王様小鬼討伐戦[9]
「ヤバ! 切れるかも」
ラビスは不安そうに言いだした。
すると暴れだしていた森の木々の根が元に戻りだす。ラビスの『森精霊魔術』が切れたと言う事だった。
シュルシュルと地面に戻っていく植物の根っこだがそれが無くなって姿を現したのは小鬼の群れだった。
「ぎゃ! ぎゃ! ゲェェェ!」
そう奇声を上げながら小鬼の大群はラビス、アンジー、ラリーを標的にじっくりと展開しながら向かってくる。
ラビスは鞄から“魔力回復薬”の瓶を飲み干すとそのまま瓶を投げ捨てる。
「ラビちゃん、もう一度、魔術行使できるかい?」
ラリーは敵を睨みながらそう言った。
「無理、まだ魔力が回復しない、それに身体がだるいからもう少し時間を開けないとこの大群から逃げ出すだけの魔術は行使できない」
ラビスも苦しそうな顔をした。
「しょうがないねぇ、ここは私とラリーが抑えるから、ラビスはヒュールを手伝いな」
アンジーは男前に命令した。
その命令にラビスは「わかった」と言って踵を返し後ろにいるヒュールの援護に向かう。
「PYUUU(ピュ―)。カッコイイ、アンジーちゃん、抱かれたい」
ラリーは口笛を吹き、冗談を言った。
「コレが終わったら町でいくらでも抱かせてやるよ」
アンジーは薄ら笑顔を浮かべて武器を構える。
――2人は激しい戦闘に入った。
ヒュールは避ける、避ける、避ける、転がる、転がる、また立ち上がる。そうして何とか王様小鬼の攻撃をしのいでいた。
敵は愉悦して攻撃していた。圧倒的優位に喜び自分で造った武器を振り回し叩きつけていく。
横に、上から様々な角度でヒュールを襲う。ソレを紙一重でかわしながらヒュールは王様小鬼接近していた。
本当に少しずつだ。
また巨木の一部がヒュールの頭の上を通過する。
「よく切れないな、クソ」
と、敵の特殊能力である『蜘蛛の糸』の強度に思わず独り言の暴言を吐いた。
いつもは冷静なヒュールだがさすがに防戦一方だと心が抑圧されて言い訳のような言葉の1つでも言いたくなるものだ。
そうは言ってもヒュールは悪態をつくだけでは無い、冷静に計算も同時にしていた。機を窺っている、短剣を両手に持ちながら“炎熱切裂”を繰り出す機会をだ。
先ほどラビスを助けた時にその技で蜘蛛の糸が切れると確認していた。
(動けない、早くしないとオジュール達が……)
ヒュールは団長と団員達を心配する。
だが、中々、機会が巡って来なかった。
「ヒュール、屈んで!」
ヒュールの後ろから声がするラビスの声だ!
