モモガ村調査1日目
2016 8/21 改訂
翌日から、ジョー達は村の周辺の捜索を開始していた、周辺は少し奥に行くと木が生い茂っていて未開の地といった所だった、腐葉土の地面が、ここが人里離れた場所で在る事を証明していた。
ジョー達は昨日の内に村長にどこから魔物が来ているのか大体の方角を聞いていた。それを聞いて、まずはその方向から、森の調査を開始している、ある範囲を探し、そして移動していく事を繰り返していた。
そのまま森の奥を散策している、やはり、森の中は魔物の出現率が高く、非常に荒れていると言っていい状態だった。
「ぎゃうぅぅぅぅ」ゴブリンの断末魔が響く。
ジョーが横なぎ一閃で胴体を吹き飛ばしていた。
「これで何匹目だ」ジョーはサイリアに聞く。
「16匹目、結構いるわね」
「そうだな、…銀貨1枚と銅貨60枚しかやっていないのか」少し遠い目をするジョー。
サイリアの顔が曇っていた。
「ジョー、さすがにお金に換算するのは止めにしない?」
「何言っているんだ、サイリア、お金は大事じゃないか、それに魔物を倒さないと冒険者は、飯を食えないんだぞ」ジョーは真面目な顔になり忠告する。
「そうだけどさ、小鬼の命を銅貨10枚で例えるのは不味いんじゃない?」
「それを設定したギルドに文句を言うべきだな、それに魔物を倒しながらお金を数えるのは冒険者では常識だ」
そうだけど、そうじゃないんだよ、魔物を弔う気持ちが…――サイリアはそう考えている。
「サイリアの心配もわかるよ、ゴブリンが銅貨10枚は安いと思っているんだろ、もう少し高くしてくれてもいいのに」
ジョー違う、ずれているのよ…――そう思うが口には出さない事にしているサイリア。
サイリアはゴブリンの耳をナイフでそぎ落とすと袋に入れていく、こうした作業をするのはギルドに帰っての査定の証明の為だった、倒した魔物の一部を切り取り、袋に保存しておかないと、お金には換金出来ない事になっていた、一応のルールがあり、例えば、ゴブリンの場合は右耳をそぎ落とす事で討伐証明になっていた。
(※両耳ではかさばり、どちらかにしてしまうと1匹で2匹倒したと言う嘘の報告が出来る為、右耳が推奨されている)
「サイリア、お前何匹倒した」ジョーはゴブリンの死骸を集めながら、サイリアに聞いてみた。
「……4匹」サイリアは言い辛そうに、――もじもじ、と動きながら答えた。
「…サイリア、これまで16匹倒したよな、その内俺は12匹倒した事になる、そうだろ、単純にお前の3倍働いた事になるんだぞ、働いている時間は一緒なのに、な……」
そう皮肉を込めて言うジョーだった、彼女は身の置き場がない様に身体を小さくしていた。
「サイリア、お前は何時になったら魔術がまともに当たるんだ」
「……、うっさいわね、的当てだったら得意なのよ」
「動かない的当てだと、お前は百発百中だよな、なんで、実践では出来ない」
「動くからよ。」サイリアは拗ねた表情をする。
「………」ジョーは呆気にとられる。
(魔物が動くのは当然だろ、何を言っているんだ、サイリアよ、俺は心配だよ、お前の将来が)
「それに、私だって『爆発』を使えば余裕よ」
「…それは、山火事になるから止めてくれ、常識だろ」
「……そうだったわね、ごめん」ハッとする表情を浮かべたサイリア。
「それより、土精霊召喚してくれ、ここで、死骸を焼いときたい」
サイリアは、了解し、杖を出して、魔力を集中させている。
そのまま立ちながら暫く精神を集中させていた、そして……
「異界の門よ、開け、此処に契約を命じる、我を助け、力を与えよ、土精霊召喚。」
すると、サイリアの前の地面に60㎝魔法陣が出来あがる、そこから土が盛り上がり…
『ピルクッルゥゥゥゥ』
そう言いながら15㎝位の、土人形と言うべきモノが姿を現した、お腹が異常に膨らんで手足が短い、なんと言っても、顔が…子供が粘土作りで失敗した、のっぺらぼうの様な風貌だった、苔や葉が土精霊の服や髪の毛の様になっていたのが非常に残念な精霊が召喚された。
「か、可愛い、やっぱり可愛いわね、ジョーもそう思うでしょ」
サイリアは満面の笑みで聞いてくる。
「……あぁ」ジョーも同意するが――正直気持ち悪いと思っていた。
サイリアの使っていた精霊召喚は特殊と言っていい程、非常に稀な魔術だった、異世界という『精霊界』と術者を繋いで、力を借りる事が出来る、契約出来るのは、火精霊、水精霊、土精霊、風精霊、光精霊、闇精霊…等の精霊達と契約出来れば召喚できる。――
