リングの蛮行
『王様小鬼』、その存在は冒険者組合にとって非常に厄介な問題だった。
通常の小鬼は害獣と呼ばれ倒しても、食べられず、畑の肥料にもならない正に害だけの存在だった。集団で襲ってくる小鬼の被害にあう事もある、それに畑も荒ささえ、作物にまで被害が出る事も起きていた。
武器も持っている小鬼による死亡も毎年確認されている。
集団で人を襲い、被害も出し数も多いのが通常認識されている小鬼の特徴だった。
ある程度熟練した冒険者にとって小鬼とは雑魚に過ぎない、力も無いし、身体も小さい大抵5~7匹前後の集団を作って襲ってくるが、頭が悪い為、殆ど戦術と呼べるもモノは使えず、ただ闇雲に武器を叩きつける存在だった、冷静に対処すれば危険は少ないと思われる相手だった。
それに魔物ランクもFランクで下位の存在。10匹程度出た所で問題は無いが……。
『王様小鬼』が出ると話は違ってくる……コイツは小鬼達を纏める存在だった。
通常の上位小鬼の何倍も強く、素早い、知恵もあり、何より統率力がある。
その統率力が問題だった、……集団で纏まる力も強く、過去にゴブリンキングがまとめた集団の数は最高で7000匹、さらに指揮されて行動する為厄介な存在になっていた。
当時の被害は村が3つ全滅と町が1つ半壊する程の被害が出ている。
――数の暴力は恐ろしい程の力を産んだ。
その為、ベルンの町の冒険者ギルドでは不確かな情報から、正しい情報をすくいあげ精査している最中だった。
もし、本当なら急いで対策を練らないと被害が拡大していくからだ。
現在、ギルドの大広間にベルンの町にいる冒険者に緊急招集が発せられ、町にいる冒険者全てが集まっていた。
ベルンの町のギルドマスターのリングがギルド職員と共に受付台に並んで今回の報告を行った。
「全員、もう知っているかもしれないけど、ベルンの町の南西の村が“王様小鬼”とその集団によって壊滅したと報告がありました」
リングがそう静かに告げるとその場にいた冒険者達はざわつき始める。
危惧された事が現実に起こったからだった。
ジョーもサイリアと一緒にリングの話に耳を傾けていた
「前回出現したのは12年前、ハルビアの町で迎撃したと記録には残っています。今回も進行してくる方向からこのベルンも町で迎撃すると王国からの依頼です。規模は4000匹程度、予想到達日数は3日後です」
リングは淡々と持っている資料を読み上げていく。
「ちょっと待ってくれ、今回はこの町で迎撃だと聞いたが王国軍の軍団は来ないのか?」
1人冒険者が声をあげた。
「もう、せっかちね、そこは説明するから……、王国軍は兵士300人出す予定です、その為今回の依頼はDランク以上の冒険者チームに依頼をお願いする形になります。G,Fランクは依頼禁止でEランクからは任意という形を取らせてもらいます。報酬は依頼板に張り出しますので後で確認をしてください」
リングはそう言って報告を終了した。
そして、冒険者を見渡すと最後に……。
「じゃ~~あ♡、最後におねがいがあります。このリング=ディレイを助けると思って頑張ってください、にゃん♡」
そういって思いっきり可愛らしいポーズを取っているリング。
無理やり、片目をウインクしながら、片足を上げていた。
―― その空間が凍っていく。
暫しの沈黙と激しい嫌悪感が辺りを包むと……。
「俺、この町出ようかな」、「リーダー、河岸を変えません?」、「さあ、寝るか」、などやる気の無い声が聞こえてくる。
「ちょっと、ちょっと、みんなどうしたの? 緊張しているの? …大丈夫! 仮眠室でみんなを慰める。ピョン♡」
またも、リングは可愛らしいポーズを取っていく、そのポーズに失笑があたりから漏れ出し「さて、他の町を助けるか」、「く、殺したいぜ」、「頭おかしいのか?」など、ひそひそとあたりから聞こえてくる、ジョーもサイリアも近くにいたガルンとガインも呆れかえって頭を抱えている。
リングは、まだ可愛いポーズを継続中だ、それが怒りを買っている事に気が付いて無いのか、ワザとなのかは分からないが確実に評価はガタ落ちだった。
もともと、悪い噂のせいで評判も良くない上、実際にリングのせいで女性冒険者が流出し始めている。
『なぜクビにしないのか?』 それは冒険者の間で謎めいていた、一説には、冒険者組合本部の頭の孫娘だとか、幹部の娘だとかの噂がある、その他にも仕事は出来る為、上層部の弱みを握っている……。または勘違い野郎などの噂が飛び交っているが真相は分からなかった。
しかし、1つだけ真実がある、『リング=ディレイは冒険者組合では嫌われている』と言う真実だ。――
その為、リングの話を聞いて帰り支度を始める冒険者が過半数にも達している。
それぞれの冒険者が、「ケッ、やってられっか」、「俺らはカネで仕事なんかするかよ」、「この町も終わったな」、「ギルマスのせいだな」、等の暴言を吐きだして出ていこうとする。
冒険者と冒険者組合の関係は主従関係ではなく、仕事の関係であり。
完全なギブ&テイク(対等な関係)の契約だった。
その為、気に入らなければ、この町を出て他の町や国で仕事をする事も可能であった。
目の前の光景にリングも慌て始める。明らかに敵意をもって帰ろうとする冒険者が続出し始めていたからだ。
「ちょっと! ちょっと! 待ちなさい!」
と、リングは静止しさせようと大声で止めるが効果はない。焦ったリングはとんでもない事を言い出す。
「わかった、こうしましょう。この依頼を受けてくれた冒険者の皆さんには私に種づけする機会を与えるのはどうかしら?」
そう、驚愕の提案をするリング=ディレイ(33才独身、毒女)、その提案に……。
―― その場にいた冒険者の8割が帰りだそうとする。
辺りは騒然となり、日ごろのリングの横暴も重なり険悪な雰囲気になっていく。
「おまちぃぃぃくださぁぁぁぁいぃぃぃ――――!!!!」
サイモンが突然前に飛び出して天をつんざく程の大声を上げて冒険者達を制止させた。
その場にいた全員がサイモンの必死の形相を見ている。
「お待ち下さい、貴方がた冒険者の権利がある事は十分承知しています。が……『冒険者には冒険者の義』があると言います、その言葉をお借りして情けを頂きたいのです、…私達にも最後の機会を与えて下さい」
サイモンは必死の説得をしている、その言動と表情に殆どの冒険者が足を止める、日ごろからサイモンと関係している冒険者は多い、査定官として常に公平に仕事をしているサイモン、その仕事ぶりはこの場にいる者は知っていた。
「最後の機会とはなんだ?」
どこからか1人の冒険者が声を上げる。
「はい、では最後にこの方々の話を聞いて下さい」
サイモンは後ろを見ると……。




