依頼
「い・や・だ! 断る!」
ジョーは言う。大声でそして非常に嫌そうな顔をして。
ジョーの目の前にはベルンの町にギルドマスター【リング=ディレイ】がいた。
そしてココはギルドマスターの部屋の応接室にサイモンとサイリアも同席していた。
ジョーとリングは向かい合って話し合っているが、余所から見ればその話し合いはご破算だろうと見える。
リングはニコニコと笑い、サイモンは溜息、サイリアは心配そうにジョーを見つめている。
そしてジョーはこれでもか! とリングを睨む。親の敵では無いが、それに近い憎悪感をジョーはリングに抱いていた。
それは言わなくても分かるだろうから言わないが過去に色々とあったからだ。
「ジョー、嘘よね。この私が頼んでいるのよ。もう一度言って」
「い・や・だ!」――ジョーは叫ぶ。
「ジョー、お願いニャン?」
「い・や・だ!」――ジョーはもっと叫ぶ。
「ねぇ、聞いて欲しいニャン、依頼の事私に免じて受けて欲しいニャン」
「い・や・だ!」――ジョーはもっともっと叫ぶ。
「ジョー、依頼が終わったら私の身体を……」
「消えろ、年増!」
ジョーはリングが言い終わる前にそう言って最後まで言わせない。憎悪を込めてその言葉を吐く。
「なんだと、このクソ餓鬼!」
リングはそう言いながら机を思いっきり叩いた。その表情には鬼が宿っている。
だが、ジョーも引かない、そのまま両者睨みあいを続ける。
「止めなさい、2人とも。子どもの喧嘩じゃあるまいし」
サイモンが一瞬即発の空気漂う両者にそう言い聞かせるように止めに入った。
そう言うと、両者腰を落とし深く椅子に腰かける。
だが、睨みあいは続いていた。
その様子にサイリアは「フゥー…」と息を吐いて、緊張を解くが警戒は続けるようにジョーを見ていた。
サイモンもリングに話しかけ、落ち着くように言っているようだ。
こうなったのには理由がある……。
――30分程前、ギルド内、受付での事。
「ジョーさん、依頼完了です、ご苦労さまでした」
アリアはジョーに頭を下げる、あくまで仕事の一環として。
「アリア、いつもありがとう。それでこの後なんだけど……」
「無理です。それより、手紙が届いていますよ」
ジョーの話を区切り、アリアはそう言って受付の箱から手紙を渡す。
ジョーは落ち込みながら手紙を受け取るとサイリアが座っている長椅子の近くに近寄って座った。横に背負っていた蛇腹刀を置く。
「どうしたの? その手紙?」
サイリアは落ち込んだジョーに訊いてみた。
「ああ、……モモガ村の村長からの手紙だな……、なんだろう?」
そう言って、ジョーは手紙を開ける。ビリビリと封筒を破り中にあった手紙を取り出すと、読み始めた。
「………」
ジョーは無表情で手紙を読んで、サイリアは頼んでいた甘い果実を搾った飲み物を飲んで静かに待っていた。
「……どう、なんて書いてあった?」
サイリアは何気なしに訊いてみた。
「ああ、お礼の手紙だな、読んでみろよ」
そう言ってジョーはサイリアに手紙を渡す。
「えっと……『ジョーさん、サイリアさん、モモガ村の村長のシバです。こうして急に手紙を…――――――、村は貴方達が帰った後魔物も少なくなり落ち着いてきました。どうもありがとうございます。……―――――――――そして、我が村でも無事、お見合いが成功し15組の夫婦誕生して村に移住してきました。それもこれもジョーさんとサイリアさんのお陰です』
…だって、嬉しいわね、こう言うお礼の手紙を貰えるなんて」
サイリアは嬉しそうに手紙を読み上げた。ウンウンと頷き有頂天になっていた。
「サイリア、2枚目も読めよ」
ジョーがそう言うとサイリアは読んでいた手紙が重なっているのに気がついた。
「えっと『追伸、………………――――――――』」
サイリアは途中まで読んで無言になった。
そこにはこう書かれている。
――追伸、村でのお見合いで貴方たちの町のギルドマスターが参加なさいました。随分と苦労されている事でしょう。もし、お辛くなったらいつでも我が村はジョーさんとサイリアさんを歓迎します。それにたまには癒しと言うモノも必要かと思います。心労で身体を壊す前にどうかご自愛下さい。 モモガ村村長 シバより。
