マリーの魔女薬
水晶の中の光が徐々に強まっていく。
光がバチバチと花火のように飛び散り消えていく、そして、また新しい花火が上がっていった。
周囲の空間が水晶に引きずり込まれていく感覚を覚えるジョー。
マリーの両手は淡い光を更に濃くおび始めるのを感じる。
そのうちにマリーの瞳に淡い光が漏れ始めココでは無いどこか遠くの空間を見始めていた。
浮世離れした神秘的な雰囲気を纏うマリーはそのままゆっくりと瞳を動かし、今度はジョーを見つめていく。
「ジョーさん、最近は女難に巻きこまれ迷惑しているという感じでしたが、それは違います。貴方の運命が変化している為にそのような事が起こっているのです。巻き込まれる運命ならそのまま逆らわずに生きてみると新しい光が見えています。女難の運命も女性を助ける事で元に戻ると思います。それに他の難事もさる事でしょう……」
マリーはジョーに結果を伝える。
そして――水晶の中身の光は消え、マリー自身の魔力の発現も空気中に消えていった。
暫くの静謐とともに、3人の時が止まっていた。
「……それだけですか?」
ジョーは思わず訊いてしまった。あまりに抽象的過ぎて理解が足りないようだ。
(もっと、具体的な方法はないのかよぉー!)
「はい、それだけです。私の力ではこれ程度しか見られませんから……」
「そうですか……。でっ、俺はこれまでの女難を回避するためには女性に優しくしたり、助けたりすればいいと?」
困惑した表情のままのジョーにマリーは淡々と答えていく。
「まぁ、そう言う事ですね。女性に敬意をもって接していけば、あなたの名誉も回復するでしょう」
「なるほど……。具体的な方法なんかを教えてくれれば……」
ジョーはニヘラっと笑い。何かに繋がるような行動と方針を知りたかった。
「う~ん、難しいですね。そのようにしなさいと視えただけですから……」
マリーは説明出来ないような曖昧な答えを返した。
ジョーはそのまま固まって動いていない。
「ねぇ、ジョー。マリー姉の占魔術を疑っているの?」
サイリアは目を細めてジョーを睨んでいる。
「ちげぇーよ。どういう風にみえたのか教えて欲しいの。誰かを助けるのかを……」
「占魔術ってそうじゃないの。それじゃあ未来を見ている魔術でしょ。これから起こる事を精霊が教えてくれるのよ」
サイリアの説明にマリーは「そうですね。つまり誰を助けるかまでは特定できません。それにすべての女性に優しくすればいいともとれる精霊視でしたから……」
そう、確定的で無い助言をくれた。
「つまり、これから会う全ての女性に優しく接しろって事ですか?」
ジョーはマリーにそう訊いた。
「まぁ、そうですね。そうなればいい方向に行くと出ていましたから」
マリーはニッコリ笑い、告げる。
(女性に優しくってどうやればいいんだ? 食事を奢るとか……気づかいが出来る男になれって事か?)
「そうですか……ありがとうございます」
ジョーは溜息をついて水晶から手を離し、手袋と手甲をつけ直していく。
その間、色々と考えさせられ厳しい表情をとっていた。
「ジョー、まだ疑っているわね。マリー姉の占いは凄いんだから」
サイリアはそんなジョーの顔に納得いっていないのか、自分の好きな年上のお姉さんがわるく言われるのが気に喰わないだろう。また喧嘩を吹っ掛けそうな気配が漂ってくる。
「もう、いいのよ、サイリア。占いはあくまでそう言うモノなんだから。それにサイリアのお母様ほどの力も無いから。その程度なのよ、私の占魔術なんて……」
マリーはそう言うと少し沈んでいた。
言葉には力は無く、ただ悲しそうにしている。
その気配に不穏な空気を感じるジョーだった。女性を悲しませるのは心情に反すと表情を変え。笑顔を造り。――
「大丈夫ですよ。俺は貴方を信じます。だから……」
ジョーはそうしてまたマリーの手を握ろうと伸ばし始めたが――。
また、杖が伸びてジョーの行動を阻止する。
「ジョー、止めなさい。女性に優しくするんでしょ。それはセクハン!」
そして、いがみ合う2人。
「まぁまぁ、いいんですよ。それにお茶のおかわりはどうですか?――」
