学園祭準備期間シリーズ~男子生徒騒乱~
茶というよりは山吹色に近い明るい色に、左右非対称に切り揃えられた髪型。身長は160センチあるかないかで、華奢な腕と足が男子生徒用の制服から伸びる。容姿、声、どれも少女としてふさわしい物を持つ天川は結愛に自分は男だと主張し百合コールで盛り上がった教室内の雰囲気を一瞬でシリアスなものへと変換した。
「え、いやいやいや。つばさちゃんはつばさ‘ちゃん’でしよ?」
「ちがうよ。ぼくはつばさ‘くん’。男の子」
あえて、‘ちゃん’を強調し性別が女であるかを確認すると、むすっと頬を膨らませ上乗せするように‘くん’を強く発す天川。
教室にいる生徒達は初め、自分たちの聞き違いだろうと思い深くは考えなかった。しかし天川はさらに自分が男であるという証明をしようと
「ぼっ……ぼくは男の子だから……みんな信じてくれないなら、それを証明するために、今からふくをぬぐ」
男子生徒達を悩殺するんだ。の間違いではないのか、上着の襟元に右手を添え下へ向かってボタンをはずしていった。
「わぁー! ちょっと待ってつばさちゃん! 脱いじゃだめー!」
固唾を飲んで血気盛んな年頃の男子生徒達が見守る中、全てのボタンをはずし終わった天川は、ワイシャツのボタンはずしに移ろうとする。とこれ以上はまずいと判断した結愛は天川を隠すように抱きついて阻止しをする。その突然の行動に天川は圧倒され後ろに結愛と共に倒れていった。
「うぅん……」
「「「おぉ……。これは……」」」
結愛もまた倒れるとは思っておらず、仰向けで倒れた天川に馬乗りのような体勢で覆いかぶさる。結愛の右手は天川の胸元を掴み、ふにゅうという感触が伝わり、左手はうまい具合にワイシャツをはだけさせていた。
「静寂隊長……これは……」
「うむ……」
「「「百合じゃー!」」」
超絶美人な結愛が男だと主張する天川を責める。そういう風なシチュエーションを目の当たりにした男子生徒達は同じ過ちを繰り返すように騒ぎ興奮しだす。
「隊長ー! このまま続行しぶはぁっ!」
「なぁー! 徹が受けの天川の胸元に目をやってしまって倒れたー!」
「たんかだっ! はやく応急処置を!」
噴水を象った人間の鼻血が天井ぎりぎりまで噴出し、隣に立つ男子生徒の涙を誘う。一つの目標に向かう同志。友情による涙だ。
「待て! 徹の手当てなんかしてたらいい所を見逃しちまう!」
「じゃぁ誰が!? 誰がこいつを!」
「ぐふっ……まだまだぁー!」
「「「徹ぅー!」」」
一つの物語が始まり終焉を迎え、そしてまた男たちの熱い物語が始まった。
「すまなかったみんな! 俺は大丈夫だ。それより現状は!?」
「結愛と天川は未だ見つめあっている。おそらくあまりの出来事に思考が追い付いてないんだろう」
「ふむ……なるほど」
「隊長! 何か指示を!」
「隊員ナンバー1から6は机や椅子の移動。7から10は撮影の準備だ!」
「「「おっすっ!」」」
素早い状況判断に的確な指示、それを聞いてすぐさま行動に移す男子生徒。さながら訓練された軍隊のようにも見えた。
彼達の目には炎が。野心ともとらえられる下心によって統制されたその動きを止められる者はもういないだろう。このクラスでなかったらの話だが。
「はーい。男子共粛せーい」
目標であり力の根源でもあった少女二人の前に立ち、男子生徒達の視界に入ってきた、風紀委員の腕章を付けた女子生徒藤堂悠御。
「ぬぁー! 悠御を忘れてたー!」
「やばいぞ! どっ、どうしますか隊長!」
「隊長!? おいっ、隊長が見当たらんぞ!」
「隊長ならさっきお腹壊したってトイレに……」
「「「逃げやがったな!!!」」」
隊員一同、一人にやけながら撤退をした静寂が頭に浮かび、怒りがこみ上げてくる。
「くそ、さっさと見つけだすぞ!」
「だな! あいつめ俺達をおとりにしやがって」
めらめらと怒りの炎が燃え盛り、静寂を探し教室をでようとする。と
「あんたら、なーに逃げようとしてんの?」
にこっというキュートな笑顔で総勢17人の男子生徒の行く手を阻む悠御。
少女の放つその笑顔とは対照的なオーラを感じ取ったのか男子生徒達は
「終わった」
と心の中で呟いた。