冒険者の掟
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ……」
「無理だぁぁぁぁぁぁ……」
「すまない、許してくれ……」
「あぁぁ……ああ!! ああッ!」
薄暗い林の中で敗北者達(オジュール、ラリー、ガルン、ジュロー)への拷問は続いていた。
ここでムチ打ち――は開始されて無い。そこまで酷い拷問ではないが悲鳴から厳しく辛いモノだと理解出来る。
そんな容赦ない拷問を受けている場所に1人の男性が通りかかる――ガインだ。
ガルンは物陰から拷問の様子を見つめているガインを発見する。
「ガイン! ガイン! こっちに来てくれ。 そしてミレーダとリーンを説得してくれ!!」
悲痛な声でガルンは告げる、必死になっていた。それは――脚の上に7個以上の岩板が乗っているからだ。
ガインが近づくとガルンとジュローは安堵する。
しかし、どこか浮かない顔のままのガイン。
「に、兄ちゃん、言っておくけど助ける気は無いよ。ジュローも……。やった事に対しての責任は取らないとダメだ。それに『冒険者の掟』もある。ゴメン……。ミレーダ姉さん、リーン、あんまりやり過ぎないで下さい、それだけ言いたかった」
ガインはそう言ってミレーダとリーンに一礼する。
「わかってるよ、明日には支障を残さない程度に痛めつけるから」
「まかせて……」
2人はそこはかとなく綺麗な笑顔で了承する。
そして――ガインはそのまま反対方向に去っていった。
「兄を見捨てるのか、弟よォ―――――!!」
ガルンは心からの咆哮を去っていく弟に浴びせる。それは鼻水を垂らし、涙目でたいそう汚い表情をしていた。当然ジュローも。
違う方向から――1人の男性が姿を現した。ミックだ。
ミックは平然と近づいて拷問が行われている場所を通り過ぎようとする。
「ミィィィック!! ミィィィック!! たすけてぐれぇぇぇぇ」
ラリーは大声で仲間に助けを呼んだ。“三槍将”として数々の苦難を乗り越えた仲間として呼んだのだ。
ラリーの顔は必死そのもの、鼻水を垂らし、嗚咽をもらし、拷問が始まる前に『やあ、淑女のみんな、こんな無益な争いは止めようよ』、『顔が怖いぜ、ほら世界は平和で満ちている、君達のように可愛らしい顔で笑いかけてくれよ』等の気持ち悪い言葉を並べていた頃の面影は無い。
その事が原因で現在は脚の上に岩石板5枚が置かれている。
必死に呼ぶラリーにミックは溜息を吐いて近づいた。
「ミィィィック! ありがとう、助けてくれるのか……。さすが“三槍将”のリーダーだ……」
ラリーは感動して泣いている、が、当然痛みでも泣いていた。カスレ声でキュルンとした瞳でミックを見つめる。
「はじめまして。“十字槍”のミックです。では……」
そう一礼をして踵を返し去っていく。
最後に蔑むような目でラリーを一瞥していた。
「ミィィィィィィィィィィィック――――――――――――――!!!」
ラリーは悲痛な叫び声を上げた。
そう、ミックはラリーを突き放したのだ。“三槍将”ではありません、冒険者“十字槍”です。仲間はグレーだけでラリーという人物は知りません――と言っているようなモノだった。
森林の中をどこまでも悲しい声が反響していた。
暫くして――1人の男性が現れる。 それは翼陽の団、副団長“ヒュール”であった。
「ヒュゥゥゥゥルゥゥゥゥ、助けに来てくれたのか!!」
オジュールは最後に現れた救世主の名を叫ぶ。
オジュールの言葉に他の受刑者であるガルン、ラリー、ジュローも苦痛をこらえ顔を上げた。最後の希望でもあったヒュールの登場に沸き立つ一同。みなキュルンと可愛らしい小動物の瞳をヒュールに向けていた。
『僕達、痛めつけられているんです、助けてください』
見れば見るほど、その瞳が訴えてくる。
ヒュールは非常に嫌気がさした顔をして頭を掻きながら近づく。
「副団長、何か御用ですか?」
エフレスカがヒュールをギロリと睨みつける。
その横で、オジュールが「たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて……」とブツブツ呟くようにヒュールに直訴していた。