が非常にセンスが必要で、さらにその精霊と性格や相性が良くないと召喚出来ない。
他にも場所や、術者の魔力が少ないと失敗する。
しかし、精霊自体は非常に強力な存在である(系統は1つだが)、その為、呪文を唱えずとも系統魔術の行使が可能となり、補助もしてくれる。
召喚時間があるが、それは術者との相性次第となっていた。(平均5~8時間)
サイリアが現在召喚出来るのは、土精霊、風精霊、水精霊の3つだけだった。
(コイツを可愛いと言えるから、召喚出来るんだな)
ジョーは土精霊を可愛がるサイリアを見ながら思っていた。
「サイリア、土精霊に穴を掘るように頼んでくれ」
「わかった、じゃあ、よろしくね、ノンちゃん」
『ピユゥゥゥ』土精霊はそう鳴いた、――意味はわからないがサイリアには分かるみたいだった。
(ノンちゃん? もう愛称付けたの)――そう言いたいジョー、だが我慢する、下手に言って機嫌を損ねるよりはいいからだ。
急に地面がうねり始め、ボンっと直径3m程、深さ2m程の円形の大穴があいた、その周りに放射状に土が盛り上がっている。
「良く出来ました、偉い、偉い」そう言ってサイリアはノームを撫で廻す。
『プリュ、ピユゥゥ』――多分、嬉しそうな声を上げるノーム
(確実に、サイリアよりは出来るな)
「えらい、えらい」――と、遠くからジョーは言いながら、纏めたゴブリンの死骸に近づいていくと――その死骸を穴に投げ込んでいく、1体、約30㎏程度だが16体も集まれば結構な力仕事だった。
まだ、ノームを撫で廻しているサイリアを見てジョーは言う。
「サイリア、偉いから、効率良くゴブリンを投げ捨てる、魔術はないか」
「……無い、魔術は万能ではないの、知ってるでしょそれくらい、ねー、ノンちゃん」
『ピピユゥゥ』
「じゃあ手伝えよ、サイリア、結構重いんだって」
「分かったわよ、お願いね、ノンちゃん」
そう言うとノームは返事をする、するとジョーの周りの土が盛り上がり、人の形を形成していく。
いわゆる、土人形が4体生まれた、人に近い形をしていて大体170㎝の中肉中背の人形が生まれる、――土と葉っぱの身体で顔はのっぺらぼうだが。
それが、動いていた、まるで意思を持っているみたいに。
土人形は一体ずつゴブリンの死骸をもって穴に向かっていく。
「おお、やっぱりすごいな、ノームは、これなら早く終わりそうだな」――ジョーは感嘆の声をあげた。
土人形は4匹のゴブリンを穴に投げ入れると――止まってしまった。
「おい、サイリア、ゴーレムが止まったぞ、どうした」
ジョーは驚いて、サイリアの方を向くが、彼女はニヤニヤして立っていた。
「おい、サイリア、どうしたんだよ、動かないぞ」
「ジョー、私の分は終わったわよ、後は貴方がやれば」
「何、言っている……」、そう言いながらジョーは思いだした、先程の会話を。
(倒した分だけしかやらないってのか、自分は4匹しか倒してないのをなじった事で、まだ拗ねていたのかよ)
「サイリア、大人げないぞ、確かに俺は12匹倒したが、片付けは関係ないだろ」
「いーえ、謝って貰ってませんから、当然です」
「おいおい、俺達、相棒だろ苦労も分かち合うのが相棒さ、なあ、そうだろ、サイリア!」
「両膝をついて、頭を地面に擦りつけて謝りなさい、ジョー!」――ジョーの説得にも辛辣な言葉を投げかけるサイリアだった。
「くッ……わかった、いいよ、頼まないぞ、俺にはもう一人の相棒のスネークが居るからな、コイツでぶっ刺して、投げ捨てれば簡単だ」
【ヤダだ、私はやらないぞ、止めろ、汚れるだろ、武器としては使用も我慢するが、死体処理に使うな、馬鹿者が】
「………」
その後、スネークに断わられ、仕方なく一人で死骸を運び処理していくジョーの姿があった。
さらにその後、焼いて、埋め戻しも行ったが2人の機嫌は悪かった。
そのまま、調査を続けていく、現在は開始してから4時間が経過使用としていた。
「……なあ、サイリア、さっきはごめんな」__ジョーはそう突然に言い出した。
「……別に、いいから……こっちこそごめん、感情的になちゃって」__サイリアも頬を赤くして、ジョーと顔を合わさないで謝った。
暫しの沈黙。
【夫婦喧嘩は終わったのか】__そう空気をぶち壊す、スネークだった。
「べ、別に夫婦じゃないから、何言ってんのよ、スネーク武器のくせに」あわてて否定しながら、顔を赤くするサイリア、かなりの狼狽をしている様子だった。
【そうなのか、仲が良い者はそう言うと教えられたのにな】
