大鬼討伐
2016,8/27改訂
ジョーは木々を移動している、片手でサイリアを抱きかかえ、もう片方の手で蛇腹刀を操り木々の枝に着地しながら縦横無尽に高速で移動していき、大鬼との距離を稼いでいく。
(キツイし、重いな…それに五月蠅い)――ジョーは移動中そう考えていた。
いくら鍛えていても限度はある、今は全身に肉体強化魔術を掛けてなんとかしのいでいた。
それにジョーに抱えられているサイリアもずっと悲鳴を上げている。
ジョーは大鬼とある程度距離を置いたら、適当な地面に着地して、サイリアを降ろした。
【良くやったな、ジョー、…間一髪だったぞ】
「ああ、スネークも良くやってくれた…サイリア大丈夫か」
スネークを労い、サイリアの方を見るジョー。
「………」――サイリアはジョーの問いかけに無言だった。
先程と変わって無言を貫くサイリア、地面に四つん這いになってなにやらゴソゴソと動いている。――
「サイリア、早くしろ、眼つぶしと不意打ちだけじゃあ、そう長くは持たない、移動しないと」
ジョーの言葉にサイリアも身体を反応させるが……。
「…ちょっと、…待って……」――サイリアはそう言って股間の辺りを確認していた。
【まさか!……漏らしたのか】――スネークは遠慮なくそう言った。
サイリアは身体をビックッとさせると、暫く、微動にせずに停止する、そしてようやく――小さく頷いた。
【どのくらいだ……】さすがのスネークも慎重に訊いていた。
(止めてやれ、スネーク…量まで聞くなよ、人の情けが無いのか……武器か…)――とジョーは思っている。
サイリアが片手を震わせながら差し出して、親指と人差し指の間を少しだけ開いていた。
(少しか……良かったな…)――少し安心するジョー。
「……回復瓶1本位…」――そう声を震わして、サイリアは呟いた。
( ‼ …結構な量だぞ……なんで手の合図は“少し”だったんだ…)――ジョーは気の毒だがそう思っていた。
サイリアの傍にいた土精霊のノンちゃんも「ぷりゅぅぅぅぅ」と声を出してサイリアを慰めている様だった。
「サイリア、…気にするな、立て、走るぞ」
ジョーは真面目な顔で、一応の慰めの言葉を掛ける。
「……ヤダ、…私……ここで死ぬ!」――と自虐的な発言をしていた。
「馬鹿……そんなに気にするな、大鬼が来るから、早く逃げるぞ、そんなに恥ずかしい事でも無い、冒険者の中にもワイバーンにビビって漏らした他に色々と出た奴だっているから」
【そうだ、サイリア…老人になれば糞尿は漏らすものだと聞いたことがある、その予行練習と思えば良い……それに生まれた時は全員していると聞いたぞ】
ジョーもスネークも必死に説得していた、しかし、その言葉は薄っぺらいものだった、サイリアの心をとかすには何かが足りなかった。……彼女の心の壁は段々と険しく大きくなっていく。
「……そんな、慰めはいいから、……あなた達…成人した女性が“この状態”になるのは……心の傷が違うのよ。ジョーは知っている……知らないでしょ…私の今の状況……そんな精神力私には無いわよ、……むしろもの凄く惨めよ……ジョー、スネークだったら、…だったら! ここで漏らしてみなさいよ!」
サイリアの口から途方もない言葉が飛び出した、まさに腹のそこからの本音だった。
重く、何処までも重い…心からの発言にジョーもスネークも無言になってしまう。
遠くから、「グオオォォォォ」という雄叫びが聞こえた。――その声に怒りと憎しみが混じっている様だった。
ジョーはその声を聴いて、腰に装備している小さな鞄に手を突っ込みなにやら探している、そして、1つの小瓶を取りだした。『回復薬』と言われる物だった。……
それの瓶を外して ――― ジョーは自分の股に振りかける。
びちゃ、びちゃに、なるジョーの下半身の光景をサイリア見ていた。
「……どうだ、サイリア、俺も濡れたぞ…これでいいだろ、別に股が濡れたからって問題ない、誇りなんて傷つかない……むしろ命のほうが大事だ。もう大鬼も近くに来ているから、急いで逃げるぞ」
ジョーはじっとサイリアを見つめてそう言った。
サイリアの暫く呆気に捕られて――「……はい」と言った。
【ジョーさすがだな、予想外の解決方法だった】
と、スネークからも称賛の言葉を貰うが……ジョーの顔は少し曇っていた。
(……ああ、銅貨50枚が飛んだ)――と心の中で悔しそうに嘆いていたからだ。
しかし、その様子は、他の者が見たら非常に憂えた顔をしていた……そう“別に汚れたって気にしない冒険者だもの”と、どこか格好が良い表情をしている。
ジョーの思いと裏腹にサイリアは――「……ジョー」――と、どこか目を潤ませながら感動していた。
