表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

#2

これで完結です。

美味しく鍋を頂戴して、カレンとリョウタもやってきて、雑炊まで食べた。

皆のおなかが膨れたところで、ナホはお茶を淹れてくれる。俺ら4人がこたつを囲んでいる間にも、ナホはキッチンでお皿を洗う。


「ナホ、手伝うよ」

「ありがとう、聖司」


ガールズトークなるものに花を咲かせ始めたカレンとサユリ、スマホでゲームをするリョウタを放って、俺はこたつを出てナホの横に立つ。丁度鍋に取りかかっていたナホが、ふっと顔を上げて微笑んだ。

この10年で長くなったり短くなったりしたナホの髪。今は背中の半分くらいの長さだ。

耳にかけていたらしい髪は、顔を上げた拍子にさらりと流れる。


ナホの手からスポンジを抜き取って、俺はナホから目をそらす。耳が熱い。



ちくしょう、勝てる気しねぇ。



ごしごしと鍋をこする俺の横で、泡をゆすいだ手を拭いたナホが、俺の頭をぽんと触る。あの頃と変わらない、ナホの癖みたいなものだろう。

10年前はナホの肩にも届かなかった俺の頭は、今ではナホの頭1個分上にある。


「よくもすくすく育ったものよね。屈んでくれなきゃ、聖司の頭も撫でられない」

「ナホより背低いとか、困るから。俺、男だし」

「ま、そうだよね。なんか寂しいっていうか、感慨深いっていうか…」


嬉しくもあるんだけどね、とナホは締めくくる。

ナホの指が、何かを確かめるように俺の髪を梳いて、時折ふっと頭皮をかすめる。そんな些細なことにドキッとする俺のことなんて、きっとナホは知らないんだろう。


「10年も経つからね。諒太は茶髪にもなるし、小百合と花恋は化粧もするし、聖司はパーマかけるし。香織は東京の大学だし、宗平は働いているし、大輝と凛々子は専門卒業間近だし、真那はギャルっぽくもなる。そして私は三十路。そういうもんだね。」

「俺も茶髪にしようかな?」

「えー、もったいない。私は黒い髪好きだよ」

「大学時代に茶髪にしていた人が、何を言うか」


それもそうね。そうやってくすっと笑ったナホは、そっと俺の頭から手を退かした。

キュッと音がして、ナホが蛇口を開ける。はっと我に返れば、俺がこすっていた鍋はアワアワで、くすみらしきものまで落ちてものすごく綺麗になっていた。

きゃあきゃあ、と楽しそうなカレンとサユリの話し声が聞こえる。


「みんな、変わっていくね。まだまだこれからだからね」

「ナホは、変わってないように見える」



ナホはずっとキレイ、とは言えない。



おばさんになったから、もう体力ついていかない、とナホが笑った。


「それにしても、去年は驚いたなぁ。まさか本当に聖司と小百合が、うちの大学に来るなんて。待っているって言ったけど、半分以上冗談だったのに」

「リョウタは落ちたけどね」


こら、とナホが言ったところで、リョウタがスマホから顔を上げた。


またオレの受験失敗の話かよ、と顔をしかめる。リョウタは、都合の悪いことだけちゃんと聞こえるらしい。ばーかばーか、とリョウタが悪態をつく。お前とは頭のデキが違うんだよ、と返してやる。

本当は、それこそ文字通り“血のにじむような”努力をして、ナホのいる大学へ入ったことは教えてやらない。(すんなり受かりやがったサユリは、本当にむかついた。)



お前とは、決意が違うんだ。



ナホのいた大学が、ここら辺ではかなりレベルの高い大学だと知ったのは、中学を卒業するころだった。あの時ほどナホを恨んだことはない。


「お手伝いありがとう。さ、聖司もお茶飲もう」


鍋をシンクから上げたナホは、ひらりと踵を返してこたつに向かおうとする。

思わず、手が出た。

くん、とナホの手首を引く。振り返ったナホが、首を傾げて微笑んだ。


「奈帆、」

「なぁに、聖司?」

「俺たちが金曜日、こうやって集まるの嫌じゃない?」




俺たちと―――否、俺と―――こうやって一緒にいるの嬉しい?




「なに言ってるの、嫌なわけないでしょう!」


破顔したナホは、優しく俺の腕を撫でた。俺の手が緩むと、今度はナホが俺の腕を取ってこたつへと向かう。なんでもない顔を保つのに四苦八苦しながらこたつに入る俺を、サユリが馬鹿にしたような顔でニヤニヤ眺めていた。



金曜日は特別だ。

ナホが嬉しそうだから。









ナホの家を出て、玄関が閉まった瞬間、サユリが俺の耳元でささやいた。



残念だね、いつまでも子ども扱いのままで。




お読みいただき、ありがとうございます。

また思いついたときに投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