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私達、冒険者として生活します!  作者: あきら・たなか
第2章;町の危機に立ちあがる冒険者
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買い物日和

 男性冒険者は女性冒険者と買い物に行く時は無心になれ、けして深く考えてはならない。――と、謎の御言葉が冒険者の間にはあった。


 この言葉、誰に向けて問われているかと言われれば両方ではないかと思える、昔から女の買い物は謎が多い、男の買い物は無駄が多いと言われてきた。性別の垣根(かきね)は思ったよりも高く、そして理解できない程広いと…。――この言葉には込められている。


 ジョーも現在、絶賛後悔中で公開中だった。

 サイリアが雑貨小物店で何かを物色している、嬉々(きき)とした表情で、もうジョーの存在なんぞ、30分前には忘れてしまっていた。


「サイリア、いつまで布なんか見ているんだよ」――ジョーは呆れた顔でサイリアに言うが……。

「もう…ちょっと…」

 サイリアは上の空で布を見ていた。

(正直、あの柄の違いが分からん、(ほとん)ど同じだろに…)――と、ジョーは思っていた。


 ジョー達は現在ベルンの町の商業地区に来ていた。前回の仕事が終わり約束通りに“買い物”にきている。

 ジョーは初め仕事に必要な備品の買い出しのつもりだったが……予想外な寄り道をしていた。

 サイリアにとっては当然だったが……。

 

 蛇腹刀は拠点に置いていた、その為、ジョーは腰に鋼鉄製の片手剣を腰にぶら下げているだけだった、それに甲冑も装備していない、軽い服装で買い物に来ていた。

 サイリアも同様に武器の装備はしていないが、服装はかなり変わっていた。冒険者の時の紅いローブも黒い帽子も、簡単な造りの布の服も止めて、綺麗(きれい)で仕立ての良い可愛らしい服をきている。


 ―― 要するに、オシャレをしているのだった。


 買い物は女性にとっての華だ、サイリアは充実した時間を過ごしているが、ジョーにとってはきつかった。

(もう何刻たった。いい加減にしてくれよ……)

 そう、ジョーは細い目をしながらサイリアを店の中で待っている、この女性しかいない空間で……。



 サイリアは散々悩んだ後、何も買わないで店を出てきた。

「買わないのか、サイリア」

「もうちょっと待つ事にする、いいのが無いんだもん」

 そう言って「次に行きましょう」と言ってくるサイリア。

 ジョーは溜息を吐きながらその後をついて行く


 ベルンの商業地区は人通りも多く、(にぎ)わいを見せていた、多種多様の店が立ち並び多くの品物が売られていた。専門店も多く、冒険者御用達の武器や防具、修理屋なども立ち並んでいる。

「サイリア、次はどうする、回復薬とかは買い終えたけど……」

 ジョーは背負っている大きな木箱に皮がついているモノを指差した。(※この世界の鞄)

「じゃあ、……次は武器か防具を買いたいわね」

「おい、カネは有限じゃないの、計画的に使おうな」

「ジョーがそれを言うの? 賭博(とばく)()るくせに」

「いいんだよ、夢があって……」

 ジョーは歩きながら目を背ける。

「それこそ、計画的に使いましょうよ、せっかく今は懐の温かいんだし。……そうだ、そろそろ防具の買い替え時じゃないの? ジョー……」

「あー、そうかもな! トム爺の所に行くか……武器もあるし…」

「賛成! すぐに行こうよ」――サイリアが嬉しそうな顔をする。

 サイリアは駆けだす。ジョーもやれやれと言う感じでついて行った。


 ――その後、商業地区の端にたどり着く。


 その店の前には看板が立っている、そこにはこう書かれていた。

『鉱山族ドワーフによる一流の武器と防具ありマス。冷やかし御断り!!』と店の前に置いてある。

 その店の前に両開きの扉があり、その隣に硝子張り小部屋に商品の見本が置いてあった。

 ジョー達は扉を開けると、中には右手に全身鎧、軽甲冑、小手、銅当て、肩当て、腰当て、足当て等の各種防具がズラリと並び、左手に剣、短剣、大剣、奇剣、曲剣、槍、短槍、ハルバート、大槍、ハンマー、大槌、杖、両手斧、短斧、弓、合成弓、混合弓、飛び道具等の武器が所狭しと、置いてあった。


