甘くない飴
清宮陸はヒーローではない。
たくさんの人々を助けたいなんても思えない。
しかし、自分のせいで戦えなくなった少女を置いて逃げる程腰抜けでもなかった。戦う理由はそれで十分。
「ヤンのか? ハッ、いいぜ。どうせ見た奴は殺すつもりだからな」
「てめぇら、何が目的だ!」
清宮の怒りを嘲笑うかの様に男は口元を緩めた。
「言う必要はねぇよ! どうせ死ぬんだから、なっ!」
その直後男の両手から7、8個程のパインアメが放たれた。
それは清宮を直接狙っている訳ではないのか、清宮の周囲にバラバラに撒かれた。
そして
「甘くない飴」
清宮はそれを聞き取れなかったかも知れない。
男が何かを唱えたとほぼ同時。投げられたいくつかのパインアメはまるで花火の様に弾け飛んだ。
破裂音が響く。
「――――っ!」
爆発を回避した清宮が前転して地面を転がるように出てきた。
本来なら魔法で盾でも出現させたであろうか。
しかしMPを持たない清宮は、攻撃魔法も防御魔法も使うことができない、ただの人だ。
魔法対魔法にならない戦いは、この街にとっては新鮮な事である。
「ハッ! いい反応じゃねえか! MPでも温存してんのか? あぁ?」
男は高笑う。まるで戦いを楽しんでるかの様に。