる事が出来ないレベルだ。


 彼女が作ったのはいわゆるジビエ料理という奴だろう。

 動物の尊い生命を奪う代わりに肉から内臓等全ての部位を余すことなく料理に使い、生命に感謝を捧げようという精神があるとしても、これは感謝しすぎなのではないだろうか。


 しかし、あの狼のような獣の肉はアンモニア臭がキツすぎてシンプルな味付けで食べるのには向いていない。これは断言できる。

 最低限の香辛料スパイスは必要だった。


 まぁ、中世ヨーロッパでは香辛料は高価なものだったと聞いているし、この最果ての村では入手困難な可能性がある。

 香辛料を使え!なんて居候の分際の俺が主張できるはずも無かったのだが、


「おっ、香辛料スパイスかい? 今回はペリフェスの方からいいのが入ってるんだよ。 持ってくかい?」


 売っていた。

 翌日、月に一度村に来るという行商人がたまたま居たので香辛料について聞いてみたところ、まさかのまさか売っていた。

 いやいや、さぞお高いんでしょう?


「んー、まぁここまでの輸送費はあるから街より高いのは勘弁してくれよな。 価格はそうだな、こいつがひと束で鉄貨二枚かな」


 安い。奥さんお買い得ですよ!


 鉄貨というのはこの国での通貨だ。リエルによると都市部の安い食堂で一食銅貨一枚、鉄貨換算で約十枚。

日本円で食堂のランチを六百円くらいと想定するとこの香辛料(スパイス)は百二十円くらいか。

山岳部までの輸送費を考えると安いと言えるだろう。

山で売ってるようなものは基本高いのだ。

 物の正体はおそらく唐辛子だろう。やや黄みがかっているが、形は唐辛子そのもの。

 匂いを嗅ぐとツーンと鼻が痺れるような香りがし、涙が溢れてくる。

 間違いない。これは唐辛子だ。


「まぁ、こいつは町からここまでの道程に結構生えてるからな。 他の商品を買うならおまけしてやってもいいぞ」


 おいおい、生えているのかよ。

 場所を教えてくれれば次回から取りに行くというのに。


 まぁ、最果ての村だということで品揃えはあまり無いのだが、最低限の胡椒やシナモンの匂いがする草や枝のようなものは揃っていたのでよしとするか。

 それらの商品をわざとらしく目を輝かせて見ているとリエルがため息をつきながら、


「予算は銀貨一枚。 ……それ以上は認められない」


 そう言って、銀貨を俺に渡すリエル。

 期待は裏切りませんぜ、へへっ。

 前日のあの料理である。罪悪感は無かった。

 あぁ、こうやって俺はヒモになっていくのかもしれない。


 行商人から銀貨一枚で買えるだけ買った俺はその日の昼間から台所を占拠し始めた。

 生きるために。伊達に五年以上も自炊して生きてきたわけではない。


「……とりあえず、肉と果実酒があれば死ぬことが無い」


 そんなどこかのワイルドな海賊みたいな事を言い出すリエルに調理を任せていたら死んでしまう。


 その日の夕方から、俺達の食事事情は大幅に改善されたことは言わずもがなである。

 一つ気がかりであった、人とエルフの味覚の差もあまりなかった事が幸いか。

 昨日狩った狼のような獣、どうやら四つ目狼というらしい獣のシチューがリエルには大変好評だったようで、また作れと何度もせがまれていた。

 ビーフシチュー風に煮込んだのがお気に召したようだ。


 まぁ、食事事情については俺の介入によって大幅に改善される事になったのだが、目下の問題は現在進行形中のリエルのいびきである。


「ぐがぁー! ぐーががぁ! ぐがぁ! ぐぼっ……」


 おい、今の大丈夫か。なんか致命的な一発が入ったぽいぞ。

 なんて心配するも、またすぐに先ほどと同じ調べを奏で出す駄エルフ。

 もう、これどうにかならないかなぁ。


 俺の寝室はリエルとの隣室となっているため、音の響きがダイレクトに伝わるのだ。

 この世界には防音壁なんてのは無さそうだし、この家には今俺がいる部屋以外に寝室は無い。

 要するにこの騒音からの逃げ場はないのだ。

 最初は、

「なんだ同室じゃないのか……ちっ!」

 などと思っていたのだが、その選択は正解である。

 今では神に感謝をしたいくらいである。