マリーが優しく止めてくれた。
そのまま3人で仲良くお茶会が始まり時間が過ぎていった。
みんな表情豊かに、それぞれが楽しそうにお喋りをしていた。特にサイリアとマリーは昔話に華をさかせ。とても嬉しそうな様子だ。
ジョーとスネークはその様子を無言で見守っている。
「それでマリー姉は王都で何をしていたの、魔女薬売り?」
「ええ、そうよ。魔女の薬って良く効くし王都でも売れるから。それに効果があれば宣伝にもなるじゃない、そうすれば村にまで買いに来てくれるお客さんもいるはずなのよ」
「ふ~ん、いいわね。やっぱ腕のある魔女って……私そんなに上手く造れなかったから……」
「サイリア……落ち込む事ないのよ。冒険者としてやっているなんて偉いわ!」
「うん、ありがとう。それで、どんな薬を売っているの?」
「え、ええ……。その……回復薬とか対抗薬とか……興奮剤かな?」
マリーから言い淀みがでて、サイリアの質問に少し顔が引き攣る。
「興奮剤? どんな効果があるのかしら……」
初めて聞く薬にサイリアは不思議な顔をしていた。
そのままモジモジとしているマリーがいる。
「サイリア。マリーさんの“興奮剤”の正体を教えよう。気づかいの出来るジョー様が……」
そう言って自信満々に自分を指さす。
「でっ、なに。知ってるの?」
「あぁ、この時期に必要な“興奮剤”は1つだけだ。つまり『精力剤』だ!!」
眼を見開き、ジョーは確信する様子でそう答えた。
「『精力剤』てっ……」
サイリアの顔が言葉を発すると共にミルミル赤くなっていく。そしてそのまま下を向いてしまい、プルプルと震えていた。
「そうなのよ。……この時期、凄く売れるから……店の看板魔女薬なの……」
マリーも頬を赤らめて正解を教えてくれる。
「まぁ、そうだろうな。生死にかかわる事だから、そりゃぁ“お盛ん”にもなりますよっと――」
ジョーは1人いい事をしたと満足気にお茶を飲んだ。
その後――多少の気不味い雰囲気になりながらも、徐々に話題を切り変え時間は過ぎていった。
そうしてジョーとサイリアは宿屋に帰る時間が迫ってくる。
「ごめん、もう戻らないと……」
サイリアが悲しく告げた。
「いいのよ、武練会に出るってことは暫く王都に居るってことよね。始めのうちは忙しいかもしれないけど終われば時間も出来るはずよ。その時にまたお喋りしましょう。私はこの店に居るからいつでも訪ねてきてね」
マリーは優しく告げると――「わかった。絶対話そうね」とサイリアは嬉しそうに返事を返した。
ジョーとサイリアは帰り支度を済ませ家の外に出ると外は夕日が眩しく王都を照らしていた。濃い橙色の空に雲も色を塗られ、半分は紺色に染まり始めていた。
店の外に出るとマリーが急いで何かをもってサイリアに近寄っていく。
「……待って、サイリア。“コレ”持っていって」
そう言って、草で編んだ小さな箱を渡してきた。
「これなに?」
「回復薬とか詰め合わせ。色々便利なモノが入っているから。サイリア、無事に戻って来なさい。ドレイクは強い魔物よ」
「ありがとう、マリー姉」
そう言いながら中身を開けるサイリア。小瓶にはいった回復薬やその他の薬がびっしりと入っていた。
「これは回復薬。これは対抗毒薬。これは活性身体薬。これは濃い魔力回復薬――」
薬の説明をして行くマリー。途中、ジョーをチラリと見る。――
「そして……これが、魔避妊薬と精力剤よ。機会があれば使いなさい。うふふふッ!」
マリーはそう恥ずかしそうに笑った。
サイリアとジョーを交互に見て笑っている。
その言葉を投げかけられたサイリアは――空の色も相まって、一層紅い顔をしてプルプルと震えている。
そして――「マリーねえぇぇぇ!! そんな関係じゃないから。やめてえぇぇぇぇ!!」と、天をつんざく声で抗議した。
その様子をジョーは困った様子で頭を掻きながら、天を見上げていた。
魔術薬を省略したら“魔”薬になった。あの893さん達が売っているであろう麻薬とかぶるので魔女薬にしました。変更はあるかもしれません。