「いらっしゃ~い…」――店の奥から若い男の声が聞こえる。

「ジェイロ、元気か。トム爺はいるか?」

 ジョーは声を掛けると。

「ジョーさん、久しぶりです、親方なら今、奥で作業中ですよ」

「そうか、都合が良いな……少し見せてもらうよ」

「はい、どうぞ」――ジェイロはそう元気にいう。


 ジェイロはこの店の店番兼鍛冶屋だ、若いがこの店で修業をしている人間だった。職人用の前掛けと厚い皮の靴を履いていて、頭に鍛冶用の厚い頭巾を被っている。顔は狐見たいな細い目が特徴の男性だった、身体は細いが、肩と腕の筋肉は太く、腕の廻りに火傷のあとが目立っていた。


 この店は『トム爺の店』と言って、亜人種に属するドワーフが経営している店だった。ドワーフは鉱山に住み着いている部族だが、非常に高度な鍛冶技術と鉱石鑑定技術を持っていてその店の主人が造る武器や防具は非常に上質の部類だった。


 その為、冒険者の界隈(かいわい)だと、親方にドワーフのいる店が好まれている。

 ――要は、ブランドだ。


 しかし、武器や防具に命を預けている冒険者にとって信用がある“モノ”は非常にありがたい、実際ここに限らず、人気店の4割は必ずと言っていいほどドワーフの主人が経営している。

 その為、町の外れにある店でも、ちらほらとジョー達と同じ冒険者の何名かが店をうろつき、品物を物色していた。


 ジョーは木箱を降ろして、ジェイロが座っている近くに置いた、「見ていてくれ」と言うと、「任せて下さい」と気の無い返事がジェイロから返るってくる。


(こいつは、どうも不真面目なのか理解出来ない奴だな)――と、ジョーは思いつつ、サイリアと共に店内の物色を始める。


「サイリア、どうするんだ?」

「とりあえず、杖を見てみる、最近調子が悪いから」


(それは、違うだろ、魔術を当てるのは術者のイメージだから杖は関係ないだろ)と、ジョーと考えているが、胸に閉まっておく。


「…、そうか、俺は狩猟用の短刀と防具を見てくるから」

「わかった、ジョー後でね」

「ああ……」

 そう言うと、ジョーとサイリアは別れて商品を見始める。一緒に見てもいいのだが…女の買い物に付き合うとロクな事が無いので別れて探した方が効率的だった。


 ジョーはまず甲冑を中心に見ていく……、非常に良い物が多い、鋼鉄製の甲冑だが軽くて丈夫そうだ、ジョーの使用している物より洗練されていた。

「いいなぁー」――ジョーはポツリと(つぶや)いた。

「そら、そうじゃ、ワシが造っているんだから」

 と、店の奥の入り口から大声がする。すると、ジョーに近づいてくる。

 そこにはこの店の主人である『トムソーヤ=ガガン』が居た。

 身長160㎝と小柄な体格の男性だが、腕と肩周りが非常に太い、それに顔も毛深く特に顎鬚が三つ編みを編める程長く伸びていた、顔も(いか)つく、強面の表情をしている。それに骨格が太いのか非常に大きく見えた。服装はジェイロと同じ職人用の前掛けをして厚手の靴に、それに腕周りに分厚いなめした皮を巻きつけたような手袋というか腕袋をしている、火傷対策だろう、まさに職人気質の風貌だった。