 もっとも、それは聞かれていたのか、

「じゃあ、一緒に寝る?」

 なんて無防備な回答するもんだから、慌てて否定してまった。

 正直、女性経験のほとんど無い俺にとっては刺激が強すぎた。


 時刻は午前五時。元の世界から持って来れた唯一の文明の利器である腕時計が時刻を示す。

 この世界との時差がどのくらいかは分からないが、なんとなくではあるが時刻をこの世界というか地域に合わせてみた。

 もちろん、この世界には時計なんてものはない。

 だから、正確さは期待はできないが無いよりはマシだろう。

 まぁ、そんなことは今はどうでもいい。

 今は眠いが眠れない。


 それに名誉の負傷、ではなく不名誉の負傷した両腕が疼くのだ。

 コートやサンタ服など二重に服を着ていた事が幸いしたのか、傷はそこまで深くは無かった。

 傷は既に塞がっており、煮沸した湯で患部を毎日キレイに拭いていることが影響したのか熱を出すようなこともなく、破傷風の危険の可能性も低かった。


「……朝食でも作るか……」


 昨日から外は雪が降り続いており、明け方の寒さはベッドのぬくもりを恋しくさせるが、眠るに眠れないこの現状。

 無駄に時間を浪費するよりも何か生産的な事に費やすべきであろう。

 ミンスター村の住人の生活環境を考えると、この世界の文明レベルはおそらく中世ヨーロッパ。

 それも初期の方であると思われる。


 もっとも、魔法が存在する世界なので一様には解することはできないが。

 それでも、生活環境を向上させるためにはまず、自分で何か作らなければならない。

 やること、やれることは多い。


 肌を切るようなひりつくような寒さにこらえながら、まずリビングの暖炉に火を入れる。

 リエルが起きていれば火属性の魔法とやらで一発なのだが、生憎、魔法が使えない俺は何年も使われずに放置されてきた火打ち石を利用しなければならない。

 これがまた面倒であり、コツがいる。 

 改めてライターの素晴らしさを実感するものである。


 ちなみにリエルは朝に弱い。

 いびきをかく人は呼吸が浅いため睡眠の質が低く、ロングスリーパーになりやすいというが、リエルも例に漏れずと言ったとこか。

 俺自身も朝はそこまで強くはないのだが、彼女のは異常だといえる。

 大体十二時間程度は寝るだろうか。

 起きてくるのはいつも昼である。


 カラン、やっとのことで暖炉の木くずに火を点火できた頃、玄関で乾いた木が床に落ちるような音がした。

 おそらく、木札だ。

 朝が早いことを配慮したのか、それともリエルが起きないことを見越したのか。

 その札の持ち主は俺が玄関のドアを開けた時には、ちらっと後ろ姿が見えるくらいで直ぐに森の暗闇に溶け込んでいった。

 見えたのは薄茶色の長い髪。ふわっとしたくせ毛をポニーテールしたその姿は村では特徴的であった。


「確か……ミアとか言ったけ」


 村で唯一ある宿屋の娘である。

 宿泊客がいる時は早朝に森へ山菜を取りによく行くんだそうだ。

 村の近くならば、獣はそう多くなく比較的安全だということで女子供でも一人とかで山菜を取りに行くそうな。


 彼女が玄関前に置いていった木札を取り上げ、玄関の内側に立てかけてある棚にそれを入れる。

 これは一種の利用者表である。

 木札には自分の名前が書かれており、森に入る時は森番の家にそれを置いていく。

 森を今誰が利用しているのか把握するためのものだ。

 森から戻って来るときには再び森番の家に行き、木札を返してもらう。

 これで森に行った者の安否確認をができ、一日で戻らない場合には村で捜索隊を結成して助けに向かうのだとか。

 中々合理的なシステムである。

 ん?そういえば俺は、


「意味はわかるんだけどなぁ……」


 スペルが気になる。これもアイテール訛りのせいだろうか。

 大まかな意味は分かるが文字の配列がなんか違う。

 先程の木札を棚から取り出し、読んでみる。


「ミア・フローエ……採取」


 読める。だが、何か違和感。

 読めなくは無いが慣れてないと読み難い。

 まぁ、読めるだけマシだと言える。


