お嬢様は悩む
サイリアはまず光る薬草を指差した。
「では、これから薬草採取を実際にやりますからよく見ていてください」
そう言うとしゃがみこみ、葉を持ちあげる、そしてゆっくりと根の周りにある土を手で掘りだした。
そしてゆっくりとつまみ上げ。薬草を引き抜いていく。
「これで薬草の採取は完了です」
そういって立ち上がりサイリアはカティアとメリーダに薬草を見せた。
「わかりましたか? 注意する事は2点、根っこを傷つけない様に掘りだすこと。あと、薬草を踏まない事です。では、やってみましょう」
そう言って笑顔で接する。
ジョーはその様子を遠い所から眺めながら思っていた。
(あいつ、緊張しているな、喋り方、丁寧過ぎだろ……まぁ、領主の娘だからしょうがないか)
ジョーは、また視線を戻し辺りの警戒を開始する。
「わかりました……、ではやろうメリーダはそっちからな」
「はい、お嬢様」
そう言ってカティアとメリーダは光る薬草の近くにしゃがみこむ。
そして2人共、早速薬草取りに挑戦した。
その様子をハラハラと眺めるサイリア。
「アッ、カティア、もう少しゆっくりと掘りださないと根が傷つくよ」、「メリーダさん、それはまだ成長途中の薬草ですから、その横の―――…」
と口うるさく注意しながらやっていた。
サイリアの指示を素直に聞く2人。
和気藹藹と女子会のような雰囲気で話しながら薬草“摘み”をしていた。
――暫くそのまま薬草採取を続ける。
「では、今度はコレを袋に入れていきます。用意した紙に包んで、この木箱の中に入れていきます。その時薬草を詰めすぎないで出来るだけ優しく重ねましょう」
そう言ってサイリアは腰から組み立て式の木箱の鞄を取りだした。
ローブの中にしまっておける物で、薬草などをこの中に入れ運ぶのが冒険者の間で主流となっていた。
帯がついており背中に背負えるタイプだ、ソレを器用に素早く組み立てサイリアは持っていた薬草を入れていく。
「これで完了。この流れで箱が一杯になるまで続けます」
「わかりました。サイリア…さん」
カティアは笑顔だった。
「ではやりましょうか、お嬢様」
「うん、メリーダは紙巻いてね」
そういって作業をしていくサイリア、カティア、メリーダだった。
暫くして、作業中のカティアは言いだす。
「あの、サイリア…さん、ジョー…さんは、薬草採取やらないんですか?」
「ああ、いいのよ、ジョーは周りを警戒中だから、採取中はだれか1人警戒しなくちゃならないの。危ないし、基本なのよ。だから、ジョーは周りを見渡しているのよ」
「そうなの? へぇ~、知らなかった」
カティアも段々と喋り方にぎこちなさが抜けてきた。
まるで友達と喋っているような感覚でサイリアに接している。
そのまま、薬草採取を続ける3人だった。
***
「じゃあ、ちょっと休憩しましょうか」
サイリアは薬草採取の作業を止めそう指示する。
「やったー、ちょうど疲れてたの……」
そう言ってカティアは飛び上がり、背伸びをして気持ち良さそうにしていた。
「お嬢様、はしたない行動はだめですよ」
メリーダは行動を諫め、注意する。
「いいでしょ、休憩なんだから…それより…疲れた」
「お嬢様、その前にお手を奇麗にして下さい」
カティアは素のままの表情になりながら身体を動かしている。
メリーダは溜息をついてヤレヤレといった表情をした。
「カティア、メリーダさん、水流で手を洗って下さい」
サイリアはそう言って魔術で水を出した。
そうして、そのまま手を洗い、お互いに持っている簡易食料を食べて休憩していた。
「あの、サイリアさんはCランクでしたよね……何年位でそこまで上がれたんですか」
カティアはサイリアに訊いた。かなり真剣な表情で。
「そうね……4年位だったかな、冒険者になったのがそれ位前だから」
「4年ですか! 早い、普通の冒険者なら8年くらいかかるって……」
カティアは凄く驚いた顔をしていた。
「お嬢様、ギルドマスターの方が言っていました。『優秀な』冒険者をつけると……」
