赤い甲冑の足音
毎度読もうとしていただきありがとうございます。
書きためておきたいなぁと思いながら書きためれていない今日この頃です。どうにも遅筆なようでああでもない、こうでもないと毎回うんうん唸っております。どうも言葉にできないというか、登場人物の行動をいい言葉で表現できなくて悩んでおります。まあ、でも才能のない私はそれくらいが丁度いいのでしょう。
さて、本編ですが…今回はギルド集会の話になります。とはいっても大して長くなく、淡々としたつまらないモノですが、この物語の背景のようなもののほんの一部を知ることのできる話ではないかなと思っております。ちなみに名前すら付けられていない初登場の人物が何人か出てきます。今後、恐らく名前をつけることもないと思いますので、もしよかったらでいいので、勝手に名前をつけてお楽しみください。
短いですがこれで前書きとさせていただきます。
それでは第7話、赤い甲冑の足音をお楽しみください。
*
「それではこれより集会を開会致します」
円卓から遠く離れたところから進行役だと思われる男性が声を上げた。同時に、ざわついていた城内は静まり、糸が張りつめたような緊張感が浸透していった。
晴は会場の入り口で立ち止っていた。人が多すぎるせいでどうにも前に進めず、そこにいるであろう女王とギルドの長を見れずにいた。ただ幸いにも、拡声器か何かを使っているようで、声だけは人混みを越えて晴の耳まで届いていた。
「初めに、先日のノーデルランドとの蒼黄戦争の戦果ですが――」
女王の声だ。はっきりと覚えているわけではないが、恐らく間違いないだろう。
「――セント港を含むレイル川より北部の土地及び、ルベリッツ渓谷が我が領土となりました」
女王がそこまで言うと、場内が一気に歓声で溢れかえった。進行役が「静粛に」と注意を促す。
「さらには、3000万バルツの賠償金支払いも行われ、これによりノーデルランドと我が国との間で休戦協定が交わされることとなりました。我が国の大勝利です」
待っていましたとばかりにさっきよりも一層増して場内が騒がしくなる。進行役の注意を無視して、それから数分は歓声が止まなかった。
歓声が落ち着いてくると、女王が再び口を開いた。
「しかし、我が国も多くの犠牲を払うこととなりました。この度の戦争による7000人の死者には哀悼の意を表します」
途端に場内に重苦しい沈黙が響きわたる。すすり泣くような声がところどころから漏れる。
しばらくすると、知らない声が口を開いた。
「続けてください陛下」
どこか粘っこく耳に張り付いてくるような声だった。
「ええ。それではこの度の蒼黄戦争において、いくつか報告があがっているので伝えさせていただきます。軍部から、『小銃の射程距離が短く、また一発を撃つに当たり予備動作が多く時間を要してしまうため改善が必要』とのことです」
女王がそう言うと、聞いたことのない野太い男性の声がした。
「分かっちゃあいるが、試作段階でもいいと言ったのは軍部側だってのを忘れんなよな」
「分かっております。ですが、実戦に投入して試してみたかったのも事実でしょう?」
「まあ、それは違いねえが……それにしても国王命令だって言って試作品を金を支払わずに持ってくなんて泥棒まんまじゃねえか」
「お金なら後で払いますのでご安心ください。それ以外に何かあるようでしたら……」
「何もねえよ、ったく。今度やったらタダで済ませねえからな」
「今回はタダでよろしいのですか?」
「はいはい、分かりました。もう何もおっしゃいません。どうぞ先を続けてください」
お手上げといったように野太い声がそう言うと場内からクスクスと笑い声がもれた。それに構わず、女王は話を続ける。
「それでは次の報告ですが、『進軍中に東の森付近にて焚火跡を発見。数日前まで人がいたと思われる』とのことです」
「東の森ってのは、禁獣が巣食ってるっていう……」
野太い声が驚いたような声を出す。周囲も少しざわつき出した。
すると、また聞きなれない声が出てきた。
「私が説明しましょう」
「あんた誰だ?」
「先日、近衛騎士団団長に任命されましたクラウスと申します」
聞きなれない声はクラウスと名乗ると、咳払いをして話を続けた。
「陛下の読み上げられた報告通り、東の森付近にて焚火跡が発見されました。残灰の量からみて、恐らく数日はそこにいたと考えられます」
「数日ってどのくらいなんだ?」
「細かいことは分かりませんが、おそらく1週間は下らないかと」
「何の用があって東の森なんかに……」
野太い声の呟きが残る。ざわついた会場では様々な憶測が飛び交っていた。何個か聞こえた憶測によると、どうやら前代未聞のことらしいということは晴には分かった。ただ、それ以上を知る前に進行役が会場のざわつきを落ち着かせた。