 さらに驚くべきことに文字も書けるのだ。もちろんアイテール訛りというヤツではあるが。

 リエル曰く、魔術で翻訳されているわけでは無いという事。


 一体、転移した時に何があったのだろうか。

 記憶が無いだけでこの世界の女神とかに会って翻訳スキルでも貰ったのだろうか。

 まぁ、今は生きることが精一杯だし、この世界に来て日が浅い。

 働かざる者食うべからず。一応、リエルにそう脅されている手前、今は目の前のことを一つ一つ片付けて行くしか無い。


「先ずはこれをどうにかしないとな」


 目の前には肉の塊。一晩薬草をまぶして放置したものだ。

 香辛料を購入しに言った際に出会った宿屋の女将さんから教えてもらった臭みをとる方法。

 先ずはこの家の食生活を改善するとしよう。

 それにしてもあのエルフ……良く生きてこれたな今まで。


ーーーーーーーーーー


「で、お前、異世界人だというのになんで俺らの言葉話せるんだ?」


 それは単純な疑問であり、究極の疑問でもあった。

 ここは村の集会所である。昔、この村に別荘地を持っていた物好きな貴族の館を改良したものである。

 木造住宅ではあるがそれなりにしっかりしており五十人ほどが収容できる作りになっていた。


 現在、冬季最期の狩猟を終えたことの打ち上げ兼新しく村の仲間入りした俺の歓迎会が行われている。

 お前、どこのよそ者だ!オラ達の村から出て行け!

 なんて反応に怯えていたが、実際のところ過疎化に悩む厳冬集落においては若者の入植者は逆に歓迎されるものらしい。


 まぁ、単純に村の労働力という側面もあるだろうが。

 しかし、ミンスター村がそれなりに貧しいとはいえ狩猟が盛んなお陰で食うに困ってないという点が救いだったのだろう。

 普通に考えて、中世であれば冬が越せない可能性があれば口減らしをするような事がありうるのだ。

 自らの幸運に感謝しなければならない。


「んーー」


 言葉に詰まる。なんて言ったらいいのやら。

 リエルには村人達には包み隠さず異世界人と言ううように勧められていたのだが……。

 なんかこの世界の言葉を覚えているんですー、なんて答えにはなっていないだろう。


「いや、だってそうだろ。 違う国や違う大陸行けば、言葉は違うじゃねえか。 それが、異世界とかだったら尚更だろ?」


 まさに正論だ。

 異世界人であることは既に周知だった。

 狭い村である事を考えると隠し事は後々禍根を残す可能性もあるし、そもそもここは魔法のある異世界、転移魔術に巻き込まれたと言えば納得してもらえるのだ魔法をよく知らない一般人には、と考えた俺はリエルの勧めに従っていた。


 しかし、具体的に突っ込まれるとどう説明すればいいのやら……。


「……えーと、確かに」


「まぁ、俺たちからするとちょっと上品な言葉遣いってぐらいしか違いがねぇからな」


「……上品?」


「まるで貴族様が話してる言葉に近ぇかな」


「そうなのか、あまり自覚は無いんだけど。 まぁ知ってるのがこの言葉しかないからなぁ」


「それにしてもアイテール訛りとはな」


「……ギーズ、アイテールに行ったことあるの?」


 俺の隣で地元産の果実酒を口にしていたリエルが口を挟む。

 相手は先程まで俺と会話していた筋骨隆々の男。


 名をギーズ・バボラーク。元傭兵だとの事。

 この村には喘息持ちの妻のため、空気が良い所を探していて訪れたところ最果ての村ではあるが案外住みやすく気に入ったとの事で定住することになったらしい。

 まぁ、ある意味この村からすると余所者である点は俺と変わらない。

 だから、気にかけてこうやって話しかけてきてくれたのだろう。


「ああ、あの国は年がら年中紛争が起きててな、傭兵家業は盛んな地域だ。俺も数年前まであの国の傭兵団に入っていた」


「……そう」


「ところでリエル。 お前この男と一緒になるのか?」


「……一緒?」


「一緒に住んでるんだろ? お前もそろそろいい年なんというだから子供の一人や二人持ってもいいんじゃないか?」


「……さぁ?」


 チラリと無表情で俺の様子を伺うリエル。

 えぇ、俺なの。俺が判断しろと!?


