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8月某日 自室にて

何のやる気も出ない。


平日。学校があるというのに私はそれを知っていながらベッドの上から動けずにいた。

何故動かねばならないのか。合理的な思考より感情を優先させ、私はサボタージュを決行する。嫌な思考が巡るとき、私はいつもこうやって時間を潰す。


『うつの傾向がありますね。とりあえず不眠に関してはお薬出しておきます。あとは一度精神科にかかることをおすすめしますよ。』



これは先日何となく受けた心療内科で医者に言われたことだ。何と私がうつ病だという。失礼極まりない話だ。私はただ然るべき時間にしっかりと寝たいというニーズを満たす為に行っただけに過ぎないのに。


「薬漬けとか一番なりたくない状況なんだけどなぁ…。」


とは言っても飲まないわけにはいかない。埋没費用、サンクコストの考えに従うという極めて人間らしい非合理的な選択肢を選ぶことによって、私は口にした欲とは相反するように処方された人類の叡智の塊を口に放り込んだ。


「この後コーヒーとか飲んだら手軽にホコタテが再現できるかも。」


薬の作用による眠気対覚醒作用を促すカフェイン。ふぁいっ!


しかしあまりにも身体に負担をかけそうなのでキャンセルすることとする。今の状態よりましになったら試してみよう。それにしても精神科か……。


「来るべきところまで来たということか?或いは素の要素がそうさせたというのか。」


推論する。これまでの行動と思考から、何故このような事態に陥ったか。そして今後どうするべきか。


思考を巡らせようとした時に、しっかりと薬の作用は現れた。私は意識することすら出来ず無意識へと落ちていった。




迷路にハマる夢を見た。ゴールの予測すら出来ないような圧倒的に高い壁に囲まれた私はそれでもゲームとしてクリアを目指すことを楽しんでいた。たまに壁を登って高い所から迷路全体を見渡すが、ゴールらしきものは存在せず、それでも絶望を覚えることなくあるかどうかすら分からないゴールを目指して歩き続ける夢だ。覚醒した時、微かに爽快感が残っていることが分かった。


「正夢じゃなくて良かった。現実だったら震えが止まらなくなってるわこんなもん……。」


ひとりごちる。落ち着かせる為にコーヒーを淹れた。



どうにも分からないゴール。それでも必ずクリア出来るはずと確信して進む自分。この人生のメタ的な夢なのだろうか。せっかく生きているのなら、何かしらのゴールを目指して生きることが人間としては正しい思考だとは思う。間違いなく。しかし実際にはゲームみたく分かりやすいクエストも目標もなく、どのように確定された選択肢すら存在しない。しかもセーブポイントは無く、間違えたならそこで終わり。楽しめる要素など皆無。運営が一切空気を読まないクソゲー。そういう所に気付いてしまったという事が全ての間違いなのだろう。しかし気付いてしまったのなら仕方ない。それでもなるべく生きる選択肢を捨てずに済む方法を模索しなければならない。


「しんどい。」


頭痛がする。恐らく目の前のことに一所懸命になることが出来ればこのような思いをすることもないだろう。しかし私はそういうことが出来ないタイプの人間のようだ。しんどい。

だからこそ普通に接する模範的人間のふりをすることは出来ても、根幹に関わるところで人間と付きあう事が困難なのかもしれない。


「孤高気取ったところで、このしんどさは取れないのよね。」


本日何度目か分からないため息をつく。マスターのところにでも行こうか。私がうつ病の可能性があるって言ったらどんな反応を示すのだろう。まぁどうでも良いだろうけど。

そこまで考えたところで、自分で淹れたコーヒーにまだ全く手を付けていないことに気が付いた。あれだけコーヒー好きだったはずなのに存在すら忘れてたとは。

あの医者の言ってたこと、あながち間違っていないのかもね。


第四話 End

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