幕間②~カティアの助言
「じゃあいいかしら。フィフィ、あなたの魔術は集中が足らないのよ。フワフワでまとまって無いの、それの操作も甘いわ、しっかりと固定、これが魔術の基本よ!」
「そ、そうかも……、よくわかるね、カ、カティア……」
「えぇ、訓練したもの」
(よかった、サイリア師匠の話をよく聞いておいて……)
カティアはサイリアとの訓練の日々を思い出す。何度も何度も分からない事を尋ねると優しく教えてくれる師匠の顔と言動を思いだし、そこから助言を言っていた。
「それに緊張し過ぎよ。精神が魔力に及ぼす影響をフィフィも習っているでしょ。気持ちをしっかりと持たないと上手くいかないのよ」
得意げに話しをしていくカティア。その様子を目を輝かせて聴くフィフィがいた。
「うん、すごいね。カティアは……」
「上手な師匠がついているの、その人からの教えよ。それよりも1回手本を見せてあげる」
そう言ってカティアは前に出て20メートルほど離れた的を見た。
(よし、いいとこ見せないと……この距離なら楽勝よ)
そう思って右手をかざす。
だが、予想外に緊張している事に彼女は気がついた。
急に――失敗したら――外したらカッコ悪い――なんだろう、落ち着かない。
そう心がざわつく。
――『そういう時は息を吸って吐く。そして楽しい事を考えなさい』
不意にサイリアの言葉を思い出した。
(そうだ、ソレをしよう)
カティアはすぐに1回大きく息を吸って吐いた。その後でジョーに褒められ、お菓子をご馳走になっている自分の姿を想像する。
(大丈夫。いける。やれる。わたしは成功する)
「よし! いくわよ。 射ぬけ……魔術の矢」
カティアの手から手のひらサイズの魔術陣が形成され、細長い3弾が形成されるとそのまま一直線に的をめがけ飛んでいく。
そして――[カン! カン! カン!]と甲高い音と一緒に見事、的の真ん中に命中した。
「わぁ――すごい!!」
フィフィがパチパチパチと手を叩いて驚いている。
「らっくしょ――よ! 基本だわ、基本」
カティアは得意そうに振り返った。
「真ん中よ、すごい、それも3弾見事の真ん中に当てるなんてカティアは凄い!」
興奮気味にフィフィは喜ぶ。
「いいのよ、こうやってやるの。基本は無属性の魔術の矢から始めるのが操作性を磨くのにいいからフィフィもやってみなさい、見てあげるから」
鼻高らかにカティアは上から目線でそう言う。
カティアはそのままフィフィに魔術の稽古をつけてあげた。フィフィも顔を赤らめつつ一生懸命に教えを受け、長い時間が経った。――
そして、講義のように魔術を放ち、フィフィも一生懸命に練習していた。
へとへとになるまで――。
「もう、魔術が発動しないかも……」
フィフィは弱音を吐きつつその場に座り込んだ。
「魔力切れね。無理は駄目よ。ほら、この水を飲みなさい」
そういって自分が持っていた予備の水筒をフィフィに渡す。
「あ、ありがとう、カ、カティア……」
水筒を受け取った彼女はそのまま喉を潤して、立ち上がりカティアを見つめた。
「どう、気分はよくなった?」
「うん……その、ありがとう。優しいのね」
モジモジしながらフィフィがそう言うとカティアも顔を赤らめてしまい下を向いた。
「あのね……カティア。は、恥ずかしいから“ちゃん”をつけていい。呼び捨てだと、その……呼びにくいから……」
「い、いいわよ。好きに呼びなさい!」
「うん……カティア…ちゃん」
「いいわよ、フィフィ“ちゃん”」
そのまま甘酸っぱい時間が流れ、目線を合わせられなかった。
お互いに距離感が掴めづに照れ笑いを繰り返す。
「ねぇ、明日もわたしに魔術を教えてくれる?」
「いいわ、教えてあげる」
「ありがとう、カティアちゃん」
「うん、それよりも今日は帰りなさい。もう魔力も残って無いでしょ」
そうして――カティアとフィフィは帰り仕度を済ませ冒険者学校を出た。
迎えに来たメリーダに満面の笑みを向けて上機嫌にカティアは家に帰っていく。
***
――次の日。
カティアは学校の授業を終え、食事休憩の長い休みに入ろうとしていた。
この時間はカティアにとって苦痛な時間になる、暗い顔のまま教書を片付けていた。
階段のように段々に配置されている長机、教室の配置はそのようになっていた。
カティアは何となしに後方に独りで座っている。
それが彼女の指定席になっていた。
目の前には講義を終えた先生が荷物をまとめ、教室から出て行こうとする。
その周囲では楽しそうに同学年の生徒が話しをしていて、「今日なにを食べる」、「食堂いこうぜ」、「弁当もってきたの?」という友達同士の会話が聞こえる。
その光景をみてカティアはフンっと鼻をならした。
まるで関係無い事のように机の脇に置いてある皮鞄を持ちあげる。
冒険者学校に入って早半年、カティアは誰とも食事を共にした事は無い。
『学校に友達がいない』とジョーに宣言した通りにカティアは孤立していた。
いつもの通りにメリーダが用意してくれた特製の弁当が入った荷物鞄を持ってカティアは教室から去ろうとする。
すると、人影が近づいて――「カ、カティアちゃん。お、お弁当一緒に食べない……」と顔を真っ赤にしたフィフィが話しかけてきた。目をぎらつかせ落ち着きない様子で。
ドキッと身体を震わせるカティア。
授業中、何度もこっちを見ていたフィフィが話しかけて来たのだ。
「い、いいけど……」
「じゃあ、庭に行こう。天気もいいから外で食べようよ」
カティアがそう言うと、フィフィは嬉しそうにほほ笑んだ。
そしてフィフィに連れられて、初めてこの学校に来て誰かと一緒に食事をする事に心踊らすカティアがいた。
そうして――カティア達が去った後で教室はざわつき出す。
《無愛想な窓際の姫君》と言われたカティアが誰かと食事をともにした事に対してだ。
***
カティアとフィフィは庭に用意されている木製のベンチで昼食の準備をしていた。
「わぁ~~、カティアちゃん美味しそう」
フィフィは弁当を見て感想を言う。
綺麗に梱包している弁当の中身は彩り鮮やかに食材が詰められ。肉、野菜、ペンネ料理がそれぞれ詰め込まれていた。バランスのよい弁当の手本という感じだった。
「そうね、メリーダがいつも作ってくれる弁当は美味しいから。でも……フィフィちゃんの弁当は“個性的”ね」
カティアが見つめる先にはフィフィが用意した昼食が布の上に置かれていた
1斤ほどあるパンに切れ込みを入れ、野菜や肉、チーズが挟んである、それと蜂蜜とクリームのようなモノがハーフ&ハーフのように挟まっている極大なサンドイッチがあった。
(あれが普通の人の弁当なのかしら……)
カティアは不思議そうな顔をして、楽しそうに“ソレ”を食べているフィフィを見てどうしていいか分からなかった。
(まぁ……いっか、楽しいし……)
そう思いなおしたカティアは「いただきま~す」と声を出し。楽しい会話をしながら食事休憩をとっていた。




