なんとも根暗な話
「―――っていう話なのよ。ジョーとの出会いがあって、ここまで旅した経緯は。旅に出たのが15くらいの時だったからそれから4年か……。それからも大変で……冒険者になって怪我するし、ジョーの稽古はキツイし、無茶だし、身体中傷だらけになるし……。最悪な事ばっかりよ……」
サイリアはいままでの経緯を告げる。溜息を吐きながら。
それを聞いていたマリーはクスクスと笑っていた。
「どうしたの、マリー姉?」
「いえ、随分と楽しそうに話していたから。フフフフッ……、ジョーさんとの旅も楽しかったようね」
「違います! ただの『約束』、『契約』なのよ。仇をみつけるまでの――!!」
「そうなの? でも必死に否定しちゃって……でも、よかった。サイリアが元気そうで……」
「……うん、私は大丈夫。気持ちの整理もついているから。それよりマリー姉は森を出てから色々旅してたんでしょ? 何か出会いはあった?」
「秘密です」
「ずるい!」
「大人はずるいの、いい経験ね!」
「もう、卑怯者! マリー姉、昔と変わった」
「そう、変わりました。サイリアも変わったでしょ? それと同じよ」
楽しそうにお喋りをしていくサイリアとマリーの昔話は続く。
――閑話休題。
「それで、ミリアさんの仇は見つかったの?」
マリーは話しの流れの中でそう言い出す。
「うぅん……ダメだった。分かんない。“シャカール帝国”に入るのは危険だから……それにジョーと一緒に周辺国家で情報を集めたけど……ほとんど何も掴めなかった。情報としてわかった事は1つ。『魔術士殺しの騎士』、『魔女殺し』って呼ばれる帝国騎士の1人だって。相当な腕をもった騎士だって事位しか情報が出なかった。余りに情報が出なくて居ないって噂もあった……」
サイリアは残念そうに述べた。首を振って落ち込んでいる。
この4年でそれほど成果は無かったようだ。
「そう……。じゃあ、お姉さんがとっておきの情報を教えてあげる。サイリアだから特別にね」
マリーがそう言うとサイリアは顔を上げて驚いていた。
仇討の話などするなと言ったのはマリーなのだから、そんな事を言い出すとは思わなかった。
「いいの? 復讐は止めなさいってマリー姉、言ったじゃない」
「そうなんだけどね……でも、それは一般論よ、私だって師匠だった人の仇を討ちたいって気持ちは解るもの。でも、サイリアには止めて欲しいって事なのよ……。それに情報も正確じゃないから不確定な噂話程度だけどね、それでもいいの?」
「いい! いいの! いいから教えて!」
サイリアは食い付く、予想外の所から今迄探していた情報が見つかりそうだったからだ。
「わかった、……言っておくけど本当に真実か分からないわよ?」
再度確認の言葉を聞いてサイリアは頷く。
「それじゃあ……シャカール帝国の発祥の遊びで絵札ってあるでしょ、ソレを模した軍隊で絵札軍隊と呼ばれている騎士たちがいるの『絵札騎士』と呼ばれる存在は13に分けられたシャカール軍のトップに位置する騎士らしいけど、その隊の例外中の例外に『秘匿の騎士』とよばれる者がいたらいしの。それは『エース』より強く『キング』も超える存在みたいな帝国屈指の騎士だったらしいわ」
「“だったらしい”って?」
「えぇ、なんでも4年前に失踪して消えてしまったとか、大怪我を負って引退したとか。魔女と戦って命を落としたとか、暗殺されそうになって姿を消したという話しが混在しているのよ。だからサイリアでも見つけられないと思うの」
「そうなんだ、それでどんな容姿なの?」
「えぇ、それが、黒髪か赤髪とかで、南部出身とか言われているわね。大剣を操ってその技量が凄い騎士で――」
(あれ? なんか。ジョーぽいかも……)――サイリアは話しを聞きながら思う。
「――それで……、そうだ、変な『魔剣』を持っているらしいのよ、それであらゆる魔術を消すらしいの――」
(なに、ジョーとスネークぽいんだけど!!!)――サイリアは話しを聞きながら胸が熱くなっていった。
「――それで、帝国の姫君が恋焦がれる程の“色男”らしいわ」
(アッ、違った……)――サイリアは安心する。
「どうしたの、サイリア?」
ホッとするサイリアを見てマリーは不思議そうな顔をした。
「ううん、何でも無いの続けて」
「そう、それならいいけど……それで、その騎士はこう呼ばれていたの、余りに暗然と無慈悲に殺し続ける騎士として『死神・ジョーカー』って言われていたらしいわ」
※※※
「ふぅ~~……」
ジョーは煙管を銜え、吸って煙を吐き出した。
空は黒々とした雲に覆われポツポツと雨が降っている。
ジョーは仕方なく商店脇の道の軒先で雨宿りをして一服中だった。
[バシャ、バシャ……]と家屋の脇から雨樋を伝って石畳の地面に流れ、そのまま道に川を作っている近くでの休憩だった。
「たく、シケってやがる、天気も財布も……煙草もな」
【まったくだ。こんな天気に賭博になんぞ手を出すからいけんのだ】
「そういうなよ。ギリギリ損はしてないだろ」
【何をいう、『イカサマ』だろ? 私を使ったのだ】
「はは、それも実力だよ。運も実力の内っていうだろ? そう考えれば自分が持っているものを使うのは運なんだよ」
【それは理屈ではないな。まったく】
「そういうなってスネーク。イライラするのはよくねぇーぞ」
【ふん、イライラしているのはどっちだ? 煙草なんぞ滅多にやらんだろ、お前は……、サイリアの事が“心配”なのか?】
「……別に……」
【心配なら“アノ女”と会わせなければいいのだ。まったく……バカ者……】
そのまま無言でジョーは天を見上げ、また煙草の煙を吐き出した。
※※※
城内に勤めている、あるメイド長は不思議に思う。王女の部屋の前に衛兵が1人も立っていない事に。
どこかに出かけたのかしら? ――と、思ったがあいにくの天気と王女の性格からしてそれは無い――と結論づけた。
とりあえず確認という事でメイド長の女性は王女の部屋の扉をノックする。
――返事は無い。
そこら辺に散策、またはトイレかと思ったが扉の下に血痕が1つ垂れている事に気がつく、そして廊下に敷いている敷物の一部が乱れていた。
不意に不安になり――再度、扉をノックする。
そしてゆっくりドアノブを回し扉を開けると―――部屋の中に王女の姿は無く。代わりに衛兵が血を流し床に転がっていた。
「キャアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ―――――――――――――!!」
どこまでも通る声で城内に響く悲鳴があがった。