その声に反応してヒュールは素早く身を屈めた。
「風よ、その力を示し、纏まり、そして弾けよ。衝撃球」
すると後ろから巨大な風の球が王様小鬼目掛けで飛んでいった。
それに気がついた王様小鬼は振り回している倒木を風の球に叩きつけ迎撃しようとした。
[ドオォォォン!]――風の球と巨木の一部が弾け飛ぶ。
木は飛ばされ地面に突き刺さった、そして風にあおられ王様小鬼の動きも止まる。
そのまま暴風が辺りに舞いあがり、地面の葉も辺りに舞う。
ヒュールはその瞬間飛び出した。
葉が姿を隠し、一気に王様小鬼との距離を詰めると、《炎熱切裂》を行使して巨木に繋がっている糸を切断する。そしてそのまま王様小鬼に斬りかかった。
「ギャァァァァァァウ!」
悲鳴を上げる王様小鬼、ヒュールが左手の一本を赤く燃えるような短剣で切り落とした。そのまま王様小鬼は後ろに飛んで後退していく。
「ココだぁぁぁぁ!」
そう叫びながらヒュールは肉体強化魔術を使い距離を詰めて、連続攻撃を繰り出した。
左右の短剣で斬りつけながら王様小鬼を追い詰めていく。
だが、王様小鬼は反撃とばかりに右手を出して蜘蛛の糸を放射状に飛ばしてきた。ヒュールも燃え上がる短剣で振り払い切り裂いていくが……、その間に距離を取られてしまった。
「わたしにまかせて!」
横からラビスが走り込む。軽快な速度でレイピアを構えるとすぐさま攻撃体勢を整える。
「ラビス、右に“外せ”!」
ヒュールは大声で命令する。“当てろ”でな無く“外せ”そうヒュールは命令した。その言葉を理解するのに一瞬戸惑うラビス。
だか、言われるまま王様小鬼の左側に攻撃した。
そのまま当たる訳でも無く、すんなりかわす王様小鬼。
再び距離を取って身構える。
「ちょっとヒュール。外せってなによ!」
思わず大声を出すラビス。
「ラビス、もう済んだ。それにさっきの攻撃は致命傷にはなんねぇよ」
ヒュールは武器を構えながら近づいた。
「それに、もう 王手だ! …そうだろ『蛇と騎士』」
すると王様小鬼の樹上から黒い影が飛び出した。
――そのまま蛇の様な黒い影線が王様小鬼の背中から腹に突きささる。
「ギュウアアアアァァァァァァァ………………」
王様小鬼が悲鳴を上げた。
と同時に地面に倒れ込んだ。正確には地面に押しつけられたと言う表現が的確かもしれない。
ジョーがそのまま王様小鬼の背中に着地していたのだった。
地面に倒れ込む時に鈍い音と共に何かが砕ける音もした。
ジョーはそのまま蛇腹刀を王様小鬼に突き刺していた。虫の息の王様小鬼だが、まだ生きようと抵抗を続ける為に弱々しい奇声を上げながら身体を動かそうとする。
「スネーク、『噛みつけ』」
【……わかった】
すると王様小鬼の動きが止まる、激しく痙攣しだした。
ソレを確認するとジョーは蛇腹刀を無理やり抜いて。王様小鬼の上から飛び降りる。
そして、そのまま横に移動して……。上段に蛇腹刀を構えた。
その光景は断首台の囚人と処刑人に似ている。物語りにある哀れな王様の最後の光景のようだった。
そして首を差し出す“囚人”に“処刑人”が剣を振り下ろした。
「ギャァァァァァァァァァ―――――――!」
王様小鬼の最後の断末魔が辺りに響いた。
そのまま青黒い血が地面に吹き出した。
「ジョー!」
ラビスは嬉しそうな声を上げる。
「お疲れ、ジョー」
ヒュールも安心した顔でジョーに言った。
ジョーは王様小鬼の首を持ちあげてラビスとヒュールに近寄っていく。
「ああ、“作戦通り”だな」
そう軽く言った。
「そうだ! ジョーあんた今までどこにいたのよ!? 姿も現さないで隠れてオイシイ所持っていちゃって」
ラビスは捲し立てるように怒鳴りだした。
「何言ってんだ、ラビス作戦通りだって。そうだろ? ヒュールは言ったぜ『王様小鬼だけを狙え』とな!」
ふざけた表情をしながらラビスの怒りを煙に巻くジョーだった。
その答えにラビスは唖然となり、そしてヒュールは笑いながら道具鞄から手製の木砲を取り出して短剣で導火線に火をつけ上空に狼煙を打ちあげた。
[ドン!ドン!ドン!]
と、音がして赤い閃光と煙でオジュール達に合図を送った。
――ジョーとラビスは言い争いをしている。
【おい! 喧嘩している場合いじゃないだろ、アンジーとラリーを助けに行かないのか?】
スネークはそう言って2人の喧嘩を止めた。
そのまま急いでジョー、ラビス、ヒュールは2人の元に向かった。




