やっぱり騙される
ジョーは後日ギルドマスターの部屋を訪れていた。
先日の特別依頼の件を完了してその話し合いとして呼ばれていた。
部屋にはミミルとサイモン、そしてジョーとサイリアが椅子に座って話をしている。
「ジョー、色々助かったわよ、それにノフューマの軍団が出たんですってね。よかったわぁ~! ジョー達をつけて置いて。Dランクの冒険者だったら危なかった事だもの……、えぇ、さすがジョー達ね、30匹以上のノフューマの大集団を倒すのも大変だったでしょ……本当に良かった」
そうニコニコと笑顔で年増のギルマスのリングは話しかけてくる。
しかし、ジョーはどうでもいいように席に深く座り、顔をリングから背けていた。
「サイモン、それで査定はどうなった?」
ジョーはリングが居ないかのように話をしていた。
その発言にリングは無言になり額に青筋を立てるほど怒っていたが笑顔は崩さなかった。
サイモンはそんな2人の表情を見ながら、1枚の紙を差し出してきた。
「ジョーさん、これが内訳になります。先にいっておきますが、今回の依頼で小鬼は査定に含まれていません」
「ああ、そこは理解しているよ、他の査定は……」
ジョーは紙を見るとこう書かれていた。
ノフューマ討伐――32匹――銀貨19枚、銅貨20枚。
角素材買い取り――58本――銀貨5枚、銅貨80枚。
魔石買い取り――30個――銀貨10枚、銅貨50枚。
特別依頼報酬――銀貨10枚。
合計、銀貨45枚、銅貨50枚。
そう書かれている事をジョーとサイリアは紙を見て確認した。
「どうでしょうか? 素材の方は破損し、質が悪くなっているのは除外しています。魔石も同様ですね」
サイモンはそう言って目線をジョーとサイリア交互に動かしながら確認するように見てきた。
「素材の買い取り価格と魔石の現在の買い取り価格ってこんなモノか?」
ジョーはサイモンに訊いてみた。
「ええ、そうですね、角も大体銅貨10枚が平均だろうと思います。これでも頑張って査定したんですよ。それに魔石の等級はあの大きさですから3等級になり現行価格で銅貨35枚で買い取りですね」
(まぁ、そんなモノか……)
ジョーはサイモンの説明に納得していた。
「わかった、確認書出してくれ。名前書くよ。いいよな、サイリア?」
「大丈夫よ、ジョー、順当な査定じゃない?」
サイリアもジョーに返事をすると、サイモンが「ありがとうございます」と言って頭を下げた。
「まぁ、よかったわぁ~、じゃあ今書類を用意するわね」
リングがそう言って立ち上がり、いそいそと自分の書斎机にもどって引き出しから正式な紙を取り出して戻ってきた。
リングはそのまま確認書をジョーに渡すと、一緒に洋筆とインクを置いた。
「ささ、どうぞ書いて下さい。ちゃちゃっとね。それにしてもジョーもサイリアも良くやってくれたわ。カティアお嬢様も凄く満足してくれたし、どうかしら……このまま師匠にならない?」
(なんだ、なれなれしいな!)
ジョーは怒りながら筆を手に持ち、インクに付けると殴り書きのように名前を書いていく。
ジョー=カバライと正式に欄に書くと、その瞬間リングはその用紙を奪うように自分の手元に戻した。
「なッ!」
ジョーは思わず声を出してしまった。隣にいるサイリアも同様に口を開けて驚いている。
「名前書いた。書いてあるわね。ハイ、わかりました! 完了です!」
異常に興奮しているリング。ジョーの名前を確認していた。
「おい、どうしたんだ……」
ジョーか気味悪がりながら、リングに訊いた。
リングの顔はさらに歪に笑い顔になって、口元が三日月のように妖しく笑いだした。
――そして、静かに確認書が2枚に分かれる。
(な、なんだ、2枚目があったのか?)
