前夜祭
ジョーとサイリアはギルド直営の宿屋に戻ってオジュール達と食事兼打合せをしたのち部屋に戻って休んでいた。
「ジョー、言っておくけどこっちに来たら躊躇なく私は撃つからね」
サイリアは寝具に横になりながらそう言い放つ。
非常に険しい目つきで隣に寝ているジョーを見ていた。
「安心しろ、サイリア。おれは今日から紳士を目指している、婦女子は襲わないよ」
ジョーはサイリアと反対方向を向きながらそう答える。
「……わかった。でも少しでも不審な動きをしたら、それでも撃つから。窓を開けようとしても撃つから。動いただけで撃つから」
サイリアの激しい警戒はマリーの言葉からきていると思われる。
あれからジョーを意識しだしたサイリアだった。
風呂から上がって無言のまま大した会話もする事なく過ごしている。
「………」
(おい、いくらなんでも無茶な要求だぞ)
ジョーは無言のままサイリアの厳しい要求を受け流していた。
「わかっているの? ジョー?」
サイリアは再度確認するようにジョーに話しかけた。
【安心しろ、もし不審な行動をしたら教えるからサイリアは寝るといい】
2人の寝具の間に置かれた蛇腹刀からそう声がかかる。
スネークもサイリアが警戒の為に置かれていた。
「そういうこった。安心してくれ。わかったら……部屋の灯りを消してくれ。明日はオジュール達と合同訓練を朝から行うから忙しくなる……」
ジョーも眠たそうにそう言った。
サイリアは不審がりながらも、間に置かれている灯りを消して床についた。
そして――布団にもぐり込むと……。
「ジョー……」
「なんだよ……」
「おやすみ……」
「ああ、寝ろ……」
そして2人だけの部屋でスヤスヤと熟睡していた。
※※※
王都に来て2日経ち。ドレイク討伐武練会は開催される。
その前に王都には貴族を始め招待された者達を集め前夜祭のような事が執り行なわれていた。
王宮の端の貴賓館にあつまり“ささやかな宴”が催されている。
豪華な食事に音楽隊、優雅な飾り付けをした貴婦人達。エスコートする紳士達。警備の兵士もそこら中に立ち並び宴の席を盛り上げていた。
キチンと正装をした給仕達がせわしく動いている部屋の隅で招待されたオジュール達は食事を取りながら辺りを見回していた。
オジュールを始め、ジョー達も正装をしている。もちろん――貸し衣装だ。
いつもの甲冑は持ってこられず。蛇腹刀も持ちこめない、完全に警戒態勢の中での宴だった。
それもそのはず、王様と王妃、そしてこの国の王子と王女までも宴に参加していたからだ。
その為に危険物の持ち込みは禁止となっているのは当然といえた。
式の始めに簡単な挨拶をそれぞれがしているのをジョー達はやる気の無い表情で眺める羽目になり。貴族連中はここぞとばかりに王様を盛り上げる為に称賛と拍手をコレでもかと送っていた光景を目にしながらの式典だった。
どこにでもある王族と貴族の関係を目にして、少しさめた感情で式典を見守っていた。
唯一の救いは男性だったら可愛らしい王妃と王女に会えた事で、女性だったら渋めな王子に会えた事ぐらいだろう。
「いや~美味いな。流石王宮だ」
オジュールは皿を片手に食事を取っている。
ちなみに立食式の簡素な礼儀作法で良かった。
ヒュールもエフレスカ達も“三槍将”達も“双璧”達もそれぞれが食事と会話を楽しんでいた。
「あぁ、特に無料ほど美味い食事はないな……」
ジョーはタレのかかった半熟焼きの肉を食べながらそう言った。
「じょ、ジョー。そ、そんな言い方はよくないわよ……」
サイリアは緊張した面持ちでジョーを注意する。
(人混みは苦手なのに、お前が来た理由も食事だろ……)
サイリアの状態をみながらジョーは思う。
そのままさらに食卓に置いた少し甘い発泡酒を飲みほした。
「まぁ、いいじゃないか。少しくらい……。“よけいな事”をしなければ……」
ヒュールも肉と野菜料理を食べならが言葉を送り、そっと“三槍将”の方を見た。
さきほどまでラリーがナンパを貴族の令嬢に繰り返し行い、その様子を見たミックとグレーがなんとか取り押さえ。そして現在は腰ひもをミックに付けられ、静かに食事を取っている光景を見ていた。衛生兵にもう少しで退場となる所を“寛大な措置”で現在の状態にしている。
「そうだな……ラリーみたく、なりたくはないからな」
ジョーも同意する。
「くれぐれも問題は起こさないでくれよ。・……それより、サイリア、この海藻とキャッシャ漬けの炒め物美味いぞ」
ヒュールは美味そうに盛りつけされた皿を渡した。
「ありがとう、ヒュール……」
サイリアは皿を受けとり、黙々と食べ始める。
「おぉ、お前ら喰ってるか! いや~出来るだけ腹を満たせておけよ。明日から厳しい戦いに入るからな」
オジュールが近づき陽気に葡萄酒を飲んでそういって来た。
「あぁ、喰ってるよ。美味いぞ、ココの食事」
ジョーは素直な感想を述べる。
「そうだろうな、なにせ多くの国民の血と涙の結晶(税金)から生み出されたもんだから、存分に味わっておけ」
そう、気分を阻害するには十分な言葉を並べオジュールは酒を飲み干し、すぐに給仕の女性が運んでいた新しい酒と交換していた。
その陽気な姿にエフレスカは溜息を吐き。ヒュールは新しい食事を取りに行っていた。
「ところでジョー。ここの王妃は別嬪だな。さすが貴麗の華と昔謳われていただけの事はあるよな……」
オジュールはかなり遠くにいる王様とソレを取り巻く貴族連中の方を見ていった。
そこには長い金の髪がどうなっているのか不思議なくらい盛られた王妃がいた。
一番目立つようなドレスを着た女性。そして取り巻きの女性達も華やかではあった。
「そうだな……。それよりも近くにいる女の子は王女か?」
椅子に座り、つまらなそうにしているカティア位の年齢の少女がいた。俯いたまま飲み物を飲んでいる姿をジョーは見ていた。
本音はどんな服を着ているのか確認する為にだが……。
(王都では、現在あのような服が流行っているのか……)
食事を取りながら王女が着ていた服装と飾りを確認していた。
「あぁ、どうやらそうだな。アレも将来美人になりそうだ。そう思うだろジョー?」
「オジュール、知っているか? 王女は美人と相場が決まっているんだぞ?」
「ハッハッハッ!! 知ってるよ、そうしなきゃやる気が出ないだろ! アハハハッ」
オジュールがジョーのふざけた問いに快活に笑いそう答えた頃に――場内に魔術具として天井に創られた魔術陣から大きな音が流れ始める。
音楽隊の演奏と共に司会をしていた者から――式典の催しものが進められた。
「それではぁぁ。これよりぃぃぃ、前回の武練会優勝者ぁぁぁ。ギグメディス=カストレア卿からのお言葉を頂きたいと思いますぅぅぅ。みなさま壇上にぃぃぃ、ご注目くださいぃぃぃ」
間延びした声と共に――ジョーは式典が始まって一番に驚いた。
(ギグメディスって……こんな名前の貴族。俺1人しか知らないぞ!!)