「よう、トム爺、お邪魔しているよ」

 ジョーは笑顔で挨拶する。

「ふん、冷やかしなら帰えるんだな」

 トムソーヤは酷い言葉をジョーに浴びせる。

「おいおい、客だよ、客、トム爺それは無いんじゃないか?」

「親方、もっと愛想よくして下さいよぉ」

 ――と、店番をしているジェイロが声をかけるが……

「ジェイロ、黙って店番をしとれ!」と、トムソーヤは一喝する。

 ジェイロはその一言で「はい!」と言い返事を返し元に戻った。

「全く、頑固だな、トム爺は、それに今日は本当に只の客だよ、いい仕事が入ったんで懐が温かいんだ」

ジョーは自慢げに言った。

「そうかい、その“あぶく銭”が無くならん内に何か買ってもらうか、何を探しておる?」

「おいおい、あぶく銭って…、まあいいか、とりあえず腕周りの装備と胸当て、後、脚甲かな? 良い物はあるか、トム爺」

「予算は、どれくらいだ?」――トムソーヤは髭を撫でながら訊いてくる。

「そうだな……銀貨50~70」

 ジョーは真剣な表情で言うとトムソーヤは目を見開いて驚いた。

「本当か? 銅貨じゃないよな?」

「本当だって、信じろよ、トム爺」

「…わかった、ちょっと待っていろ、ジョー」


 ――そう言ってトムソーヤは店の奥に消えていく


「ジョー。決まったの?」――サイリアが声を掛ける。

「いや、トム爺に会って、見てもらっているの……あれ、サイリアも買うのか?」

ジョーがサイリアの手に持っているもモノ気がついた。

「うん、この(スタッフ)良いかもって思ったから」

「ふ~ん、いいかもな、でも一応トム爺に見て貰えよ」

「わかっているわよ、それよりどうかしら?」


 サイリアが手に持っている杖をジョーに見せた。木製の杖でくすんだ色の紅玉と水晶の宝玉が付いている基本的な杖だった、原木をそのまま削りだした荒々しい杖で120㎝とサイリアの身長にしては随分と長いタイプの杖だった。

「……大きくないか?」

 素朴な疑問がジョーの頭をよぎる

「そうかしら、大きい方が狙いやすいと思うんだけど」

「サイリアがそう思うならいいんだが……」

 ジョーは渋い顔をして、どこか納得していなかった。


 ――すると、店の奥からゴロゴロと音が鳴る


「そいつは止めとけ」

 トムソーヤが木の台車に車輪モノの上に大きな木箱を乗っけて何か運んでくる。

 ジョーとサイリアは振返ってトムソーヤを見ていた。

「サイリア、そいつは火精と光精が得意な奴が使うもんだ。サイリアは水精、土精、風精の魔術が得意だっただろ、相性がよくねぇ」

 そう言ってトムソーヤはジョーの前に止まる。

「後で見てやるよ。それより、ジョーこいつはどうだ?」

 すると、トムソーヤ木箱の中から奇妙な鎧を取り出した。


 その鎧は片腕が頑丈そうに幾層にも覆われ、手と腕と肩をすっぽりと覆っている、そこに胸当てが付いていて反対は肩当てだけの簡単な造りだった。

「こいつは、奇妙な鎧だな? 右側だけが頑丈な造りか……左は雑じゃないか?」


「ジョー、お前は右利きだったな、だからお(すす)めするぞ。利き腕をやられたら剣士は死んだも同然だからな。それにこいつは重装備の向けじゃねぇ、ジョーみたく機動力も大事にする奴向けに造っている、だから反対は軽量化を目的に肩当てだけだ、気になったら小手を装備すれば良いし、何より素材にこだわっている」

