あにいもっ その2
2.お買い物
どうも、未羽です。今日は美羽とお買い物に行きます。
突然何? って思うかもだけど、まあとにかく聞いてください。
美羽、あんなに可愛いのに女の子の服とか下着とか一つも持ってないんだよ!? わたしの服はロンドン行ってる間に大量に部屋に持ち出してクローゼットが過疎状態なのに、自分のものは一つもないの! おかしいでしょ!?
ちなみにこれが発覚した時の反応は以下の通り。
case 母
「……重症ね。シスコンは不治の病だわ……」
まったく、何を今更。
って幽体離脱しないで! 魂を押し込むのも結構大変なんだからね!?
case 美羽
「女の子の下着が欲しいんじゃない! 未羽の下着が欲しいんだ!」
も、もう、そんなこと言われたら……(赤面)
いいよ、いくらでも持ってって!
え、お父さん?
嫌だなあ、野郎の反応なんて知る必要ないでしょう。
あ、お兄ちゃんは別。今は妹だけど。
まあとにかく、そんなわけでお買い物です! 美羽が男物の服を着るなんて愚行はさせません! ロンドンで裏組織を幾つか潰して(物理)資金は潤沢だから、遠慮なくいっちゃいましょー!
「というわけで。起きてー!」
買い物に行くと決めた翌日、もう10時だというのに起きてこない美羽の部屋の扉を乱打する。ミシミシという変な音とドガガガガッ! という轟音が響き渡る。
が、それでも美羽は起きてこない。
なので、
「どりゃあっ!」
扉を蹴り開け、部屋に入り、布団を剥ぎ取った。
「起きろー!」
「ぅ、うーん……あと50年……」
「長いっ!」
奪われた布団を求めて彷徨う手を掴んで引っ張り起こすと、美羽はようやくうっすらと目を開いた。
「ん……未羽……?」
「起きなさい」
「ふぁあ……はーい……」
大きな欠伸を一つして、ゆっくりと起きる美羽。1年振りの朝の光景に思わず頬が緩んだ。
「取り敢えず着替え……ないじゃん!? どうしよう。服を買いに行くための服がないっ」
「んー。お姉ちゃんのは……無理だね」
「悪かったねチビでっ」
わたしの身長は142センチ。これでも16歳です。本来なら高校2年なんです。小学生じゃないんだよ?
で、美羽は普通の体型なのわたしの服を着せるわけにはいかない。
だぼだぼのジャージで動きにくそうな美羽を放置して階段を駆け下り、お母さんの寝室に殴り込みをかけた。
「お母さん大変! 服が、美羽の服がないっ!」
「ああっ、化粧が!?」
驚いて失敗したらしい。頬に赤い線が引かれていた。
「そんなことよりも服っ、服どうしよう?」
「そんなこと……この口紅高かったのに……」
「お母さんっ」
そんなどうでもいいこと言ってないで、ふーくー!
「うう、お父さんのカードの支払い上限大丈夫だったかしら……。ああ、取り敢えず服は私の古着を使って、買ってから着替えなさい」
「なるほど! ありがとうっ」
そしてお父さん、御愁傷様です。
内心で黙祷を捧げながら古着を受け取ると美羽に着せた。わたしがこの手で、じっくりねっとりと。
以下、音声抜粋。
「ひゃんっ、変なところ触らないで」
「うひひ、ここがええのか〜?」
「くすぐったいよぉ」
「何コレ、マシュマロみたい!」
「うひゃあっ」
「あぁ〜いつまで経っても飽きないね」
「んにゃあ……」
「何か汗ばんできたよ?」
「…………(ピクンピクン)」
ピーーーー…………
あとに残ったのは、やり遂げた表情のわたしと赤面して地に沈んだ美羽だった。女の子特有の未知の刺激というヤツにやられたのだ。
「さあ美羽、お出掛けしようか!」
「あ……あと50年待って……」
「長いっ! って朝もやったよこのネタ!?」
美羽はフラフラと立ち上がると、
「今回は本気……」
ベッドに倒れこんだ。
「寝るな! 寝たら死ぬぞ!」
「ここは雪山かっ」
たまらずガバリと起き上がる美羽ににっこりと笑いかけた。
「元気あるじゃん♪」
「ちょ……た、タイムは?」
「なし!」
「ですよねぇ!」
美羽の腕をガシッと掴むと、引き摺るようにして階段を駆け下りる。美羽は引き摺られる。
ドアを開け放ち、いざ買い物へ!
「行くよー!」
「お、おー……」
ピカー! と日差しが舞い込む。
シュァアー、と何かが溶ける音がする。
「んにゃーっ!?」
「お兄ちゃんっ!?」
「妹だっ」
あああ、美羽の体から煙が上がってるよ!?
て言うかツッコミ入れる余裕はあるのね!
とりあえず家の中に退避。
ドアを閉め、直射日光を遮ると不思議蒸発現象は止まった。
「うぅ……痛いよぉ……」
「美羽……弱ってるところも可愛い!」
「みぎゃー!?」
思わず抱きしめる。痛みが治まっていなかったようで、全力で反抗されてしまった。痛い。
「ご、ごめん。大丈夫か?」
「愛の鞭さっ」
美羽にやられたと思えば痛みも快感に変わるのだよ!
溢れる愛情がなせる技であって私自身はMではないしむしろSだからね、って引かないで美羽!?
あんたも同じでしょうがっ!
「お姉ちゃん興奮しすぎ」
「コホン。で、実際何が起こってたの?」
「吸血鬼だから日光がダメだったんだと思う」
なるほどね。
日光って属性で言うと『聖』に当たるから、闇の化身である吸血鬼にはキツイのかも。
「ってことは結界張って属性変換してやればいいわけだね」
「そんなことができるの?」
「任せんしゃい!」
タイプは移動型、範囲は美羽の周囲10センチ。対象は聖属性の魔力、機能は性質変換で持続時間は無限。結構複雑な演算を一瞬でこなし、魔力を練り上げた。
「できた!」
「すごい、魔術だ! ファンタジーだ!」
結界構築にはキラキラとしたエフェクトも付けたので、美羽にも見えたらしい。というか見せた。こっちの方が疲れた。
お陰様で思考加速まで使ってしまったよ。裏組織のトップとタイマン張った時以来だ。
だが仕方ない!
美羽に褒めてもらうためだもの!
「さーて、行こっか♪」
「おおー!」
テンションの上がった美羽はとても素直に付いてきた。日差しを浴びても何も起こらないことにさらに興奮し、二人でキャッキャと騒ぎながらショッピングモールへと入る。
「…………(にっこり)」
「…………(プルプル)」
そして、服屋に着いた瞬間に涙目になった。かわいかった。
この後、美羽は20回近く服を着替えることになる。
結論。
可愛いは正義であるっ!