「いや、俺達もこれから水浴びに行こうかと思って道具を取りに寄っただけ、なにせ“ノゾキ”をするサルが出るそうだから気をつけないとな……。エフレスカ……『冒険者の掟』を忘れるなよ……」
ヒュールはどうでもいいようにエフレスカに言って、近くにいるオジュール達など眼中にないように去ろうとする。
「待ってくれ、ヒュール! 俺を、友を見捨てるのかぁぁぁぁ……」
オジュールは最後の力を振り絞って叫んだ。
その言葉にヒュールは立ち止り、振り返る。
「オジュール、1つだけ言っておく。こういう事態を招いた責任は誰であろうと取らなくてはならない。それに失敗したお前達が悪い。こういう場合には『冒険者の掟』が尊ばれる事くらい理解しているだろ。裁量権はオレにはないんだよ」
ヒュールも言う『冒険者の掟』とは――過去にこのような事態は数多く発生していた。男女で組む混成パーティでは起こりうる事態でもある。ある者は自制し踏みとどまるが……どの時代にも“バカ”という者は少数だが必ずいて、捕まる事もあった。その時にこのような問い詰めもあり、結果、激しい争いが起こる事もある。
ある時、ノゾキ班についてリーダーの処置で“オトガメ無し”の判決が下る。しかし不平等判決だとした女性陣たちはこう言った『明日は気をつけろ、後ろから狙ってやる』、そのように怨む言葉を吐き捨てた。そして翌日、強大な魔物を前に屈強な前衛は瓦解する。前日の女性陣の言葉が不安を煽り前と後ろ両方に気配を配らなくてはならないからだ。当時の女性陣は流石に冒険者として命がけの仕事をしている場面でそのような事をする事は無かったが、疑心暗鬼に陥った前衛の男達は罪悪感に苛まれ、結果として大怪我をするのだった。
その事を重く見た昔の冒険者達はある“掟”を創設する。
もし――のぞき行為が見つかった場合。捕まえた者をその日であれば死なない程度に拷問にかけ、憂さ晴らしをしても良い。ただし、任務に支障が出る程度は禁止する。殺す事も禁止する。その後の生活に支障が出る事も禁止する。裁量はのぞかれた者に任し、その冒険者の長たる者でもこの権利は犯せない。
そのような『冒険者の掟』があるのだった。
ヒュールは無言でその事を解れとオジュールに言っているようだった。
「じゃあな、頑張れ。エフレスカ……長くはやるなよ」
「はい、副団長。副団長達が帰ってくる頃には止めますから」
「あぁ、それだったら“ゆっくり”入ってくるよ。半時(=30分)程かけて……」
そういって、ヒュールは立ち去る。口笛を吹きながら素知らぬ態度で。
「「「「ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥル!!!!」」」」
最後に一斉にオジュール以下受刑者達が悲痛な声で名前を叫んだ。
1分が拷問を受けている者からすれば1時間に匹敵する。30分なんて到底耐えられそうに無かったからだ。
少し離れた場所で――サイリアは水浴び後に髪を梳かしている。
近くには木の幹にもたれかかりジョーが昼寝をしていた。その横に蛇腹刀も置いてあった。
「ねぇ、ジョー。午後の狩りは中止でしょ? 水浴びしてきたら……」
「あぁ……夜でもいいよ。このあたりはのぞきサルが出るそうだから」
「もう、汚いわよ。清潔、整理、整頓は冒険者以外でも気をつける事でしょ?」
「わかってるって、後でいくから……。サイリアも来てくれよ。のぞかないのであれば……」
「アホ、“のぞき”なんてしないわよ。あんな風に拷問されたく無いしね……」
サイリアが静かにすると木々の隙間から聴こえる苦痛に満ちた声が辺りに広がり、木々が揺れる音と共に消えていった。
今回の話でノゾキ編?は終わりです。
話の中核は冒険者内で起こりうる諍いをどういう裁量で止めるかという内容でした。アレです。決して女性の楽園を描きたいとかでは無いですよ――たぶん。
しかし、多くの集団であれば一定のルールが存在します。
この世界感では法律が国ごとに定められていますが、法案がどのように作られているか不明です。国会とかないでしょうから、その為に暗黙のルールが存在しますよっと教えているのです。
無秩序な世界――ケンシロウがいる世紀末ではありませんから……。




