特訓ですよ、サイリアさん
「これから魔術訓練をカティアには受けてもらいます」
サイリアは精一杯威張った感じで敬語ではなく出来るだけ目上の人、つまり師匠として対応していた。
「ハイ、サイリア師匠、頑張ります」
元気よくカティアは返事をして眼を輝かせている。
先ほどの防具を外して麻布のような服装だけになっていた。
腰にレイピアのような剣を差し直している。
「よし、じゃあ始めましょうか。身体に痛みは無いわね」
「はい、大丈夫です」
そう2人で楽しそうに訓練を開始させようとしていた。
「じゃあ、俺はメリーダと打ち稽古だな、いいか?」
ジョーもメリーダに確認をとっていた。
こちらも敬語では無くなっている、『師匠と弟子の関係なので敬語は止めて下さい』とメリーダからも言われたからだ。【※サイリアはまだ慣れていない】
「は、はい、お願いします」
メリーダは頭を下げたが声が上ずって緊張しているようだった。
先ほどのジョーVSカティアの稽古内容を見ていた為で自分も激しくなるようだと心の中で警戒心がよぎった為だ。
「緊張するなよ、メリーダ。打ち稽古だから俺が“受け”をやるよ。好きに攻撃してこい、そしたらその都度駄目な所を言うだけだから……、じゃあ、いこうか向こうでやろう」
親しみやすく、メリーダに告げるジョーだった、俗に女に甘い男である、フェミニストとも言うが……年頃の女性には優しく接する事が信条だった。
「ちょっと待ってよ! あそこの丘に的を打ち込んでよ、“的当て”から始めるから……」
サイリアが去ろうとするジョーにそう言って“お願い”という名の命令を下した。
ジョーは一瞬、嫌な顔をしたが――サイリアがキッと睨むと、軽い溜息を吐き馬車の荷台に向かって歩いていく。
フンッと鼻を鳴らし再びカティアに向かい合う。
「じゃあ、カティア、普段はどうやって魔術訓練をしているの?」
「えっと……瞑想して……魔力制御……呪文の暗唱……後は“木像当て”です」
「へぇ~基礎的な事はやっているのね」
「はい、問題ありません」
「じゃあ、少し踏み込んだ事をしましょうか」
「はい、お願いします」
「それじゃあ、まずは瞑想からやりましょう、準備ができるまでね」
そう言ってカティアとメリーダはその場に座り、両手を胸の前に合わせ、静かに集中し始めた。
ジョーは長い柄に大きめの木鎚を肩からにぶら下げ、片方には50cm四方の板に1m程の杭がついた的を手に持っている。3重になった円形の模様が板には書かれていた。
後ろからメリーダが的をもう1本もって手伝いをしていた。
そのまま近くにある段差になっている丘の少し上がった場所に到着すると、ジョーはメリーダの手伝いの元、地面に的の板がついた杭を打ち込んでいく。
[コ―――ン! コ―――ン!……――]と小気味好い音と共に杭を打ち込んでいった。
そのまま暫く――作業は続いた。草原に風が流れ、作業をする音が風と一緒にどっかに遊びにいったようだった。
「……終わったぞ、サイリア!」
間隔をあけ綺麗に横2列に的を打ち込んだ。
丘に打ち込んだのは後ろに魔術が逸れての危なくないような配慮からだ、冒険者とって訓練は大切だが、それについて一般人に被害を及ぼしてはいけないとギルドの規則に書いてあった。
大抵の冒険者の訓練は人の居ない所で周りに配慮することが義務づけられている。
的当てもこうした配慮から後ろが崖や丘に立て札のように的を設置するのが一般的な事だった。
「ありがとう……訓練に戻って!」
瞑想をやめサイリアは大声で遠くにいるジョー達に聞こえるように言った。
「じゃあ、カティア、魔術訓練を始めるわよ」
サイリアは立ち上がり、カティアも続いて立ち上がった。
「まずは基本の“魔術の矢”を放ちましょう。今日の訓練はコレを中心にやるからね」
「はい、サイリア師匠、わかりました」
姿勢を正し、カティアは元気に返事をした。その様子にサイリアはクスッと笑う。
「じゃあ、カティア。ここから魔術の矢を放って。距離は約2ヤット【※20メートル】。集中しましょう」
サイリアの言葉を聞いてカティアは頷くと、「フ―――……」と長めの息を吐いて。右手を的に指さした。
静かに集中しだすと――。
「…射ぬけ、魔術の矢!」
叫ぶように呪文を唱えると、指先に淡く光る魔術陣が出来あがり、指先に淡く光る太い針が3弾飛び出した。
速く、速く、地面を這うように飛び出した魔術の矢は、途中で浮き上がり軌道を変え、的に見事命中して板に突き刺さっていた。
「やったー、よかった。当たった!」
カティアは的当ての結果を見て喜んだ。
「はい、よかったわね。……でもね、満足しては駄目よ」
そう言って喜んでいるカティアを戒めた。
「は――い、師匠」
浮かれているカティアはそれどころではない様子だった。
「じゃあ、次は私が同じ魔術を放ちます」
サイリアがそう告げる。
その場からサイリアは同じ様に右手を突き出し――。
「…射ぬけ、魔術の矢」
そう唱えると、サイリアの指先が同じ様に淡く光、魔術陣が形成される。そして身体の周囲に殆ど透明な太い針が15弾ほど形成され。
カティアとは比べ物にならない程高速で飛翔していく。その際、全ての矢は四方に散りそして曲線を描いて的の真ん中に着弾した。
板を突き刺さり。[――ダダダダダダダダダダダダダダダ!]と凄い音がした。
誰が見ても威力も速さも本数も操作性も格段にサイリアが上だと分かる程の結果が左右の的から見てとれた。
カティアは驚いている。
自分のただ的に刺さっただけの魔術の矢と、サイリアの正確かつ高威力の魔術の矢の違いに戸惑った。
「……サイリア師匠凄い!」
そう声を漏らしたカティア。
「ふぅ、上手くいっただけよ。慣れればカティアにも出来るはずよ……」
サイリアは謙虚に言う、見栄と虚勢も――その言葉の裏には隠されているようだ。
秘かに持っていた布で額と顔周りの汗を拭った。
(よかった――――カッコ良く当たって!)
平然としているが、カティア以上に緊張していたサイリアだった。
ちょっと尺度というか今まで曖昧にしていた部分ですけど、異世界ですので呼び方は違うのでは?等の疑問があります。
しかし、読者の皆様に独特の呼び名も厳しいでしょうから注釈をつける事で対応させてください。
作者も間違えるかもしれませんがその時は優しい気持ちを大事にしてください。