「そうだったわね、あのギルドマスターが、おべっかばかり言っていたからどうでもよくて忘れてた。凄いですねサイリアさん」
カティアは憧れた瞳でサイリアを見た。
サイリアは嬉しさと気恥ずかしさが混ざった表情をしながら、被っていた帽子の位置を直す。
「でも冒険者って、全員優秀だってお父様が言ってた。メリーダも聞いた事あるわよね?」
「ええ、そう聞きますね。ベルンの町の他にも冒険者の需要は高いですから」
そういって、カティアとメリーダは冒険者を称賛する言葉を述べていた。
しかし――その横から。
「おいおい、冒険者“全員”が優秀だって……」
ジョーが近寄ってきて声をかけた。
その瞬間、カティアはビックリしていた。
「ジョー、周りの様子はどうだった?」
「問題無し、いまの所は……だけどな……、それより俺にも食べる物くれよ」
「はいはい、渡します」
そう言ってサイリアは手に持っていた。焼き菓子の塊のようなモノを差し出す。
それをとって食べ始めるジョーだった。
「あの…、ジョー…さん、さっきの言葉どう言う意味ですか?」
カティアはオズオズと言う感じで訊いてみた。
「言葉通りの意味だ。冒険者は全員が“優秀”では無い。コレは間違いない事だ」
「でも、強いし、仕事も出来るって」
「それは、間違いじゃないけど、正解でもない。詳しく話そうか……まず冒険者になる為に必要な条件はなんだ。勇気とかじゃなくて、どう言う人材がなれると思う?」
「えっと……13歳以上の男女だけ? あれ、他にあったかな?」
「正解、ただそれだけだ。 つまり13歳になれば誰でもギルドに登録出来る。あくまでも裏ギルドは無しにしてだぞ……でも、“誰でも”は建前だ」
「どう言う事ですか?」
「カティア、冒険者はそれだけじゃない、重要な事がある。『算術』、『挨拶』、『知恵』だ。
『算術』は簡単に武器や防具、道具、馬車の世話代、宿等の調達などで使われる、後は迷宮など長期に渡る計画を立てる時に使う。
それが出来ないと、途中で破産したり、騙されたり生計が成り立たなくなる。
まぁ、奴隷落ちになるだけだ。
次は『挨拶』だが、これは広く定義されているが。そうだな……依頼者への挨拶や、おおきな依頼で多数の組みが集まった時などでお互い仲良く出来る奴だな。気配りが出来ないと駄目だ。
始めのカティアのように傲慢な態度だと、苦労するぞ……」
ジョーはそこまで言うと、初めのころを思い出したカティアは顔を真っ赤にしていた。
思い出したくもない挨拶だったろう。
隣にいたメリーダは顔を隠しているカティアを気づかった。
「ジョー、余計な事言わないの」とサイリアも注意していた。
(わかっているよ、ちょっとした意趣返しだ)
ジョーは軽く笑っている。
「そして、最後は『知恵』だ。コレがある奴と無い奴ではかなり違うからな。依頼に対して出来る、出来無いの判断をする時。危険を回避する時。緊急事態の時の対処など……まぁ大まかにいえば『才能』みたいなものだな。
つまり、これが出来ない奴又は阿呆な奴は冒険者になって1,2年で、死ぬか奴隷落ち、良くて自ら辞めている…と言う訳で残ったのは優秀な奴になるって寸法だ。冒険者は自由だが、ソコをはき違えている奴が多い。それに優秀な奴でも『運』が無いと死んじまうことだってある。
色々言ったが、とりあえずこれ位出来ないと冒険者として生活は無理だ」
ジョーが断言するようにカティアに告げると、とても落ち込んで悩んでいた。
「ジョー、言いすぎじゃないの?」
――サイリアは小さい声で言った。ジョーと小声で話し合う。
「サイリア、冒険者のなんたるかを教えるのも臨時だけど師匠の役目だよ。危険だと理解させるコトも重要な話だ」
「もう、脅しにしては刺激が強いじゃない」
「まぁまぁ、この話はギルドで言われている真実だよ」
「そうだけど……いま言う事かしら」
「まぁ……いま言う話では無いな…」
ジョーがそう言うとサイリアは杖でジョーの脇腹に一撃を喰らわした。
「もうジョーのアホ!」




