魔剣の騎士の冒険者生活
2016/8/29 改訂
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ、待てーこのクソ魔獣――!」
木々が生い茂る森を一人の男が全力で走っている。
背中には大型の剣を装備していた、その剣はかなり歪な形をしていた、刃が分厚く湾曲している剣、それに刃自体を重ね合わせや様に作られていたが立派な剣だと誰しもが分かる。
しかし鎧は安物だ、簡単な造りで胸と腰周り、そしてガントレットの鉄の装備しかしていない。
その男が目を血走りながら獲物を追っていた。
「サイリア、そっち行ったぞ、足止めしろ!」――男が叫ぶ。
「わかっているわよ、ジョー、いま魔術を行使するから邪魔しないで」
叫ぶ女、彼女はサイリアと呼ばれる魔術士。
彼女はくすんだ赤い髪を長く伸ばしていた、瞳も紅い、それに黒いとんがり帽子と、紅いローブを羽織り、簡単な服を中に着こんでいた。
手には彼女の腰の高さまである木の杖に先端に拳位の宝石のようなモノが付いていた。
サイリアと言う女が一括すると、なにやら呪文を唱え始めた。
「……射ぬけ、魔術の矢」
サイリアの身体の前に5本の透明な矢のようなモノが現れる。
その矢は前方を走る魔獣“巨大多脚猪”目掛けて発射された。
[ドス、バス、ドス、バス、バス]――5本中2本命中。
「ぶぎぃぃぃぃぃ!」
魔獣が雄叫びを上げる。
「へたくそ! 魔術の矢は普通、全弾命中が基本だろ、何やっている」
「五月蠅いわね、ジョー、2弾当たったわよ」
「2弾だけなんて、魔術の矢とは言わないの」
「あっ・・・なんだと、へぼ剣士が」
走りながら醜い争いを続ける二人の姿があった。
しかし先程の魔獣が急激な方向転換をする、魔法の矢を当てられ随分怒っているようだ。
そして、そのままジョーに向かっていった。
「おい、なんで俺に向かってくる、魔法の矢を当てたのは俺じゃねぇー。ふざけんな!」
ジョーの叫びも虚しく、魔獣は荒れ狂っていた。
畜生、不公平だ。――とジョーは内心思っていた。
そして背中に装備していた大剣を抜刀する、両手持ちの剣をそのまま上段に構えていた。
魔獣が目前に迫る、地鳴りのような足音が向かってきた。
ジョーは右足を前に出し、腰、肩を連動させて、高速の斬撃を放つ……。
「ぶぎぃぃぃぃぃぃぃ」
あたりに獣の断末魔が上がった、そしてそのまま崩れ落ちる魔獣、大きな音が地面から聞こえた。
「また、つまらぬモノを斬ってしまった……」
ジョーが某漫画の有名なセリフを言って、格好をつけていると。
「なにやっているの、ジョー、無駄なことはやめなさい」
横から、あきれた顔をしたサイリアが現れる。
「おい! 少し位良いだろ、余韻が大切なの、余韻が」
「はいはい、依頼達成ですから、早く魔獣の血抜きをしますよ」
まるで相手にしないように彼女は血抜きの準備に入る。
「………」
ジョーは無言のまま、刀についた血をぬぐい背中に収めた。
「準備はいい、ジョーは向こう足を縄で縛ってくれる、そこの木に吊るして持ち上げるから」
「…はい、はい、わかったよ」
「返事は一度でいいの、それより終わったら、“浮遊する板”を馬車から持ってきてね」
「おい、俺は召使いじゃないし、それに仕留めたのは俺だぞ、サイリアさんよ!」
「じゃあ良いじゃない、仕留めた責任を果たしなさいよ、ジョー」
暫く睨みあいが続く、そしてサイリアの方が――ふぅ――と溜息をつき。
「分かったわ、ジョー私が行ってくる貴方は“ここ”にいてね」
「良く言った、サイリア俺は血抜きの準備をする、お前は森の外れの馬車までいけ」
「そうね、早くギルドに帰らないと日が暮れてしまうし行ってくる」
そう言うとサイリアは立ち上がり移動していく、薄ら笑いを浮かべて。
そして……暫くして歩くと振り返る。
「じゃあジョー、行ってくるから、ここから動いちゃ駄目よ、血の匂いで他の魔獣が寄ってくるから、よろしく!」
そう言うと逃走兵の様に全力で走りだすサイリアだった。
「……おい、待て、こら!」
