王様小鬼討伐戦[8]
ヒュールは乱戦の中、辺りを窺う。
ラビスの魔術で小鬼達が木の根で吹き飛び、絞めあげられていた。
アンジーは隙間から這い出てくる小鬼達を大剣で一刀の元に斬り伏せる。
ラリーも細かいステップをしながら器用に小鬼の喉元を突き刺し倒しているようだった。
(ジョーがいない、“紛れた”か……)
ヒュールは気配を探るがどこにいるか分からなかった。
「ヒュール!」
突然ラビスが声を出す。
その声に我に帰るヒュール横から2匹の小鬼が接近していた。
小鬼達は手に持っている武器を振りあげ攻撃する。
ヒュールは素早くかわすとすれ違いざまに首元に短剣で切りつける。青黒い血が噴き出しそのまま2匹の小鬼は喚きながら絶命した。
「よそ見すんな!」
ラビスはレイピアで小鬼を突き刺しながら注意した。
「悪い!」
ただ言葉少なめにそう返事をするヒュール。
(さて、どうするか……)
奇襲に失敗したヒュールは次の手を考える。現在の戦力を計りにかけ状況を再確認しながら答えを探す。
ラビスの魔術のお陰で戦場は混乱し一時的に防御陣のように木の根が敵を阻んでいる。
(撤退か……。このまま一矢報いるか)
ヒュールはチラリと王様小鬼を見る。ヒュールから距離を取って辺りを警戒しながら攻めてこない。
「…チッ、しょうがねぇか…」
吐き捨てるように独り言を言って、そのまま王様小鬼に向かうヒュール。
「ここは任せる!」
そう言ってそのまま一直線に飛びだした。
ヒュールはそのまま王様小鬼を攻めるが、ヒュールが近づけばその分遠ざかる。間合いに入らないように慎重に戦い始める王様小鬼。
(やっぱりか……)
ヒュールは外見から蜘蛛と同じ様な能力であると理解する。と同時に厄介な問題に直面することになった。
蜘蛛は俊敏性も優れ、特に振動に敏感な生物であると知られている。つまりヒュールの歩く振動に反応して動いていると言っていい。
「とりあえず行くぜ!」
ヒュールはそう言うと短剣に魔力を集める。
「……風暴切断」
ヒュールはそのまま右手を振り抜き幅2mの風の巨刃を飛ばす。鋭利な刃では無い風の暴風そのものを竜巻のように纏めたものが王様小鬼目掛け一直線に向かう。
が、そのまま王様小鬼は横に跳躍してかわす。
と、それを予測していたかのようにヒュールが投擲用の短刀を投げつけていた。
しかし、王様小鬼は手をかざし、手のひらから蜘蛛の糸を放射状に投げつけた。防御膜のように広がり、ヒュールの投げた短刀を巻きこんでそのまま地面に落ちる。
「ヒュール、無茶しすぎだよ」
アンジーが駆け寄る。
が、ヒュールは独り言を呟いてアンジーの問いかけに答えようとしない。
その間にラビスのラリーも小鬼達を倒して徐々に後退してきた。
「ヒュール、作戦は失敗だよ、早く撤退の準備をしな!」
アンジーは現状からそう言った。
確かに作戦は失敗している、奇襲作戦はもはや意味をなしていない、それどころか逆に数の不利で追い詰められていた。
「姉さん、撤退しないの? あたしの魔術もうすぐ切れる感じがする」
ラビスが小鬼を倒しアンジーとヒュールの所に向かって来た。
「それが、ヒュールが応じないんだ」
するとラビスの魔術をかいくぐり一匹の獣鬼がアンジー達に攻め込んできた。大きな木の昆棒を持ち、奇声を上げ振りかぶりながら攻撃をしようと大きな巨体を揺らしながら向かってきた。
「ラビス来るよ!」
アンジーは叫んで警戒させる。
それと同時にヒュールがその場から飛び出しまた王様小鬼に向かっていった。
「ヒュール!」
思わず叫ぶアンジー。
それとは関係無しに獣鬼はそのまま距離を詰めて襲いかかるが。――
寸前の所で横からラリーが首元に槍を突き立てて一撃の元に獣鬼を倒した。
[スドン!]と獣鬼が倒れた音が地面から響く。
「大丈夫かい、恋人達」
そう、キザなセリフと格好をしてラリーはアンジーとラビスを見る。
「ラリー、……ありがとぉ!」
ラビスは息が上がりながら感謝する。
「ラリー後ろから来るよ!」
アンジーはすぐさま注意した。
「おっと! 下がるか」
ラリーはすぐさま槍を構えそのまま後退していく。
「で! どうするこのまま撤退かい?」
ラリーは辺りを警戒しながら2人に訊いた。
「私の魔術も切れそうだから逃げた方が良いんじゃない? と言うか逃げるべき! 姉さんもそう思うでしょ?」
「そうしたいけど、ヒュールが狂っちまったのかねぇ?」
アンジーもラビスも辺りを警戒しながらヒュールを横目に見る。
ヒュールは先ほどから“風暴切断”で中距離から攻撃しているが見事にかわされている。その行動は傍から見ればやけくそで攻撃しているように見える。
「このまま撤退ならオレが殿を務めるよ」
ラリーが男前の発言をする。
「カッコイイ。ラリーに抱かれたい、生きて帰れたらだけど」
ラビスは冗談のように言う。空元気の表情で。
「それじゃあ、わたしが相手してやるよ」
アンジーも冗談のように言い出した。
「本当かよ! こりゃ絶対生きて帰らないと」
ラリーは嬉しそうに精気を取り戻した顔をする。
そう言って緊張感の無い会話をしながらアンジー達は気を引き締めた。
『絶望した時こそ阿呆話が大事な時がある』――そう冒険者の金言を知っていたからだ。
ようするに前向きな話をして絶望するな、諦めんな! と、この言葉に込められていると解釈されている。
「このままじゃ危険だから場所を移動するよ、徐々に後退してヒュールを援護する」
アンジーの命令にラビスとラリーから「了解」と声が返る。
ヒュールは先ほどから風暴切断と投擲を繰り返し単調な攻撃を続けていた。
しかし、成果は出ていない。
(あと……3……)
ヒュールは攻撃を繰り返しながら思っていた。
真剣な顔で王様小鬼と対峙している。
王様小鬼も細かく奇声を上げながら警戒音を鳴らしている。決して近づかないが離れもしない、一定の距離を常に保ちつづける。
無数にある眼をギロギロと動かし辺りを警戒していた。すると突然動きを止める。ニタァと笑うような表情をするとヒュールがいる方とは関係ない場所に左手から糸を飛ばした。
するとそのまま6本ある脚を全て使って踏ん張り、腕や肩周りからも筋肉が膨張しだして何かを引っ張りあげた。
――大きな倒木の一部だった。
まるで鎖のついた破壊球のように振り回す。
そしてそのまま“ソレ”をヒュールめがけて振り下ろした。
「クソ!」
思わず声を上げ回避に専念するヒュール。
[ドォォン!]とヒュールがいた場所から鈍い音がして、葉が舞い飛ぶ。
そのまま左に飛んで転がりながら回避したヒュール。すぐに起き上がり戦闘体勢を整える。
王様小鬼も同様に糸を使って木を引っこ抜き自分の近くまで引っ張るとソレを右手3本で持ちあげた。
ニタリと笑いだす王様小鬼自分が有利と理解したからだ。
(ちくしょう!あともう少しなのに……)
ヒュールは悔しそうな顔をした。