「ピィクゥゥゥゥ」と、甲高い声をノームはあげている。――まるで、さすが、漢だ!と、言っている様だ。
ジョー以外は思い違いをしているが人の心など正確には読めないモノだ。――人外でも無い限り。
***
ジョー達は移動を開始する。ジョーを先頭に静かに声のする方から遠ざかっていた、サイリアはノームを肩に置いてその後を付けていく、外蚤で前を隠しながら静かに山道を移動していた。
【ジョー、大鬼が近づいてくるな】
「ああ、…どうやら“あたり”をつけていたようだ」
静かにジョーは答える。
「ジョー、なんでわかるの?」
サイリアはジョーの話が分からないので訊いてくる。
「それは、多分だが……眼つぶしが完全では無くて、視界の端で見ていたんだろう、だから、俺達が逃げる方角が分かったんだろうと思う」
ジョーは自分の予想をサイリアに伝えた、彼女も納得して頷いた。――本当はサイリアの悲鳴だろうけど。――と思っていたが口には出さない。
(早く、迎撃場所を見つけないと危ないな)――ジョーはそう思いながら辺りを見回した。
走りながら、右方向に丘みたいな場所を発見する。
「サイリア、向こうに行くぞ、もしかしたら“いい場所かも”しれない」
サイリアの方を振り返りながらそう言う、彼女も「了解」と返事をする。
そのまま丘の方に向かに走り出すとそこには……。
只の、段差がある丘だった1~2m位の段差しかないが辺りは木々も無く開けている場所だった。
「条件は良いな、後は作戦か……、サイリア、ちょっと来てくれ」
「何? ジョー作戦でもあるの?」
「ああ、聴いてくれ、サイリアとノームが――――――――――――――――」
ジョーはサイリアと土精霊の『ノンちゃん』に作戦を説明していく。
「―――――て、いう作戦でどうだ?」ジョーはサイリアに訊いてみた。
「出来なくは無いけど危険じゃない? ジョー1人でやるんでしょ?」
「別に大丈夫だ、それよりコレはタイミングが全てだからな、そこだけだ…問題は」
ジョーはにやりと笑い自身たっぷりの顔をしていた。
「……、良いけど、ジョーがそこまで言うなら」
サイリアはどこか納得してないが、一応は同意した。
「よし、作戦開始だな、しくじるなよ、集中力を高めておけよ、サイリア」
「……わかっているわよ」
作戦会議も終わり、ジョー達はバラけていく……
※※※
ジョーは1人で森の中に立っていた、片手で木の棒を持ち生えている木に打ちつけて音を鳴らしていた。
[コーン、コーン………]と言う音が木々の間を抜けていく。
その音に釣られて大鬼が走って来た。
「おお、凄い地響きだな……やるか相棒」
【分かっている、ジョーも無茶はするなよ】
ああ、――と短い返事と共にジョーは蛇腹刀を後ろから抜いて前に構えた。
ジョーの前方から大股でかけてくる大鬼、「ぐおおおぉぉ」と怒りの声を上げながら向かってくる、それに対しジョーは蛇腹刀に魔力を流し――先制の一撃をお見舞する。
力強く振り下ろし、その反動で刃節が伸びていく。
[シャ――]と、高速で大鬼の顔に向けて剣が伸びでいった。
[ジャクゥゥ!] と、その剣撃を大鬼は手を交差して防御すると腕に剣の先が突き刺さった。
「喰らえ、スネーク」とジョーは呟くと大鬼の突き刺さった剣の先の部分が…。
[グシャ!] ――と、言う音と共に無くなっていた……。
「ギャウ」――と、大鬼も声を上げるが、状況が飲み込めていないようだった。突撃の勢いは失われ、喰われた腕から血が流れている。
ジョーは一撃を入れるとすぐさま剣を戻して移動し始める。
大鬼も迷いながらも追いかけてきた。
「よしよし、鬼さんこちら…だな」――ジョーは軽く笑う。
【冗談を言っている場合じゃないぞ、真剣にやるんだ】
ジョーの肩に担いでいるスネークに軽く怒られるが、ジョーは気にしないようにまだ笑っていた。
「俺は真剣だよ、…仕事中に笑う事も大切さ、そうすれば余裕が生まれるからな」
【冗談はいい、…来たぞ】
スネークはそう言うとジョーは後ろから大鬼が来るのを確かめる。
大鬼は走りながら、自分の持っている昆棒を投げる構えを取る。
「嘘!」――とジョーは思わず声に出す。
大鬼はそれをジョー目掛けてぶん投げる。
ジョーは急いで身を伏せると。頭の上から、[ブオォォン!] ――と重たい音が通り過ぎた。
(危なかった)――と思う間もなく、大鬼はジョーとの距離を詰める。
ジョーは急いで体制を立て直し迎えうつが……。
大鬼は右拳をジョーに向かって振り抜いた。
[ガギャァァァァン!] と硬質な物がぶつかり合う音が響いた瞬間。