ジョーの叫びも虚しく遠くにいってしまったサイリア。
(あ~、嵌められた、というかおれは馬鹿だ)――ジョーは自分の愚かさを嘆いていた。
右手で目元を押さえる体勢を取っている、――信じていた仲間に裏切られた主人公のように、絶望的な表情を浮かべた。
辺りに魔獣の呻く声が森の中に響いていた。――
※※※
2人を乗せた馬車は移動していた、後ろには先程仕留めた魔獣と何体の死体があった。
ジョーとサイリアはお互い隣に座り、サイリアが馬車を操っていた。
二人とも無言だ、先程の裏切りが後を引いているのだろう。
特にジョーは座りながら、自分の頬に手を当てて、憮然とした表情をしていた。
そのまま、あまり舗装されていない田舎道を馬車が走っていく。
ジョーは空を見上げながら、ポツリと呟いた。
「いや~、この年で仲間に裏切られるとは思わなかったな」
ジョーは怨念を込めて言う、“だれか”にむけて。
「……そうね、裏切りは辛いはね」
シレッと隣でそんな事を言うサイリア。
「いや~、まさか“獣鬼”と“小鬼”の大群が来るなんて思わなかったな!」
「…そうね、大変だったわね」
「トロール10匹とゴブリン100匹の大群と大立ち回りするとは!」
「…そうね、そんな数がいたら貴方死んでいたでしょう、せいぜいトロール2匹とゴブリン5匹でしょうけどね」
ジョーは正確な数字を当てられて、内心ドキッとするが表情には出さない。
「……サイリアよ、その位の恐怖と屈辱を味わったという事だよ」
「そうね、でも貴方が私に言ったじゃない、荷物を取って来いと」
「言って無いね、お前が勝手にいったんだ」
「なによ! 女々しい剣士様ね、お互いの同意があったじゃない」
「同意していません! 何を言ってる、この魔術のへたくそな魔女は」
「なによ!この2流騎士崩れが―――」
そのような人間の醜い部分を晒し合い、罵り合いをしながら馬車は進む。
散々ののしり合ったのち、暫く沈黙していたふたり。
「……もういいでしょ、水に流しましょうよ、町に着くし」
サイリアはジョーに提案する。
「……わかったよ! …仕事も終わったし、町に着いたら、水ならぬ『酒』で流しましょうか」
「あんまり上手くないわね、もう少し上手く言ってよ」
そう言いながら、笑顔を見せたサイリア。
ジョーは軽くへこんでいた。
そうしている内に眼下に町がみえてくる。周りを10m程の城壁で覆われた町だ。町の名前は『ベルン』、ブリューシュ王国の中にある町の1つだ、大型の町でそれなりの賑わいを見せていた。
二人の馬車が城門近くまでくると声が聞こえた。
「おい、町に入るには通行料が必要だぞ……なんだ、ジョー達か」
彼らに声を掛ける中年のような騎士がいた、いかつい顔だ、手に鉄の槍を装備している。
「カイエンか、相も変わらず真面目だな」
ジョーは馬車の上から話しかけた。
彼の名はカイエン=イエール、この町の門番の隊長をしている一人だった。
「ほっとけ、それより冒険者といえども規則には従ってもらう、『ギルドカード』を提示してくれ」
「相変わらず真面目だねぇ~~」
そう言うとジョーは胸元から鎖の付いた鉄のような板を取り出す、拳に入る大きさだった。それをカイエンに渡す。
「問題ないな、冒険者の通行料は無料だ、通るがいい」
まるで決まっているようなセリフを吐くカイエン、カードをジョーに返してくる。
「相変わらず真面目だな、顔なじみだろ俺達、少しは融通してくれよ」
ジョーはいやみったらしく言ってみる、
「規則は規則だからな、それにお前みたいな、根草無しのアホと仲良くなれんな、俺の品位が落ちる」
フン――と鼻を鳴らし答えるカイエン。
「品位がある顔もしてないだろ、カイエン」
「くくくく、そりゃそうだったな、品というものは“貴族”連中が持っていればいい、おれは門番だからな、いかつい顔の方が有効だな」
軽く笑うカイエン。
「そうだよ、カイエン、人は顔を有効利用しないと、俺は女をこの顔で落とす為に有効利用しているけどな」
軽くおどけて答えるジョーに、横のサイリアから「馬鹿」――と突っ込みがはいる。