 そんな事俺に一任しちゃっていいの?

 それに子供を作るとか人生でかなり重要な決断ですよ!

 ももも、もしかして試されているとか?


「で、どうなんだお前さんの方は?」


 ギーズが下卑た笑みで迫ってくる。

 こいつはこういうゴシップみたいなのが好きそうだ。


 ていうか、さっきの俺の異世界人なのにこの世界の言語が話せるって話はどうなったんだ!?

 まぁ、歓迎会も宴もたけなわ、酔っぱらいの会話に意味なんて無いわけでーーー


「おお、俺? いやーやぶさかではないと言うか……今はそれどころじゃないというか……」


 我ながら何とも煮え切らない反応である。

 とりあえず、この話もどこかで有耶無耶になるのだろう。

 だが、その反応をギーズは笑いながらもどこか期待通りといった表情をしていた。


「お前、相手はいないんだろ?」


 童貞臭でも漂っていたのだろうか。


「確かに……いないけど……だな。 こういうのは時間をかけてゆっくりとーーー」


 俺の言葉が完全に紡ぎ出される前に、既にギーズが笑顔で俺の背中を力強く叩きながら言い放った。


「そうか、そうか! じゃあ、こいつにはミアでもあてがうか」


 それは唐突だった。

 あれ?今はリエルとの話ではなかったのか。

 ミアって確かこの村の宿屋の娘だろ。

 いきなりなんで……。


「ギーズさん。 それはいいアイディアかもしれませんが、今日は行商人が来てるためフローエ夫妻も来てないですし後日、本人を交えての方がよいでしょう」


 まだ、四十代後半の若い村長が更に話を進める。

 線が細く白髪頭でぱっと見た感じ貧弱そうな印象を受ける。


 もっとも、物腰が柔らかく常に落ち着いた表情をしているその姿は筋骨隆々の村の男達と比べて幾分か知的に見える。

 これではまるでリエルが噛ませ、ミアをあてがうのが既定路線のような話振りだ。

 隣に座るリエルも訝しんでいる。

どこかその瞳は氷のように冷たく感じさせた。


 彼らは俺に何をさせようとしているのだろうか。

 少なくともギーズと村長は何らかの共通認識を得ている。


「確かにな……そろそろ冬が本格化する。 その前になんとかしてやりたいな」


「えぇ、私もそう思います。 この村には彼女と釣り合うような人はそうそういませんから、それでいいですね? レイリーさん」


 この決定に有無は言わせない。

 そういう圧力を村長だけではない、ギーズからも感じ得た。

 彼らは俺を使って何をしようとしているのだろうか。

 これは酒の席での単なるバカ話ではない、ギーズも村長も目が真剣だった。


 彼らは俺を使って何をしようとしているのだろう。

 単に若者をこの村に縛り付ける……そんな思惑を超えた何かがあるように思える。


 もしかしたら俺はとんでもない村に迷い込んでしまったのではないだろうか。

 隣に座るリエルは無表情ながらもどこか居心地が悪そうだった。

 返答に窮していると、それを見越したギーズが酒を勧めてくる。


「がはははっ! まぁ、いいから飲め飲め! 今日は無礼講だ!」


 無礼講とはなんだろうか。

 年齢のことだろうか。この村にはそれぐらいしか他人と比べるものはない。

 ここにいるのは皆、平民。

 彼のその一言がどうしても不安だった。



登場人物紹介


レイリ・ササキ……


グローリエル・フォン・リーネルト……呼吸器系に重大な疾患のあるエルフ。



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