ジョーは驚愕するが、もっと驚愕したのはその内容だった。
そこには、『冒険者師弟契約書』と言う文字が書かれていた。
そして、ジョーの名前も記載されている。
「な、なんだ、その紙は!」
「ジョー、この紙は正式書類なのよ。ええ、これであなたは弟子を取った事になるのよ」
「はぁ、何言っている、そんなの書いた覚えはないぞ!」
「いま、書いたじゃない!」
その時ジョーはハッとする。
自分の持っている洋筆が魔道具である可能性があったのだ。
その筆は簡単に言えば、下の書類にも同じ様に文字が写るだけの筆だった。
冒険者組合のように紙に確認の為の名前を書く仕事が多い場合、1枚ずつ書くと手間がかかるため。仕事の簡略化の為に開発された魔道具だった。
ジョーはその事を失念していた。いや、そもそもここで確認する事自体がリングの罠だと気がついた。
(なんてこった。こいつ始めから嵌めようとしやがったな)
ジョーは睨む、そして急いで書類を奪おうとするが……。
遅かった―――。
リングは自分の胸元に紙を折りたたんで入れてしまった。
(なんだと……これじゃあ、服を破いて取り出すか――殺して奪うしかないじゃないか!)
ジョーに残された道は無いと悟る。リング胸を触り、さらに脱がすしかないとなれば、ある意味変質者扱いされてしまうからだ。
もう、リングは勝ち誇った顔をしている。“あんたに道はないのよ”と言わんばかりだ。
「サイモン、どう言う事だ。こんな横暴許されるのか!」
ジョーは唯一の逃げ道であるサイモンに問いただした。
サイモンもサイモンで焦った表情をしている。
「ギルマス、どう言う事ですか!?」
いきなりのリングの愚行にそう言うしかないサイモンだった。
(サイモンは知らされていなかったな。やはりギルマスの単独犯か!)
ジョーはその様子から確信する。
サイリアは呆気にとられ、椅子に座ったままだった。
「私は、この契約を取らないとどうなるか分からないの! コレは正義の行い! 私は間違って無いから」
そういって手で胸元を隠しながらリングは頑なに動こうとしなかった。
「ギルマス、いくらなんでも横暴では?」
「サイモン、これはしょうがないのよ。私、こうでもしないと職を失うかもしれないの、そうなったら、このベルンの町にいくらの損失になると思うの!?」
「知りませんよ、そんな事!」
「いいの、私が居なくなっても、あんたの家の前で『強姦された』って紙に書いて毎日たってやるわよ!!」
ミミルの脅しに流石のサイモンも黙るしかなかった。
――その言葉を最後に暫くの沈黙が続いた。
そして、リングは一瞬の隙をついて、隣の部屋の扉に移動する。
「じゃあ、今から対面します。どうぞカティアお嬢様」
そういって、呆気にとられているジョーとサイリアとサイモンを残して強制的に話を進めるリングだった。
扉を開くと、そこにはカティアとメリーダが待っていた。
「大丈夫だった、結構、騒いでいた音が聞こえたけど……」
カティアは部屋に入るなりリングに訊いた。
「えぇ、大丈夫ですよ、カティアお嬢様、全く問題なんてありません。ジョーも快く引き受けて下さるそうです。おほほほほほほほ……」
低頭平身で揉み手をしながらカティアにすり寄るリングだった。
カティアはそのままジョーの元に歩いていく、その後ろをメリーダは一定の距離を置きながら付いてきた。
そして――。
「今日から、お願いします。ジョー“師匠”、サイリア“師匠”」
そう言って頭をさげた。そして満面の笑顔のままジョー達を見つめていた。
そして――ジョーは――顔を天井に向けて思いっきり溜息をつくと――。
「厄介だな……」
そう小声でいって身体の力を抜いた。
その瞬間、強制的にカティアの正式な師匠になってしまったジョーだった。
どうでもいい裏話ですが、『依頼』字のモモガ村の村長の手紙あたりにつながっている内容です。
2枚目の紙が重なるのはよくある事、そして資料の確認はどのような時でも必要ですね。




