お嬢様の初説教
ジョー達は火を消し止めた後1つにまとまっていた。
これからカティアにお説教をしなくてはならない。
「えぐぅッ……えぐぅッ……フエェェ……」
カティアの瞳から涙が止めどなく溢れ出ている。
それをメリーダが慰めている。
その前にジョーが立っていた。
傍目から見ればジョーが子供を泣かしているようにしか見えない。
「お嬢様、泣きやんで下さい……」
メリーダは布をカティアの目元にあてて涙を拭っている、ついでに鼻水まで拭いていた。
(なんだ、俺が悪者みたいじゃないか……)
ジョーは思う。横にいるサイリアに白い眼でみられながら。
「ジョー、やりすぎじゃない。まだ子供よ」
サイリアは小さい声でそう言った。
(だって、しょうがないだろ……)
ジョーもどうしていいか困って腕を組んでいたまま黙っていた。
「カティア、聞け」
ジョーは出来るだけ優しく言ったが、そこの言葉にカティア反応してビクッと身体を怖がらせた。
泣くのは止まっているが目元が赤く腫れているのがジョーからも分かった。
「お前は、間違った対応をした。そして冒険者としてやってはいけない事をした。理由はわかるか?」
ジョーがそう問うと、カティアは目線を下にして考え込む、そして―――顔を横に振った。
「カティア、まず、第一にゴブリンの集団を侮って行動している。それがいけない」
「……でも、倒したし……」
カティアは言う。そう小さい声で子供が拗ねていた。
ジョーは「ハァァァァ…」と溜息をついてカティアを見る。
するとまたカティアはジョーの顔を見て怯えた。
「カティア、魔物はただ倒すだけでは駄目だ。冒険者になるなら、いかに危険を回避して戦闘すべきだ。さっきだって向こうは気付いて無かった。あのまま隠れて倒した方が危険も少ない。それを無闇に挑発して倒すのは愚か者のする事だ。そうするのはよほどのアホか無謀な奴だけだぞ。わかったか」
「……うん」――カティアは頷く。
「それに、森で炎魔術なんか使った、それが駄目だ。冒険者学校で習わなかったのか。いかに危険があるのかを……」
「……だって、教師は褒めてくれたし、才能があるって。それに危険だって教わらなかった……」
カティアはさらに小さい声で言う。
(これは、あれだな……、領主の娘だから“ひいき”されていたな)
ジョーはそう思い考える、どうすれば伝わるか。
「カティア、聞け。森での炎魔術は危険だ。森の木は生木だから燃えやすくは無いが季節によって乾燥した時は燃えやすい、それに落ち葉に移るからな、今回のように一度火を消しても燻っている事もある。そういう場合森が火事になる。そうするとどうなると思う?」
「……大変になる……」
そう答えるカティア。
その想像力の無い答えにまた怒りそうになるがジョーは我慢した。
「カティア、確かに火事になるのは大変だ。そして火事になるとその場所で仕事をしている冒険者や町の住民は死ぬ事もあるぞ、その後で火事の原因を作った奴は冒険者組合で仕事もしづらくなる。カティアは知らないと思うが冒険者は基本自由に行動出来るがその分責任もついてくる。自分勝手にやっては駄目だ。依頼は繋がっている、冒険者も個人主義にように感じるがギルドに所属している以上は共同体だ。
もし、自分の起こした火事で人が死んだと知ったらどう思う?」
ジョーの質問にカティアは驚いて、そのまま固まる。
何も言いだせなくてどうしていいか分からないようだ。
(そこまではまだ考えていなかったようだな……)
ジョーはカティアの様子を見てそう思った。
「カティア、自分のした事は理解したな……、今後、このような事を続けると冒険者の仕事が誰とも組めなくなるぞ。孤立して問題を起こすだけだ。
炎魔術は沼地、水辺、草原などの火が消し易い所で放つのが基本だ。
他には戦争時や緊急時以外冒険者ではあまり使用しない。威力は高く殺傷力もあるが、それだったら風魔術や土魔術の方が、応用が利くから冒険者は良く使うぞ。
……そもそも、ほかに魔術は出来ないのか?」
ジョーの質問にカティアはもぞもぞして答える。
「……、えっと、風魔術が少しだけ、それと魔術矢」
「それを使えばいいじゃないか?」
「……あまり得意じゃない。炎魔術が…一番相性が良いから……」
カティアはそう言って恥ずかしそうにしていた。
(ああ、つまり一番得意な魔術で自慢したかったんだな)
ジョーはカティアの気持ちが理解できた。
「魔術を使う時は場所と地形と状況をまず考えろ、そして、もう1つ注意する事がある」
そう言うとカティアはジョーの顔を見て泣きそうになっている。
「戦闘の始め、すぐに飛び出していったな。メリーダさんと言う前衛がいながら前に飛び出し陣形を崩して戦っていた。それに剣伎もそれほど得意じゃ無い様だ。結果助けようとしてメリーダさんが焦り、カティアは危険な状態になった。これはゴブリンを侮って自分の力を過信した結果だ。わかるだろ、助けに入らないと危険だった。連携もとれない奴は冒険者として大成はしないぞ。Sランクなんて程遠い」
ジョーがそう言うとカティアは自分が言った“Sランク冒険者”の話を思い出し、顔を赤くした。
「それにメリーダさん! あんたもだ!」
ジョーはカティアを心配そうに見ていたメリーダに話題を変える。
メリーダも突然の事で驚いていた。
「メリーダさん、戦闘の中の動き……剣伎は基本が出来ていると思うが、動きが固い……、あんた“処女”だな。剣の稽古だけで実戦は始めてだろう」
ジョーは“処女”と言うが乙女の事では無い、つまり戦いで魔物を殺した事が無い女冒険者を指す。
「……はい、おっしゃる通りです。道場には通っているのですが、魔物と対峙するのは初めてで……どうしてわかったのですか?」
メリーダはジョーに質問する。
「腰が引けていた、それに動きも固い、さらに言えばカティアを助けようと動きが散漫になって荒い動きだった。多数戦闘をこなしていない証拠だな、道場稽古のように1人だけに集中する奴の動きだった」
ジョーはそう指摘する。
そう言われメリーダも落ち込んでいる。
カティア共々沈んだ表情になってしまった。
「ジョー、ジョー、悪い所だけじゃなく、いい所も言わないと、凄く落ち込んでいるじゃない?」
サイリアはジョーの横に近づいて助言を送る。
(良い所? ほとんど無いだろ……無茶な注文を……)
ジョーはそう言われ苦悩する。
「だが……なんだ、カティアは積極的に魔物を倒した事は評価する。メリーダさんは警戒して初動まではよかったぞ」
そいって無理やり褒めることにした。
すると、カティアもメリーダも表情が晴れてきた。
(エツ、こんな簡単な事でいいの? 簡単過ぎない2人共)
ジョーは驚く、たいして褒めていないのに予想外に喜んでいる。
「サイリア、こんなんで良かったのか?」
思わず隣にいるサイリアに訊いてみた。
「まぁ、良いんじゃない? あんまり褒めない人に褒められたら、うれしいじゃない」
「……そうか、これでいいのか」
(教える側も嬉しいもんだな。 始めはやる気なかったけど……少し頑張るか…)
ジョーはそう思い考え直す。
「よし、次に行こう!」
ジョーが活気ある声でそう言うと、カティアとメリーダが元気に頷く。
「次は、丁度ゴブリンを倒したから、“耳剥ぎ”と“処理”の実習だな」
ジョーがそう元気良く言う。
すると――当然ながら、カティアとメリーダはもの凄く嫌な顔をして固まっていた。




