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私達、冒険者として生活します!  作者: あきら・たなか
第3章; 御嬢様の御弟子入り
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訓練3

 ジョーとカティアは再び対峙した。先ほどと同じ様な距離だが、カティアも迂闊(うかつ)に飛び出そうとしない。

 ジョーは静かに構え待っていた。

 カティアは自分の呼吸音が身体に纏わりついて、非常に息苦しく感じている。

 息を吐くたびに圧力のようなモノに圧倒され。上手く呼吸が出来ずに大きくなっている事をカティアは自覚し始めていた。

 原因はジョーにあった。ジョーからは魔術を使っている様子もない、静かに構えているだけだ。


 しかし――、カティアは隙を探ろうとするがどこにも打つべき所が無かった。


 剣術はまだ始めたばかりだが、それでも、何となく相手の力量の差というモノが素人目から見ても分かっていた。


 ――ジョーは強い、とてつもなく。その圧力のような目に見えない気迫に押されていた。


 2回目までは勢いで行ってみたがあっさりと倒されてしまった。

 その時、ゾクリと感じるモノがあった。打たれた後に気が付いたが、殺気のようなモノだとカティアは現在、理解し始める。


「どうした、来ないのか?」


 ジョーからそのような言葉を掛けられるが――カティアは動けなかった。

 意識すればするほど、どうしていいのか理解できずに、身体が硬直していた。


「あっ、ま、まだ作戦中!」

 強がりを言う口は残っていたが、作戦なんて考える暇もなかった。


「そうか、じゃあ、こっちから行こうかな……」


 ジョーは軽い口調でカティアに向かっていく。

 酷くゆっくりと、スリ足で移動して行った。


 近づくたびカティアの顔は引き攣り、(おび)えていた。

 ゆっくり移動していたジョーが突然カティアに突っ込んできた。


 (あ、きた!)

 そう思いながら、カティアは目の前に現れたジョーに戸惑うと、身体が石のように動かなくなり、そのまま木剣を飛ばされた。

 手に痛みが来るまでの間に、ジョーはカティアの首元を掴む動作に移行して、そのまま足払いをかけ、その場にカティアを転がした。

 カティアはまた悲鳴を上げると、そのまま[カァァァァン!]と高音の音が胸から響いていた。

 ジョーは胸当てに木剣を突き刺していた。


【そこまで、ジョーの勝ち】

 スネークの声でカティアは自分が負けたと知る。

 これで3連敗のカティア、今度はゆっくりと立ち上がった。


「じゃあ、次だ」

 ジョーはカティアが落とした木剣を拾い上げ、また渡した。

 有無言わさずにジョーはそのままカティアが剣をとると、また距離を置き構える。

 カティアもジョーが構えると、反応するように剣を構えた。


 ――そして、4回目。

 ――5回目。

 ――6回目。


 カティアはジョーに成すすべ無く、一撃をくらい、そして転ばされた。

 その頃にはジョーは表情を一切崩さなかった。

 ただ真面目にカティアと対峙する。

 しかし、カティアはそんなジョーに恐怖感を覚え始めていた。


「カティア、この訓練の意味は分かるか?」


 ジョーは唐突にカティアに訊いていた。

 カティアは首を横に振りながら、「わかりません……」と答える。


 ジョーは木剣を構えたままの体勢でいった。


「カティア、この訓練は実戦にと近い形をとっている。これは持論だが実戦の中での修行のほうが、成長が早いと思っている。わかるか……」

「ハイ……」

「それならいい。それでだ……、実戦において最も危険な事はなんだと思う?」

「……油断ですか?」

「正解だ、そしてもう1つある。『必ず死ぬ体勢』だな、“必死(ひっし)”とも言うが、カティア……今日、何回倒された?」

「……6回」

「そうだ、カティアは6回も“必死に至った”。武術の基本は“必至(ひっし)には成るな”との教えがある。これは防御の基本だな、攻撃の時は逆だが……、カティアはこれまで全て尻を突き。剣を離した。そして反撃出来ない体勢をとったな……」


 ジョーがそう告げると、カティアはハッとした表情をした。そしてジョーとの訓練を思い出してみても、全部殺される体勢をとっていた事を思い出した。

 そして、カティアは頷いた。


「わかってきたようだな、カティア、訓練は攻撃や防御を習うだろ? でも、俺は違うと思う、なによりも大事なのは『死なない為の訓練』だよ。それをカティアにも教える。わかったな?」


「わかりました!」


「じゃあ、剣を構えろ」


 ジョーがそう言うと、訓練は再開された。


 ――そして――12回目。


「ウッグ……ウッグ……」

 鳴き声になりながらカティアはジョーと対峙していた。

 木剣を構えているが剣先が揺れている。


「どうした、カティア。もう止めるか?」

 ジョーは水の構えのまま、カティアに尋ねてみた。

 カティアは首を横に振って拒否する。


 そして、剣を構え「うわああぁぁぁぁぁ……」と泣き声を出しながら向かっていった。


 ジョーとカティアが打ち合っているすぐ傍でメリーダは心配そうに訓練の様子を見ていた。

「お嬢様……、アッ!」

 ジョーにまたも倒されたカティアを見て思わずメリーダは声を上げる、心痛な面持ちでカティアに駆け寄ろうとするが。サイリアが杖を出して止めた。


「待って、訓練中よ」

「ですが……お嬢様が……」

「心配しないで、ジョーだってアホじゃないから。それに必要な事なのよ」

「ですが、厳し過ぎるのではないでしょうか?」

「メリーダさんの言う事も分かります。でも、この訓練は冒険者になるには必要な事だから、私も昔ジョーから教わった事です」

「ですが……」

 メリーダは続きを言おうとしたが、サイリアは横に首を振って止めた。


 真剣な顔になりながらメリーダを見つめると――。

「本当に必要な事なんです。冒険者は常に大型の魔物と対峙します。実戦では転がってしまい体勢が悪いと、そのまま襲われて成すすべなく殺されてしまいます。相手の数が多い事だって多いんです。それに山よりも巨大な魔物だと、身体がぶつかっただけで吹き飛ばされてしまいます。この訓練の本当の目的は、転んでも素早く起き上がる為の訓練なんです。厳しい事かもしれませんが、冒険者になるには必要なことですから」


 サイリアは説得するように、メリーダに言った。

 メリーダも言葉の意味を理解して、その場に停止した。


 戦場でも甲冑を着けて転べば起き上がるのに時間がかかり、そのまま短剣で甲冑の隙間からひと突きされ絶命することは、間々起こる事だった。

 魔物退治でも、訓練のように相手が待ってくれるとは限らない、体勢が悪ければどんな熟練者でも追撃をくらい、それが致命傷になる事もある。

 どのような時も戦う時は不利な体勢になってはいけない、勝つ事よりも生き残る事、それが生存訓練の『転ぶ訓練』の本当の意味だった。


「わかりました。取り乱してすいません」

 メリーダはその場で頭を下げる。

「いえ、本当に危なくなったら止めますから……」

 サイリアがそう言うと、遠くでカティアが15回目の負けを(きっ)した。


訓練って立ち木打ちや素振りですよね?

ですが何気ない転んで起き上がる訓練も重要だと思います。

武道でいうと受け身ともいいますが……。

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