第三章 カチコミ! ナイトレディ!
太陽が完全に落ちた夜。人工の光に照らされた街を俺は歩いていた。
この間、不良達と大立ち回りをしたばかりで、ここら辺をうろつくのは危険かとも思ったが、まあ多分大丈夫だと思う。今までだってそうしてきたしな……。
ここら辺は夜になると完全に歓楽街となる。道にはキャバクラの客引きがうろつき、店の前を通れば店の女が片言の日本語で話しかけてくる。
俺はそんな喧騒に包まれたこの街が嫌いじゃない。家に居ると無趣味な俺はどうしても時間を持て余してしまう。
だからバイトの無い日は大抵ぶらぶらと無目的に歩いている。
そんな事を考えながら歩いてると、正面から夜遊びをしているギャル風の集団が歩いてく。派手な服装に身を包み、大声でぎゃあぎゃあ喋っている。
水島とは大違いだなぁ……俺が大人しい同級生の顔を思い浮かべながら、すれ違った時だった。
「あははは! 見た? さっきの奴。すげえ格好してたよな?」
「見た見た! あれコスプレって奴? 超秋葉系じゃん。撮影かな?」
「違うっしょ、ていうか何あれ? なんかのヒーロー? 昔見た気がするわぁ~」
「そうそう! どっかで見た事あんだよ~。何だっけ? え~と何とかレディだわ。何とかレディ」
「オフィスレディじゃね?」
「そうだそうだ! オフィスレディだ! いや~すっきりしたわ~」
納得した様に手を叩きながら、ギャル達は去っていた……ていうかヒーローでオフィスレディはねえだろ……。
というか、ギャル達の話していた奴の容姿、何とかレディと言う言葉に、俺は猛烈にある人物の事を思い出していた。忘れようにも忘れらない。変人の事を。
俺はギャル達が歩いて来た方向に向かって走り出した。なぜ走ったのかは分からない。だがまあ、取り敢えずもう一度ナイトレディに会ってみようと思った。
こんな時間に走る俺の姿をすれ違う奴等が眼で追う。だが、その視線を気にせず、ただただ無心にナイトレディを探した。
探し始めてしばらくして、俺は人気の無い路地裏で見覚えのあるシルエットを見つけた。
目立つコスチュームに身を包んだ女の子。間違える訳が無い。確実にナイトレディだ。そして、その足元には気絶して倒れている男の姿がある。
「おい! ナイトレディ!」
俺はポーズを決めていたナイトレディに呼びかける。
「お? 少年じゃないか! どうした? 私の雄姿を見に来たのか?」
するとナイトレディは決めポーズを解いて俺の方に小走りしてきた。
「誰が少年だ……俺には柊って名前がある。変な呼び方するんじゃねえ。後、雄姿を見に来たわけじゃない」
俺は視線を倒れている男に移した。
「ところで、こいつはどうしたんだ? お前がやったのか?」
俺が聞くと、ナイトレディはうんうんと満足そうに頷いた。
「おお、そうだった、そうだった。さっき、この男が女の子をここに連れ込んでるのを発見したのだ。だから私が倒したのだ」
何とも単純明快な説明である。だが、話はこれだけで終わらないらしい。ナイトレディは良い事を教えてやろうとばかりに俺に顔を近付けて来た。
「そしたらな、柊。こいつが倒される前に、面白い事を言い出したのだ」
「……ん? 何だ?」
取り敢えず話したそうなので聞いてやる。
「ふふ、聞いて驚くなよ。何とこの男、悪の組織の一員らしいのだ。俺を倒せば組織の者が黙ってないと言っていた」
ナイトレディの説明に熱が籠る。悪の組織……倒れている奴の恰好からすると、ヤンキーのグループの事か?
「何でもとても凶悪な組織らしい。だからな、柊。私は今日、その組織を倒そうと思うのだ」
倒そうと思うのだ……って、こいつが言うと全然現実味が湧かない。格好からしてふざけてる様にしか見えない。
「その男に組織の場所はちゃんと聞いてある。だから今から向かうのだが、柊。君に頼みたい事があるのだ!」
「……何だ?」
若干の不安を感じながら尋ねると、ナイトレディは俺の肩をがっと掴んだ。
「頼みたい事というのはな、柊。私の雄姿を見ていて貰いたいのだ! 折角巨悪を倒すのだから、一般人代表として、柊にこの聖戦を見届けて欲しいのだ!」
ほへぇ? 何言ってるんだ、こいつは……。
「そうと決まれば早速行くぞ! ほら、柊。私について来い!」
俺の返事を聞く事無く、俺の手首を掴んで引っ張っていくナイトレディ。俺はその理不尽なまでの勢いに圧倒されて、てくてくと阿呆の様に付いて行った。