余計な事は言わない方がいい
「う~~~~ん、美味しい!!」
サイリアは嬉しい声を上げる。
“極上のひと時をあなたに…亭”で予定した通りに昼食ならぬ間食をしていた。
店内は洗練された食卓と椅子が置かれ。間取りもゆったりと、そして植物でさりげない間仕切りをして客同士の視線が交わらないように配慮されていた。
店外にも卓と椅子が並べられ、天幕に覆われたそこは沢山のお客で溢れかえっている。
それは満席と言う事だった。さらに店の外にも行列が続き、この店の人気を現している。
女性冒険者や町娘、有閑そうな淑女が笑顔で食事をとっている。
客層は9対1で完全に女性が多い。
「はぁ、それはよかったですね」
ジョーは黒い豆を焙煎し細かく挽いた粉で専用の機械で抽出した。『ヒーコー』を飲んでいた。
濃い牛の乳と少し甘いキャッタの実を入れ。目の前に座って幸せそうにしている自分の相棒を無感情で眺めていた。
疲れた顔をしているジョー。
店に入るだけで30分以上も待たされたからだ。
サイリアが注文しているのは小麦粉から作ったパンケーキであるが4センチ程にフワフワに膨らみ、生地が白い、そして食欲をそそるように細かくキツネ色の焦げ目がついていて、小さく4つに分かれ置かれていた。さらにその上に牛乳から造られたクリームとコウラン蜂蜜と言われる極上に甘い蜜と、キャッタの木から採れる樹液を煮詰めたシロップを細かく、それでいて大量に装飾を施し。最後に5種類の木の実とジョーが飲んでいる豆、コカ豆で造った少し苦めの粉を振りかけていた。皿の横に白いアイスが添えられ最後の最後に小憎らしい演出をしていた。
それが大皿に盛られ、お値段なんと――銅貨18枚。
ちなみにジョーが飲んでいるヒーコーは銅貨3枚であった。
当然、サイリアも同じ物を注文しているが手はつけていない。その口と胃袋はパンケーキだけを受け付けていた。
「サイリア……夕飯もあるんだからあんまり食べるなよ」
美味しそうにソレを頬張る姿を見て、ジョーは注意する。
「大丈夫……余裕ではいるから。ア――美味しい!!」
大口で頬張りながら食べるサイリア。パンケーキが熱いのか少し湯気が出ているのが確認できた。
幸せそうに確実に高カロリーであるそのパンケーキを頬張るサイリアの姿を見てジョーは思う。
(太る原因はそう言う所じゃないのか……)と、それで普段の食事に気を使い、なぜこういう所で気を抜くのかジョーには理解できなかった。
「そうか……でも、そういうのが、ふと…――」
ジョーはそう言いかけて止める。――
サイリアがもの凄い目力でジョーを牽制した。
余計な事はいうな、殺すぞ!!――と脅されるような瞳でパンケーキを停止したままジョーを見ている。
【莫迦者、野暮な事は言わないのが鉄則なんだ。特にこう言う時には……】
ジョーの横の椅子に引っかけている蛇腹刀から人生訓を聞かせるような声が聞こえる。
目線を逸らし、ジョーは腰鞄からハイカラな布に巻かれた小物入れを取り出す。
細長い巾着のような小物入れの紐を開けると、さらに金属の小箱が出て来る。
小箱から取り出したのは『煙管』だった。
「ジョー、吸うなら外で吸ってよ。気分が悪くなるから」
「サイリア、どこでもいいだろ? 俺は気分が良くないと吸いたくなる性質なんだよ」
「やだ、私の幸せな時を邪魔されたくない」
「………」
簡潔に簡単に返事を返し、それでいて、反論の余地を取らせないという風にサイリアはケーキを食べ続ける。
【ジョーの負けだな。ほら、外で吸って来い】
ジョーのもう1人の相棒あるはずのスネークが裏切った。
「しょうがねぇ~、ここじゃあ気分も悪いし、な……」
そう言って煙管の入った箱と蛇腹刀を肩に掛けジョーは立ち上がる。
そして店の従業員に何やら訊いて案内されていた。
その間に――サイリアはパンケーキを食べ続けていた。
天蓋のある店の外の脇に男性が纏まって、長椅子に座り疲れた顔で綺麗な青空を見上げ、ボ――と眺めている。
(あぁ……ここは同志の溜まり場だな……)
ジョーはそう思いながら長椅子の空いている所まで謙虚に移動していく。
軽く無条件に会釈を交わしながら、奥さんか恋人、女子仲間に連れて来られた可哀想な男性集団には一種の連帯感で繋がっていた。
あなたもですか? 大変ですね? ――と、ジョーが目の前を通る度にそのような視線を向けられる。
空いている長椅子に腰を降ろし、直ぐに煙管取り出し、煙草を詰め、火種を用意して、スパスパと吸いだし、煙草を煙管の先で燃やして準備をしていた。
――そうしてゆったりと煙管を使い、他の人と同じ様に綺麗な青空に煙を吐き出していく。
少しの間、休憩をしているとまた新たな同志がその場に姿を現した。
かなり身なりのいい服を着て、髭に多少の白髪が混じり、髪を後ろにセットした老紳士が現れた。
体格も良く、歩いている姿で騎士をやっている者だとジョーは考えていた。
その男性がゆっくりと歩いてジョーの元にやってくる。
「こちら、空いていますかな?」
渋い声で上品に確認を取っていく男性。所作も言動も余裕があり、気品にあふれる物言いに貴族であると確信するジョーだった。
しかし、この場では身分も関係ないだろうと思い。
「どうぞ、空いてますよ」――と、優しく声を返した。
男性は会釈すると、ゆったりと座り。そして『葉巻』と呼ばれる高級品の煙草を胸の小物入れから取り出した。
吸い口を小型の短刀で切り、そして火種を探している様子だった。
しかし、みつからないのか、身体中をまさぐっている。
「どうぞ……」
ジョーは火種である魔道具『火精石』を手で差し出した。
「これはどうも……」
そう言って男性は葉巻を火精石につけ、スパスパと口で吸うと燃えだした。そして甘い香りと共に煙が上がる。
「ありがとうございます。火石を忘れてしまいました」
「いえいえ、良いんですよ」
(この人も、奥さんに連れてこられたようだな……)
ジョーは優しい対応で謙遜しながら同情していた。
そのまま一服し終え――不意に男性が話かけてきた。
「思えば挨拶がまだでしたね。私はギグメディス・カストレアと言います」
「私はジョー・カバライと言います。しがない冒険者ですよ」
お互いに挨拶をしてフッと笑顔で笑いあった。
「ほう、ではジョーさんは冒険者と言う事ですが、もしや……ドレイク討伐武練会にご出場なさる方ですかな?」
「えぇ、そうです。ギグメディス殿もそのように思えますが?」
「えぇ、よくわかりましたね?」
ギグメディスは驚いた顔でジョーを見る。正鵠をついた質問で、何も説明もしていないのに当てられたからだ。
「体格と足運びで武術を習っているモノだと判断したまでですよ」
ジョーはさも当然のように言うと、さらに驚いた顔をしたギグメディス。
「ハッハッハッ、これは凄いですな。さすが武練会に参加する冒険者さんだ。結構な腕前だ!」
上機嫌で笑い、葉巻の煙を吐いた。
そして――「その通りです。いやぁ~今年は楽しみですな……」――と、上機嫌にそう言った。
書いてる内に町でよく見かける光景を思い出しました。
よくある、よくある。