「ジョー、これって……」
サイリアはそう言ってジョーを見た。
「ああ、ギルマスがモモガ村のお見合い会で“やらかしたと言う事だ”」
【ああ、そうだな、それにまだギルマスをやっていると言う事は成功もしていないだろうな】
スネークは真実を告げる。
「そっか、この町を出ていかないのか……」
残念そうに言ってサイリアは手紙を折り曲げた。
そしてそっと自分の鞄にしまう。
「ああ、だからこの前居なくなって、そして荒れて帰ってきたんだな」
【まぁ、そういうな、ジョー、結果は分かっていたんだろう】
「まあな……、しかし、成功して欲しかった。その相手には悪いけどな」
そう言ってジョーとスネークは笑い、サイリアとの談笑をしていた。
その時、受付の1人であるエリーザがジョー達の元に来た。
「ジョーさん、サイリアさん、少しいいですか、サイモンが探しています」
そう言って呼び出されサイモンと共にそのままギルドマスターの部屋に通された、そして有無言わさずにジョー達に仕事の依頼を頼んだ。
『特別依頼として、領主の娘の面倒を見て欲しい』と言う依頼を。
――そして話しは冒頭に戻る。
「何が不満なの。もっと上積みするわよ」
リングは挑発的に言う。
「ヤダ、もうギルマスの特別依頼は受けない、他の奴らに頼めよ」
ジョーも真面目な顔でそう言う。
「もう言ったわよ。ランク高い者には声をかけたわよ、そしたら皆『具合が悪い』、『もう専属の依頼が入っている』とか言って断ってきたのよ。それに領主の娘よ、下手な人選にする訳にもいかないし、他に有望なやつらもどっか長期遠征に行っちゃうし」
リングは怒りながらそう言って愚痴を言ってくる。
それをサイモンがなだめると、リングは落ち着いてきた。
(まぁ、それも日頃の態度からだよな、みんなに避けられるのって……)
ジョーは妙に納得する。
「それでですね、ジョーさん、サイリアさん、この『冒険者師弟制度』はギルドとしては必要な事なのです、それに領主様からの直々のお願いですから危険の無い人選でCランク以上の方にお願いしているんですよ」
サイモンはそう説明するようにジョーに言った。
『冒険者師弟制度』とは若く経験の少ないGランクの冒険者を対処にして育てる制度。通常はE、Dランクの依頼になる事が多いが依頼料が安く人気が無い。
しかし、義務と義理として冒険者達の中にある当番制の依頼のような形になり、内容は狩りの基本的な仕方、攻撃、防御の技能の指導、動き方や注意点、その他雑事の仕方など実践において後進を育てる為にギルド側が設定した制度になっていた。
必要な事だがやる側としてはやる気の出ない仕事だった
「だがな、サイモン、これって只の“護衛”の仕事だろ? だから特別依頼になってんだろ?」
ジョーはリングとの関係で言葉に熱が入っている。
「ジョー喧嘩腰は駄目よ、サイモンさんは別に悪く無いじゃない」
サイリアもそんなジョーを止める。
そう言うとジョーは深呼吸して自分を落ち着かせた。
「まぁ、ジョーさんの言う通りですが。その為に特別依頼にさせてもらいました。Gランクの依頼ですが、この前のゴブリン達の襲撃で随分と町周辺が荒れましたから。その状況では万が一という場合も出てきます。その為の処置ですよ。どうかお願いします」
サイモンはそう言って頭を下げる。
そうサイモンに言われ、心が揺らぐジョーとサイリア。
なにかと世話になっているサイモンのお願いを聞く事はジョー達にとっても吝かではない。
心が動きかけるジョー達に、この女性が動く。
「ジョー、ギルドマスター命令よ、この依頼受けなさい!」
そう命令口調で言ってくるリング。
その高圧的な言葉にジョーは……。
「断る! 俺達は町を出ていくぞ! そうすれば命令も何も関係無い!」
腹の中に溜まっていた怒りをぶちまけてジョーは叫んだ。
その瞬間、サイモンは「…余計な事を」と言って頭を抱える。