ジョーはそのまま後ろに吹き飛んだ。――空中を舞うジョーだが素早く体制を立て直し地面に蛇腹刀を突き刺すと勢いが死んでいく、そのまま地面に膝をつきながら体勢を整える。
(あっぶな~~、刀で防御しないと危険だった、一瞬意識が飛んだぞ)――と動揺する。
それとは関係無しに大鬼は向かってくる。勢いを増しまた右拳を振りかぶると打ち降ろし気味の拳がジョーを襲う。
ジョーは奥歯を噛みしめ、瞬間的に足に魔力を送る、そして左に移動して大鬼の拳を交わした。…とほぼ同時に刀を返し、大鬼の脇腹に横薙ぎの一閃を入れる。
(ちっ、体制が不十分だったな、浅い)――とジョーが思っている通り、大鬼の脇腹に傷が走っているが深くは無かった。
そのままジョーは大鬼の背後に回る。…大鬼も突然のジョーの行動に目が追いついておらず見失っていた。
大ぶりの攻撃に体制に整っていない大鬼は隙が出来ていた。
ジョーは好機と思い、そのまま背中に一撃を入れる。――深い一撃に鮮血が飛び散る。
「がぁううぁぁぁ」――と大鬼に悲鳴を漏らした。
(よし! …しかし、固いな)ジョーは背後から一撃を入れながら思っていた。
すぐさま、ジョーは後ろに飛んで大鬼との距離を空ける。
が…ジョーに向き直った大鬼は魔力を集中させていくと……えぐれた腕の傷が、脇腹の傷がみるみる塞がっていった。
(こいつ、高速回復型の変異種だったのか!)――ジョーは呆気に取られていた。
【ジョー、コイツを仕留めるのは厄介だぞ!】――スネークはジョーに警告する。
「わかっているって、相手の能力が分かっただけでも収穫だ、作戦通りにいきやすい」
「がぁぁぁぁぁ」と傷口が塞がった大鬼は咆哮を上げてジョーに向かっていく。
向かってくる大鬼を一瞥し、ジョーはそのまま反対の方向に走り出す。
逃げるジョーと追う大鬼は暫く距離を保ったまま続いた。
急に――ジョーは方向を変える。先程サイリアと話していた小高い丘に向かっていく。
大鬼もジョーの後を追っかけてきた。
(よし、ついて着たな……)――ジョーはそのまま丘から跳躍した。
すぐさま地面について転がりながらの受け身を取る、2,3回転して立ちあがりジョーは上を見上げると大鬼も段差を飛び降りてくる。
そして……。
「地よ、我の力を借り、その器を変えよ、…地割れ(マグナクレック)」
その呪文が聞こえると、――[バキ、バキ、バキ]の音と共に、大鬼の着陸地点の地面がひび割れていく。
地面が盛り上がり、大鬼が降りる場所にまるで地面から口が開いたように大穴が開く。
大鬼がそこに嵌まってしまった。――瞬間、「…閉じよ」の声と共に急速に地割れが閉じていく。
腰上まで地面に埋ってしまい完全に動けない状態の大鬼、「があぁぁぁ、ごおぅぅ」と唸っているがどうしようも無い状態だった。
すぐさま近くにいたサイリアが木の陰から出てくる。
「ジョー、上手くいったわね」――サイリアが嬉しそうに声をかけた。
「ああ、そうだな、すぐに追撃するぞ、一気に殺る」
ジョーは真剣な雰囲気を崩さない、先程高速回復を見せた変異種だったからだ。
その雰囲気にサイリアも押されていた、いつものふざけた雰囲気では無かったからだ。
ジョーたら、たまにこういう所も見せるんだから――と、顔を赤めながらサイリアはそう思っていた。
「スネーク、たらふく喰ってくれよ」
【任せておけ、ジョー、俺はグルメだからな】
スネークの軽口を聞きながらジョーはそのまま3度剣を振るう、その度に大鬼の腕の肉が抉られていく。
「サイリア、魔術を撃ってくれ、俺が腕を削るから開いた所に当ててくれ、的当ては得意だろ」
「…わかった、お願いね」サイリアもジョーの提案に乗った。
ジョーとサイリアは傍から見れば悪魔の笑みを浮かべながら大鬼に攻撃を加えていく……が、これが冒険者として普通の事だった。
たとえ、魔獣の子が近くにいても、我々は笑顔で弱った獲物を殲滅せよ、さもなくば、明日は我が身。――と冒険者に伝わる金言がある。
要するに『弱った敵に容赦はしてはいけない』と言う事だった。
ジョーもサイリアも冒険者だからその言葉を知っていた。
たとえ、大鬼が上半身しか動けない状態で完全に反撃出来ない体制でもジョーは手を緩める事なく、蛇腹刀を振るい腕、肩、胸、腹の肉を削り取っていく、そこに横から、サイリアの“風刃弾”で傷口を広げていった。さらに土精霊の土槍で大鬼の身体を突き刺していく。
その後、辺りに血を撒き散らしながら、10数分にわたり大鬼の悲鳴が森の中に響き渡る――――。
こうして、大鬼変異種1体と大鬼2体の退治が完了して、モモガ村の調査2日目は終了した。
ジョーのカッコイイ場面?を入れてみました。




