祝杯
ジョー達は『王様小鬼』の討伐を終え、翌日、参加者全員で冒険者組合にある大広間の一室で、ギルド負担で飲み食いを行っていた。
いわゆる祝賀会と慰労会を合わせた飲み会のようなものだ。
それは、なぜかというと、今回の討伐戦では追加報酬が一切出ないからだ。それでは可哀想だと思いサイモン主催でこの会は開かれていた。
ギルドで仕事の出来るサイモンならではの気づかいであった。
そこにはかなりの人数が集まっている。
騒がしい雰囲気だった、殆どの者たちの顔も赤い、気分が高揚している様子でみんな笑顔で酒をのんでいた。
そんな集団の一室でジョー達も席に座り酒と食事を楽しんでいる。
「ふふぁ~あ……」
冷たい麦酒を飲み干しジョーは思わず声を出した。
(あ―――、生きてて良かった!)
そう思いながら五臓六腑に沁みわたる酒の美味さを感じていた。正確には違うのだがそのような比喩表現としておこう。
サイリアも横で菜食をメインにして食事を楽しんでいる。
料理は種類があり、サイモンが1日で準備したとは思えない位であった。
さすが仕事ができる男サイモンと言う事にここはしておこう。
「でも、ジョーに上手い所を取られたね、今回は……」
ラビスが麦酒の入っているコップを片手にそういった。
ジョーの周りには今回の作戦の特攻組が仲良く集まって飲んでいた。
「その話はいいだろう? それより飲もーぜ」
ジョーはいつもように、酒をつき出しラビスの話しを煙に巻こうとする。
「まぁ、いいけど、それにヒュールもいつ頃ジョーが隠れてるってしってたの?」
ラビスはオジュールと話し込みながら酒を飲んでいるヒュールに質問した。
ヒュールはその質問に飲んでいる酒を飲み干すとコップを机の上において、考え込む。
「そうだな……割と直ぐに居なくなっている事に気がついた。突撃中にはジョーは姿をけしていたな」
ヒュールはそう言うと食事用の長い卓の上に置いてある肉料理を食べだした。
「何、初めからいなかったの? 私、ゴブリンの大群に負けたら犯される事も覚悟してたのに、必死になって戦ったのにぃ~」
ラビスは悔しそうな顔をする、戦闘時間と苦労の割合はどう考えてもラビスや、アンジー、ラリー、そしてヒュールの方が多かったからだ。
「まぁまぁ、いいじゃないか。どうせ、ジョーの事だ『貰えるカネは変わらない』って言うにきまっているよ」
アンジーがラビスを慰める。ミレイも何も言わず一緒に慰めている。“気にすんな”そう言いたそうな感じであった。
ジョーは麦酒を飲みながら何も言わず上を仰ぐ。
「ジョーってそんな所があるわよね……」
サイリアはそう言ってジョーを横目で睨んでいるが、ジョーは「今日の酒は美味いな」といって気にもしていない。
「まぁ、いいしょ? 気にするなよ、ラビちゃん」
ラリーは女性陣の為に料理を運び、後ろからそう言った。
「俺らは冒険者さ、効率よく動かないといけない事位みんな解かってるって。おっと、コレ美味しいから食べなよ」
そう言ってラリーは机の上に料理を置いていく。
女性の扱いに慣れている様子でさりげなく好感度を上げるラリー、そうした態度にラビスもアンジーもお礼をいった。
それに反応してラリーも格好をつける。
「まぁ、でもみんな無事でよかったよ」
アンジーが赤みの差した顔でそう言って笑顔で喜んでいた。
「まぁね、それが一番よね」
ラビスも同意する。
「そういやぁ、ヒュールが突然無謀な攻め、繰り返していたけど、あれって全部計算?」
ラリーは席に座りそう言いだす。
「ああ、そうだよ、ジョーが襲いやすい地点と、敵から分断して距離を計ってた。それにあの場所は周りに空間が空いているから、“ゴブリンキング”も俺達に注意が向いて周りが見にくくなる場所まで誘導した」
そう事も無げに言いだすヒュール。
それにラリー、アンジー、ラビスも驚き、事情を知っている周りいる者達も驚いた。
「ガッハハハハ! さすが翼陽の団の頭脳であるヒュール“殿下”だな」
オジュールが酒を呷りながら大声で褒め称えた。
ヒュールは「……よせよ」と、酒を飲みながらむくれていた。
「ああ、俺は信じていたぜ、ヒュールを…な! 有言実行のヒュール“殿下”」
ジョーはここぞとばかりにヒュールを褒め称え鋭い視線を送った。
「たく、オジュールもジョーもからかうのは、よせよ、俺は約束を守っただけだ」
ヒュールは頬つえをついてますます機嫌を損ねた顔をした。
その表情に一同が笑い始める。
そうして、もう一度乾杯をしてみんなで酒を呷っていく。
「アッッ!」――突然、ラリーが大声をあげた。
「どうした、ラリー?」
近くで飲んでいいたミックがラリーを心配そうな顔で見ながら言った。
「忘れてたぜ!」
ラリーは立ちあがり、チーム“ミラーキャット”が座っている場所まで歩いていく。
「ラビちゃん、あの約束覚えているか。“やらせてくれる”って言う」
ラリーは真面目な顔で跪くとラビスに向かって手を差し伸べる。
ラビスは鼻で笑い。
「あら、そんな事いったかしら? 忙しかったから覚えて無い」
と、ラリーの手を払い、どこかの貴族の御嬢様のような口調でいう。
ラリーは「そんな……酷い」といいながらうなだれる。
その様子に三槍将のミックとグレーは「馬鹿だな……」と、言いながら呆れていた。
ラリーは立ちあがり帰ろうとするが、その瞬間アンジーが立ちあがりラリーを止める。
「まちな、ラリー、私は“いいよ”」
アンジーはそう言ってラリーを引きとめた。
「ちょっと姉さん、いいの?」
ラビスは驚いて訊いた。
「いいよ、そのかわり……」
そう言ってラリーの股を掴む。
「この“槍”が折れるかもしれないけどね」
「ウグッ!」と、一瞬男性の急所を不意に掴まれた事で声を出すが、ラリーはアンジーを真剣に見つめて。
「いいのかい、俺のは、…凄いぜ」
ラリーは意気込んで宣言した。
「ええ、あんたの“槍使い”の腕を見せてちょうだい」
アンジーはイヤラシイ吐息を出しながらラリーに言う。
こうして2人は肩を組みながらギルドの外に歩いていった。
その時、ラリーは片腕をあげながら勝利宣言をしていた。
その様子をジョーは白い目で見ながら眺め、横にいるサイリアは恥ずかしそうにしながら酒を飲んでいる。
「あいつ、明日は使い物にならないだろうな……」
ジョーが何気なしにそう言って、冒険者達の祝杯は夜遅くまで続き、さらに喧騒とした雰囲気になり、いつも通りの喧嘩騒ぎに発展していく。荒くれ者も多く居る冒険者ならではの光景だった。
しかし全員どこか楽しそうに過ごしていた。
【後日談】
翌日ラリーは帰ってきた。―――アンジーに“抱えられて”
すっかり干物のようになって顔をテカテカにしていた。抜け殻のようだが、その顔は桃源郷にいったように満足していた。
「全く、途中で“槍”が中折れしちまったよ!」
アンジーはそう言ってラリーを荷物のように扱い仲間の元に戻っていった。
『男喰らい(マンイーター)』のアンジーの異名はさらにベルンの町の冒険者の間で恐れられた。
次回から第3章です。