「誰だよ、それ」__ジョーは顔を眉間に皺を寄せて、訝しげな表情を作る。
【ああ、私の前『適合者』がそう言っていた】
「そうですかい、随分、ろくでもない事を教えるヤツだな、そいつは」
【お前よりは大分マシな奴だったぞ】
「ああ、そうですか、良かったですね。」
【拗ねるなよ、ジョー……それよりも、獲物は来たぞ】
スネークはそう言って注意する、ジョーは前方を見ると80m先に、人食植物花が木々の間を歩いているのが見えた。
人食植物花は3m近い体長をもつ魔物でEランク、植物のツタを足として移動してくる魔物で巨大な花びらで人を襲い体内に吸収する、花びらの中心に巨大な口で丸のみにする、花の内部の消化液は強力で直ぐに溶けだし動物を養分にする、凶暴で好戦的だった__
それが3体集団で歩いている。
「サイリア、何時までもうろたえているなよ、身を低くしろ、見つかるぞ」
ジョーは忠告するがすでに戦闘体勢だった。
「わ、わかってる、指図しないで、何年冒険者やっていると思うの」
(おい、サイリア、何年魔術士やってるのに、その命中率?)――と聞きたいが、今はそれどころでは無い。
魔物に気が付かれないように、慎重に低い姿勢で移動する、木々の影に隠れ少しづつ、背後を取る様にして移動していく。
「サイリア、まずは魔術で援護してくれ、俺がその後突っ込みから、……炎系の魔術は止めろよ」
「分かってるわよ、……どうする、土系で攻める、ノンちゃんもいるし」
「ピプゥゥゥ」_サイリアの肩に乗っていたノームが返事をする。
「ああ、そうしてくれ。……その前に届くかここから?」
魔物まで40mと言う所だった。
「大丈夫、ノンちゃんいるから出来るよ」
「じゃあ、やるぞ!」
サイリアはその場で魔術を行使する。
「土よ、私を支えて下さい、その力をお貸し下さい、…土槍(アースランサ―)」
人食植物花達の下に魔術陣が形成される、そして、地面が揺れると、……急激に2,3mある先の尖った、丸太並みの太さをもつ土の槍が飛び出した。
[ジュブ、ジュブ、ジュブ………]__と7本飛び出して串刺しにする。
「クキャァッァァ」__と人食植物花が悲鳴を上げるが。__まだ、生きていた。
「はずした?」__サイリアは驚いている。
「いや、いつもより命中している、安心しろ、あいつらも動けないみたいだからな。……じゃあ行ってくる」
そう言うとジョーは駆けだした。
下半身の魔力を集中させ、走力を高める(肉体魔術の一種)、そのまま一気に距離を詰めていく。
人食植物花はジョーに気が付き、土槍に突かれながら、ツタで攻撃してくるが、ジョーは木の影に隠れてかわす。
木が凄い音を出すがジョーは構わずに、蛇腹刀を振るう。
木々に間を縫うようにして、剣の先端が魔物の口を突き刺した。
「キャぅゥゥゥゥ!」_と断末魔をあげて、一匹目の人食植物花を倒した。
ジョーはすぐさま剣を操り引き抜き、元に戻し、近くに寄った2匹目を…攻撃しようとするが、人食植物花は動けないながらも、ツタでジョーを攻撃した。
1本の太いツタがジョーを襲うが、……が寸前で体を半身にしてかわす、そのまま体勢を整え、剣を切り上げながらツタをぶった切った。
そのまま、土槍で動けない、人食植物花の頭を上段のまま振り下ろした。
「ギャゥゥゥゥ」、悲鳴をあげて絶命する魔物。
ジョーが3匹目に向かおうとするが、……ジョーは攻撃を止める、__3匹目はもう死んでいた。
「よし、終わったぞ、サイリア」そう戦闘が終了した事を告げる。
サイリア達も近づいてきた。
「終わったわね、ジョー、次は何処に行く」
「ピグィィィィィ」――機嫌が良さそうに鳴く土精霊。
「もう、帰る」――冷たく、やる気無い返事をする、ジョーだった。
「……、早くない、私、まだいけるわよ」
「いや、考えろ、サイリア、今から剥ぎとって、村に戻ると3時間以上かかる、そしたら夜だぞ」
「…それも、そうね、帰りましょう」
「ああ、危なくなる前に撤退する事も冒険者の心得だよ」
【本当はただ疲れただけでは?】――スネークの本質をついた、ツッコミがはいる。
「………」――ジョーは無言だった。――本当にゴブリン“掃除”で疲れたのだった。
(だって誰も手伝ってくれなかったよね、…お前ら)
サイリアに文句を言われながら――ジョーはそう思っていた。
こうして、モモガ村、1日目の調査は終了した。
ひさしぶりの更新です。
現在他の話も作っている最中です。
ストックが貯まり次第発表していきますね。