「がはは! そうだな、でもな、ジョー、俺の奥さんはいつも「かっこいい」と言ってくれるぞ」
と、――自慢げに自慢話を話すカイエン。
「いいよ、のろけ話は自分だけお腹いっぱいになるんだからな」
ジョーは呆れた顔をして溜息をつく。
「まあ、そういうな、……しかし随分とデカイ獲物をしとめたな」
カイエンは荷台にある魔獣を見ていた。
「ああ、これをギルドに持っていって査定と換金だな」――とジョーは嬉しそうに頷いた。
「おお、そうかでは早く行くといい、時間は有限だぞ」
カイエンが止めなければはやく行けたのに__とそんな野暮な事は心の内に秘めておこうと決意したジョー達はそのまま、馬車を進めて城門を潜った。
大きな通りが目の前に現れる、この町の主要道路だ、石畳でちゃんと舗装がなされている。
馬車も4台位通れる幅がある、それ歩道も分けられていた、道の脇に家屋が並んでいた、木と煉瓦と石で造られた、二、三階建ての家が立ち並び町の優雅さを物語っていた。
人通りも多い、ここが商業施設なのもあるがかなりの数が道の脇や歩道を歩いていた。
この道路の先に大きな屋敷が見える、この町の領主の家だ、町長と言ってもいい、それなりに名の通った貴族らしいのだが、あった事は無かった。
そのままジョー達は馬車を進める。
「サイリア操縦を間違うなよ」
注意を促すようにジョーがサイリアに言う。
「う、うるさい…わね、問題……ないわよ」
なぜか、がちがちに緊張しているサイリア。
彼女は実はかなりの人見知りであった、人がいる所では喋れなくなるし、動きも固くなってしまう、それに馬車の操縦も何度か失敗していた。
その経験からの忠告だ___ちなみにジョーも操縦できるが、面白がってしないだけだ。
その道を真っ直ぐ進んでいく、あたりの歩道から屋台が出ていた、肉を焼いて売っているのだろうか、食欲をそそる匂いと煙をあたりに漂わせていた。
「いい匂いだな、後で買うか」
「…………そうね…買う」
短い返事が返ってくる、ジョーは少し笑っていた、サイリアの反応が面白からだ。
こいつ、いつまで慣れないんだろう――とジョーは面白がっていた。
「とりあえずギルドの酒場で飲むか、サイリアは何を飲む?」
「………酒」
あたりさわりの無い答えが返ってきた、それを聞いて、――ふふふ、面白い――と内心笑っていた。
緊張して馬の手綱を力いっぱい握る彼女を見て、この町でお前以上に緊張して馬車を操縦する奴もいないな――と心のなかでつっこむ。
人のいない所では平気なのだが、人前に出ると緊張してしまうサイリアをからかっていく。
「そういえば、この町に来て2年経つよな」
「……そうね」
「この町結構過ごしやすいよな、随分長く拠点にしてしまった」
「…そうね。」
「やはり、こういう過ごしやすい街というのはありがたいと思う訳だよ、そう思わないかサイリア」
「…そうね。」
不毛な会話を続けていくジョー達そして……
「じゃあさ、サイ……」
「すこし黙れ!」
ついにサイリアが切れてしまった。
物凄い顔をしてジョーを睨みつけていく、その殺気と迫力にはさすがのジョーも黙ってしまった。
そのまま暫く沈黙が続く。
そして、馬車は道路から外れて、領主の家の近くの大きな施設『冒険者組合』に到着する。
「…着いたな、おつかれ」――ジョーは労いの言葉を掛けておく。
「ええ疲れた、誰かのおかげでね」
人が少なくなって饒舌に喋り出すサイリア、いつもの調子が戻ってきていた。
「じゃあ、馬車を裏口にとめて来てくれ、俺は受付を済ませてくる」
「ええ、わかった、寄り道しないでね」
「わかっているよ、じゃあ先にいく」
そう言うと、ジョーは馬車から飛び降りる、そしてギルドの入り口に向かっていった。
あきら・たなかのペンネームで小説を書いているものです。
他に「魔王の息子と暗黒副官」を連載しているのですが、それはそれ、これはこれでお願いします。
なんとなく創作意欲が湧いたので投稿しました。
あちらは戦争もの、こちら生活ものですね。
別ジャンルでいきます。(ほとんど一緒だな。)