「なあ、他には何かなかったのか?」
野太い声が尋ねる。
「いえ、これといったものは見つかりませんでした」
「だけどよ――」
「そこまでです。それ以上は集会が終わってからにしてください」
女王が野太い声を一方的に止める。野太い声は何か抗議したそうに唸ったが、結局は何も言わずに引きさがった。
「それでは次の報告に移りたいと思います。続いての報告ですが、『魔士の育成が急務である』とのことです」
「一体誰ですかぁ?そんなメンドクサイことを書いたのは」
また晴の聞きなれない声が聞こえてきた。今度は女性の声だった。妙に間延びしている。
女王が名前を出すと、その女性は舌打ちをして大きくため息をついた。
「あの人ですか……それで?そのへんのことについて陛下の意見はどうなんですかぁ?」
「私は……できることなら急ぐべきだと思っています。今回の戦争でも魔士の存在は報告されていますし、恐らく各国も研究、育成に力を入れていることでしょう。事実、彼らの存在は戦況を変えかねません。それだけに各国に遅れをとらないためにも我が国でも魔士の育成を急ぐべきです。ですが――」
女王がそこまで言うと、遮るように聞き覚えのある声がした。ユリウス総帥の声だ。
「だが、魔士を育成しようにも素材が少ない。そうじゃな陛下」
「ええ」
「しかし、風の噂では研究所の方で新たな発見があったとか聞いたんじゃが、いかがかな?」
「私は何も聞いていませんが。アイリーン?」
「……もう、何で老帥はしゃべっちゃうかなぁ。まだ研究段階だから黙ってたのにぃ」
間延びした声でアイリーンと呼ばれた女性が答えると、ユリウス総帥が「ほっほ」と笑った。
「本当に隠したいのならわしにも黙っておくんじゃったな小娘」
「うるさいなあ、老帥には隠しようがないじゃん。だから喋ったのにぃ」
「それよりもアイリーン、どういうことですか?新しい発見とは何なのですか?」
「陛下ぁ、聞かなかったことにしてくださいよぉ。老帥がバラさなかったらいわないつもりだったんですからぁ」
「いいかげんにしなさい、ヨーデル!」
「分かりましたよ、言えばいいんでしょ、言えば。その名前で呼ばないでくださいよぉ」
「早く!」
「はいはい。それでは老帥のバラしたことなんですがぁ――」
「バラした」の部分をことさら強調しつつアイリーンはで話し出した。
「まだ研究段階なんですが、ある一部の人種において後天的にも魔士の適正が発現することが分かりました。ただ、発現条件が定かではなくてですね、まだ実用段階じゃないですし、不確定要素が多いですしぃ、それにぃ……」
「それに何ですか?」
「その、発現した人種ってのがですね……」
「はっきりしなさい!」
「オーデュなんですよぅ」
一気に会場がざわつき出した。あちこちが「今なんて言った?」「オーデュだって」「あのオーデュかよ」といったありふれたささやき声で溢れた。
進行役が「静粛に」「お静かに」と叫ぶが誰も聞く耳を持たず、収まる気配がない。しびれを切らした進行役が金切声にもにた叫び声を発した時だった。晴の近くの扉が勢いよく開かれて、以前女王に会った時に見かけた赤い甲冑の兵士が中に入ってきた。
「た、大変です陛下!」
走ってきたのか膝に手をつき、肩を上下に震わせている。
声を聴いた女王が歩み寄ってきた。
「どうしました、カトレア」
「大変です陛下。オーデュと帝国の連合軍が……ヘリテ平原に――」
「攻めてきたのですか?」
女王の問いかけにカトレアと呼ばれた赤い甲冑の兵士が頷くと、さっきとは比べ物にならないほどのざわめきで会場が揺れた。
「おい、帝国が攻めてきたって」
「また戦争かよ」
「帝国相手に勝ち目があるのかよ」
「オーデュもいるんだろ?」
「オーデュは中立じゃなかったのかよ」
「バカ、仕返しに決まってんだろ」
「だってあれは昔の話じゃねえかよ」
「恨み骨髄に徹すだよ」
「何だよソレ」
「知らねえよ」
女王とカトレアのいるところが中心になり、ざわめきが波状に広がっていく。話が聞こえたのかユリウス総帥が足早にやってきた。
「帝国が攻めてきたというのは本当か?」
「老帥……はい。意図は分かりませんが間違いなく、武装したオーデュと帝国の連合軍がヘリテ平原まで来ています」
カトレアが答える。総帥は長い白髭をしごきながら女王を見た。
「分かっております老帥」
そう言うと女王は会場にいる観衆の方を振り向くと声を張り上げた。
「戦争です!戦の用意を!」
女王が手を振りかざしてそう宣言すると会場がピンと張りつめた。と思うと、途端に慌ただしくなる。
次から次へと人々が入口に殺到し、外へと流れ出ていく。
女王も赤い甲冑の兵士と共に会場から足早に出て行った。
女王を見送った総帥が入口から会場の中央にゆっくりと移動した。
「さて、ゆっくりとはしておれんことになった。また戦争じゃ。つい先日までしておったのに、また戦争じゃ……」
