占魔術士のマリー
ジョーとサイリアはマリーの案内で近くの裏通りにある店に辿り着いた。
そこは閑静な住宅と店先が立ち並ぶ場所で先ほどの目抜き通りの10分の1程も人がいない、しかし人々の気配はあるようで、トンカチや音や工具音、それに辺りから笑い声が響いている。
(専門店が立ち並んでいるのか?)――ジョーとサイリアはそう思いながら目の前にある店を眺める。
家は赤煉瓦の壁で造られ、黒い屋根と煙突、それに家自体に絡む草木が特徴の閑静な住宅街に合った建物だった。
入口には女性が箒を持った胴鉄製の少し錆びた看板が吊るされ。1階にある窓からは暗い部屋の内部の様子が見えていた。
「さぁ、入って」
マリーは鍵を取り出し、扉を開けると後ろで待つ2人にそう言った。
「おじゃまします」、「わぁ~、マリー姉ココで働いているの?」
そう言いながら暗い店の中に入っていった。
店の中は薬草の匂いと、何かのお酒のような酔いそうな臭いが混ざり合い独特な臭いが漂っていた。
そして水晶と金属加工品で造られたマジナイのような品が部屋中に飾られている。
【嫌いな臭いだ……】
背中からスネークのそうした呟きが聞こえた。
「どうぞ、ソコに座って、いま部屋の灯りをつけるから……」
そういうとマリーは小さなステッキを胸元から取り出して天井に向けると――何個かあるランタンのような照明から、ボウッっと部屋に灯りが灯る。
すると部屋の奥が見えた。
そこは薬研と作業台、その前には無数の小さな棚と箱が幾つも置かれた部屋だった。
「散らかっているけどごめんね。ソコに座って待っていて、薬膳茶出すから……」
マリーは持っていた紙袋を作業台に置くとそのまま奥の部屋に消えてしまった。
ジョー達は言われた通りに近くに武器を降ろし、それなりに重厚な木の椅子に座る。
ギシッとした音をたて椅子に腰を落ち着かせて楽な姿勢をとった。
「ふ~ん、綺麗なお店ね。占いか呪いの店かしら」
辺りを見回してサイリアがそう言った。
「マリーさんって占いも出来るのか?」
「ええ、マリー姉は占魔術と魔薬造りが凄く上手かったから」
「ふ~ん……」
そういってジョーは沈黙して、何かを考えている表情をしていた。
「どうしたの?」
サイリアは急に態度を変えたジョーを見つめた。
「いや……、サイリアはそういうの、無いなって……」
「アッ……なんだと、これでも召喚魔術は得意なんだから。他にもいっぱい特技もってるでしょ」
サイリアはケンカ腰にジョーを睨む。
「おいおい、こういう場ではそんな顔やめろよ。一応、尊敬するマリー姉さんの店なんだろ?」
「……まぁ、そうね。それより“姉さん”なんて親しい名前で呼ばないでよね。ジョーは他人なんだから」
「ハイハイ、わかりました。それよりマリーさんって占いが得意なのか? モノ探しとか人探しも出来るのかな?」
「ジョー……、魔術ってそんなに便利なモノの訳無いでしょ。あくまでその対象の人の運勢とかこれから起こる運命とかを見ていくのよ」
サイリアが呆れた表情で説明してくれた。
(それも、随分と便利だけどな……)――ジョーはそう思いつつ、「ハイハイ、ごめんなさい、よく知りもせずに魔術の事なんか訊いて」
と軽口を叩きながら言葉を返した。
そうこうしている内にマリーがお茶と菓子を持ってジョー達の所に戻ってきた。
そうして食卓に並べて楽しいお茶の時間を楽しんだ。
――閑話休題。
「そう言えば、サイリアもジョーさんもなんでこの通りに居たの?」
マリーはお茶の容器を持ちながら質問をする。
「それがですね。弟子にお願いされまして。最先端の服を王都で探していたんですよ」
「そうなの、でもどこの店に寄っていいか分かんなくて……。ねぇ、マリー姉は王都に住んで長いんでしょ。何か知ってる?」
ジョーもサイリアもはたまた困ってしまい一縷の望みを賭けてマリーに訊いていた。
「う~ん、それがね。私、王都にはこの時期しかいないのよ、いつもは近隣の村に住んでいて、近くの町に呪いや薬を売っているんだけど……」
マリーは申し訳無さそうにそう答える。
「エッ、ここ、マリー姉のお店じゃないの?」
「違うわよ、たった5年でお店なんて持てる訳ないじゃない。知り合いの店を間借りしているの、その知り合いも武練会に向けて薬草採取にいって現在はいないけどね」
サイリアに優しい言葉でそう説明するマリー。
「まぁ、そうだろうなるだろうな。王都は賃貸でも家賃が高いからな……」
ジョーは納得しながらお茶をすする。
「そっか~、どうしよう」
サイリアも困り果てた表情をしていた。
「う~ん、どんな経緯で最先端の服なんてお願いしたの? そのお弟子さん」
マリーがそう言うと、ジョーは焦ってしまい。ソレを見てサイリアが1から10まで全て話した。
喜々とした表情で――。
「うふふふ……なるほど、それは困ったわね。う~ん、じゃあ、私の占魔術で占ってみましょう。気休めだけどね」
「エッ、ホント! マリー姉、ありがとう」
「いいのよ、サイリア……」
そう言ってマリーは立ち上がり作業台に向かって歩いていった。
「あ~、よかった。これで見つかるかも……」
「おい、本当にあたるのか?」
「なに、疑ってんの? マリー姉の占い、すっご~い当たるんだから!!」
ジョーの怪しんだ表情にサイリアは怒鳴る。
自慢のお姉さんの特技を傷つけられて、怒った表情をしていた。
「はいはい、サイリア怒らないの。占いって信じる人と疑う人がいるんだから当然でしょ」
大きめの水晶玉と小型のクッションを持ってマリーは戻ってくる。
そして、机の上にクッションを敷いてその上にゆっくりと水晶玉を置いた。
そのまま向かいの椅子に座ってニッコリとジョーにほほ笑んだ。
「では、信用していないジョーさんを占ってみましょうか。その方がいいでしょ?」
「ええ、是非お願いします。どんな結果が出ても、マリーさんなら恨みませんよ」
ジョーはまたまた格好をつけて、そっと向かいにあるマリーの手に手のひらを重ねてそう言う。
[ビシッッ!]――サイリアが思いきりジョーのガントレットごと杖で叩いた。
「イテッ、何すんだよ。マリーさんの美しい手が傷ついたらどうするんだ」
「ジョー、セクハンはね、相手がセクハンだと思った時点でそうなの。このセクハンの騎士」
そのままいがみ合う“双蛇”だった。蛇が睨みあうようにジッと相手を無言牽制していく。
「うふふふッ、私は気にしてないわよ」
マリーは穏やかに笑ってい――「じゃあ、ジョーさん、睨んでないで手を水晶につけてもらえますか?」
そうお願いをする。
すると、睨みあいを直ぐに止めて。――
「ええ、喜んで!!」
ジョーはすぐに左手につけているガントレットと手袋をはずした。
そして言われるがまま、用意された水晶に手を当てる。
「じゃあ、いきますよ……」
そう言いながらマリーは両手を広げ、魔力を水晶におくりこんでいった。
すると――水晶玉の内部から、チカチカと火花のような光が輝きだしていく。




