学園祭準備期間シリーズ~高等部1年D組~
高等部1年D組教室。学園祭準備期間についての説明が終わり第1ホールから戻ってきた水瀬結城は男22、女18で構成された教室の窓際一番後ろという最高の席で読書に勤しんでいた。
本の内容は魔術学科のなかでも希少な特殊系統魔術についてで、神術学科専攻の水瀬にはあまり関係のある本ではないように思えた。が、水瀬は教室の前で火の玉を使い、熱闘甲子園なる野球もどきの遊びをしている男子生徒達に見向きもしないほどの集中力でその本を読んでいた。
一枚、またさらに一枚。はらりとページがめくられる。その一連の流れが十回程度に差し掛かった時
「はい、みんな座ってー」
と、教室のドアが開かれ、真っ赤な炎を連想させる髪色の少女鬼灯雅が着席を促す言葉とともに教室へと入ってきた。雅は両手で60センチほどの厚みになった紙の束を抱え、よろけながらも、その紙束を崩すことなく教卓へと辿りついた。そして集中力が途切れるような声で「よっこらせっ」と一息つくようにその紙の束を置き
「ちょっと早くしてよあまがわー」
と雅に続いて教室に入ってきた男子生徒用の制服を着た少女? 天川翼に急ぐよう催促した。
「ごっ、ごめん雅さん。あと少しで……あぁ!」
その言葉を聞いて、天川は遅れを取り戻そうと早足で雅の元へと向かう。すると、天川は右足と自分の左足が交差しバランスを崩し、抱えていた紙の束を盛大にばらまいた。それ達ははらりはらりと天川を中心に宙を舞い一層不甲斐なさが強調されるようだった。
「あぁ……プリントが……。ごめん……すぐ拾うから先進んでて……」
すぐさま雅に迷惑をかけまいと、散らかった紙を集めようと手を伸ばした。すると
「あぁーもう。どんくさいわねー。私も手伝うわよ。ほらっ早くっ」
と大きなため息をつき雅は天川の予想と反した返答と行動を起こした
一枚一枚紙が拾われ、時折二人の手が触れ合う。すると互いにちらりと見つめ合い頬を赤らめ、すぐに拾う作業へと戻った。
そんな淡いピンク色の雰囲気を醸し出す二人の仲を見て一人の男子生徒静寂荒乱が
「フォー! 百合じゃ、百合じゃ! 男子生徒共よしっかりと目に焼き付けておくぞー!」
などと興奮しだすと、周りの男子もつられて盛り上がりだした。瞬く間に教室内には百合コールが響き渡り、女子生徒達が不快そうな目で言い出しっぺの静寂を睨みつける。その目には渦中の天川を見ろという合図が含まれていて、静寂はそれに気付き目をやる。と
「……もん。ちが……もん」
天川は微かに聞き取れそうな啜り声で、うつむきながら肩をびくっびくっと揺らし両手で顔を隠していた。
「あーあ。男子さいてー。つばさちゃん泣いちゃったじゃーん」
女子生徒達は天川の姿を見て、百合コールしていた男子生徒達に非難の声を浴びせる。そんな中、生徒会会長藤峰麗雫に匹敵するほどの美貌を持ち、雪のような白い肌に黒い髪を肩にかかる程度まで伸ばした女子生徒逢坂結愛は、慰めようとそっと歩み寄り優しく肩に手をやった。
「つばさちゃん? あんなやつら無視しちゃえばいいんだよ?」
探りを入れるように、そしてなおかつ、落ち着いた口調でゆっくりと話す結愛。するとその声に反応した天川はさらに顔を赤らめ肩を揺らし、肩に置かれた結愛の手を振りほどく。
「つばさちゃん……?」
自分の対応がまずかったのかと思い、慌てたように天川の顔を覗く。と
「ゆいさん……」
「なに……? ごめんね。私つばさちゃん嫌がるようなことしちゃったかな?」
「いや……そうじゃないんだけど……」
「うん……?」
何か言いにくそうに言葉をためる天川。それを察してなのか結愛は聞き返すと。
「僕男の子だってば……」
と、予想の遙上を行く言葉が返ってきた。