そう言って気だるそうに俯いたかと思うと、総帥はすぐに顔を上げて指示を出し始めた。
「会場にいる冒険者諸君。これより編隊を決定する。相手は帝国とオーデュの連合軍じゃ、出し惜しみはしておれん。総力戦で臨むことになるじゃろう、新入りには酷なことじゃが仕方あるまい。心してかかる様に。編隊は蒼黄戦争と同じじゃ。1大隊当たりおよそ100人。そこからさらに、30人程度の中隊が3つ、それをさらに10人程度の小隊に分けるんじゃったかのう」
白い髭をしごきながら総帥が素早く指示を出す。それに合わせて人が流れるように動き、数分の後に人数は少ないながらも3つの大隊が完成した。晴もそのうちの一つに組み込まれている。
「さて、ここにいないものは各隊で道中拾っていけばよいじゃろ。幸いにも特級の3人に1等級の連中もおるから隊は機能するじゃろう」
そこで総帥は一息つくように隊を見回した。
「さて、わしらは独立遊軍となり戦場を駆けずらねばならない。死人を踏みつけて、死を横に携えたまま死地へと赴かねばならない。それゆえに、多くの死者が出るであろう。昨日笑い合っていた友も、明日は無表情をぶら下げて横たわっているかもしれない。それでも、戦地にいては泣く暇もない」
そこで総帥は言葉を区切った。これから戦争だというのに重苦しい空気が会場に立ち込める。
「死が傍らにいることを知るのじゃ。すぐそばで死が手をこまねいておるのを覚えておくのじゃ。そして、守りたいものがあるのを忘れぬように。守るべきものかいることを忘れぬように。それだけでお主らはどの軍隊よりも強く勇ましいものとなるじゃろう」
総帥は大きく息を吸い込み、目をカッと見開くと大声を上げた。
「死を覚悟せよ!守ることを決意せよ!行け!冒険者共!一人たりとも生きて返すな!」
獣じみた叫び声で場内が溢れかえる。次々にこぶしが突き上げられ、そのたびに盛り上がりは大きさを増す。
総帥はそんな光景を見ながら聞き取れるか取れないかくらいの小さな声で、「死ぬではないぞ」と呟いた。しかし、それも場内のうなり声にかき消されて誰の耳にも届くことはなかった。
会場内の士気が上がり続ける中、晴の士気はさがる一方だった。
戦争なんて冗談じゃない。自ら死に飛び込むなんて馬鹿げてる。そもそも俺は異世界人だ。成り行きでこの国のギルドに入ることになったが、実際はどこでもよかったはずだ。この国にこだわる必要はない。愛国心も国民意識もあったもんじゃないだろう?それならば逃げよう。仮に後ろ指を指されても、たとえ罵詈雑言を浴びせられようとも、俺は逃げよう。何よりも大切な命のために、俺はこの命を守り抜こう。
晴は決心を固めた。後はバレ無いように逃げるだけだった。
会場は熱気で埋め尽くされている。固められたこぶしは絶えることなく天に突き上げられている。
今ではない。晴はそう思った。すでに冒険者が集まり、入ってくる者はいても、出ていく者がいない今ではない。
周りと同じようにこぶしを高く掲げながら機をうかがう晴を、部屋の中央で総帥が静かに見つめていた。
お疲れ様でした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
あと少しだけ私の戯言にお付き合いください。
どうも人間の描写が下手くそで仕方がない。今日初登場した方々もうまい具合に描写できておらず誰が誰で、誰が誰なのか分かりづらくなっていて……大変申し訳ありません。そのせいで、せっかく初登場した方々が台無しになってしまう。まあ、残念ながら今日初登場した方のほとんどが今回でお役御免になると思いますが。
何はともあれ、私は私自身の才能のなさをうらめしく思う限りです。まあ、才能などあってないようなもので、努力が足りていないだけかもわかりませんが……。
さて、あとの反省はこっそりひっそりやるとして、次回の予告に参ります。
次回はついに戦場へと向かいます(まあ、流れからしてそうなんですが)。もちろん晴は必死で逃げる機会をうかがいます。戦争なんて怖いだけですからね、実際。ここでペラペラと書き綴っても楽しみにしてくださっている方の邪魔になりかねないのでここら辺で終わらせていただきます。ああ、あと次回はイレーネが中心になりかねないかもです。
そんな次回ですが、一身上の都合により、来週の金曜日に掲載いたします。つまりは予定通り一週間更新です。はい。金曜日が多くの人が見てくれるらしいということなので金曜日更新に落ち着くかなと思います。
短い前書き、後書きで申し訳ありませんが、今回はこの辺で失礼させていただきます。
ふと思い立ったらでいいので、来週も足を運んでいただきますようお願いします。
最後までお読みいただきありがとうございました。それでは失礼します。