「素材? 何使っているんだ? トム爺」


「かのミスリルに並ぶ“グレイス鉱石”だよ、こいつは強度が抜群で加工は難しいが……そこは鍛冶屋の腕次第よ」

「嘘はいけえねぇよ。これが銀貨で買えるか、金貨何枚分だよ!」

 ジョーはかなり驚いている。

「そこは、あれだ、鋼鉄との合板だよ、主要な所は使っちゃいるがあくまで合板製だ。だから価格を抑えて造れる」

 トムソーヤは自慢するように言ってくる。

「そうか……そいつは凄いな……でも俺は大剣だから背負っている、背中までの可動域はとれるのか?」

そう言うと、トムソーヤはフフンと鼻を鳴らして、「なめるなよ」と言って鎧の肩口を見せる。

「ここには、一般的なナメシ皮を使う所なんだが“フィンキル蛙”の喉膜を使っているから可動域も問題無い、それに各関節部分も可動範囲も広く取っている」

 そう言って、自慢げに目を細め、「どうじゃ」と、訊いてくる。

「……わかった、買う」


「そうか、そうか、後で採寸して合わせておこう。それと……次は脚甲だな。これはどうだ?」

 トムソーヤは鎧を置いて、次に木箱から水晶が付いた鋼鉄製の脚甲を取り出した。

「今度ななんだ? 魔力を感じるが……」


「こいつは、風のクリスタルブーツだな、足当てと違い普段の靴に付けるタイプではないが、“グリフォンの魔石”を使っているから軽い、それに裏にスパイクが付いている、山や森の足場の悪い所にも対応できる。なにより肉体強化魔術との相性がいいからジョーの戦闘にぴったりだろ、それに…動きが鈍ると死ぬ確率も高まるから、『先ずは足元から冒険者は装備を整えろ』と言われているのはその為だ」


「おいおい。トム爺よ、俺達の戦闘の癖や利き腕まで覚えているのか?」

 ジョーは呆れた顔でトムソーヤを見る。

「まあ、それが出来る鍛冶屋の特徴だからな、がはっはっは」

 笑みを浮かべ、豪快に笑うトムソーヤ。

「わかった……買うよ」――ジョーは両手を上げて諦める様にそう言った。

「毎度……、次はサイリアの番だな。こっちにおいで」

 トムソーヤはそう言ってサイリアに手で合図を送る。

「わかった」と、短い返事をして、サイリアはさっきまでいた杖の置いてある所までいき、トムソーヤとあれこれ話し込んでいた。

 ジョーはその間にジェイロの所に先程の鎧と脚甲を持っていき、採寸をしてもらっていた。


 ――その後、サイリアとトムソーヤは戻ってくる。

「サイリア、それにしたのか?」

「うん」

 と、笑顔でいうサイリア、手には60㎝位の杖を持っていた。

 先程の杖とは違い、堅そうな木を削り丁寧に研磨して真っ直ぐになっている、その先に青、黒、緑の小さな宝玉が付いていて先端は金属で加工されていた。


「それで、トム爺。…全部でいくらだ?」

 ジョーは訊いてみる。

「そうだな、全部で銀貨72枚だな」

「トム爺! 俺、予算50~70枚位って言ったよな!」

 予想外の値段にジョーは大声で抗議する。店の中にいる他の客達も振り向く程に

「言ったが、あくまであれはジョーの分だ。サイリアの杖の代金までははいっとらん。…これでも格安だぞ」

「うっ……そう言われると……」

 ジョーは苦い顔をする。サイリアを見ると――どうするの? ジョー。――と、心配そうな顔をしていた。


「トム爺、銀貨70枚にまけてくれ、それと狩猟用の短刀(ナイフ)も付けてくれよ」

 と、お願いするジョー。

 トムソーヤは難しい顔をしていたが……。

「しょうがない、おまけしておこう。ジョーがこんなにも買ってくれたからの……」

そう言って頷いた。その後ジェイロに料金を払い。「三日後に配達します」と、言われた。

店を出ていく時にトムソーヤに小箱を渡される。

「これで、普段の手入れをしておけよ」と、言われ、中を開けると、削り粉、砥石、油注しが入っていた。

 ――トムソーヤは店の奥に引っ込んでいく。

 人情味あふれる鍛冶屋の親父のトムソーヤだった。


 帰り道、ジョーは木箱を背負いサイリアと、トボトボと歩いていた。

「なぁ、サイリア、なんであんなに買ったんだろうな?」

「分からない。……トム爺は商売が上手いわね」

「まぁ、相手の懐事情に合わせるのが上手い商売というからな……」

 そんな事を言いながらジョーとサイリアは家へ帰路についた。


 頭の中でジョーは思っていた。『女の買い物は謎が多い、男の買い物は無駄が多い』そう言われた通りの買い物だったな……と。―――


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