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5人

 毎度読もうとしていただきありがとうございます。

 タイトルを変えたらPVがガクッと減ったので、やっぱマズかったなぁと思う今日この頃です。


 今回は晴が家出から帰ります。ただそれだけです。はい。

 まあ、新しい登場人物も出ますが……


 それでは第14話、5人をお楽しみください。

 *


 次の朝、日が昇り始めた頃晴とアルスは小屋に向かって歩き始めた。


「なあ、ハルのいた世界の話をしてくれないか」


 アルスは晴の前を歩きながらそう言った。


「俺の世界か。そうだな……『車』って知ってるか?」

「車、か……知らないな。何だ、それは」


 アルスが首をひねる。


「ガソリンで動く乗り物だ。……そうだな、馬のない馬車ってところだ」


 晴がそう言うとアルスは声を上げて笑った。


「ははっ、馬のない馬車か。面白いな。手押し車か何かじゃないのか?」

「いや、自動で動くんだ。原動力がガソリンという燃料で――」

「いや、それ以上は聞かないでおくよ。どうも頭を使うのが苦手でね。専ら体を動かしている方が楽なんだ」


 アルスはそう苦笑した。

 いつの間にか晴とアルスの距離は互いに友人と言えるくらいまでに縮まっていた。それは二人で野宿をしたからかもしれないし、どちらかが気を使っているからかもしれない。ただ単純に同い年だったからかもしれない。何れにせよ、晴は気兼ねなく話せる相手が出来て少し嬉しかった。


「俺のことより、この世界について教えてくれないかな。まだよく分かっていない部分が多いんだ」


 歩き慣れているのか道なき道をずんずん進んでいくアルスを追いかけながら、晴はアルスの背中に尋ねた。


「何を知りたい?」


 前方から振り返らずにアルスが聞いてくる。

 生き物たちが起き出したのか。森が次第に騒がしくなってきた。


「分からない」


 晴はさっきより少し大きな声で答えた。


「分からない?どういうことだ?」


 アルスも少し声を大きくして返してくる。


「知らないことが多すぎて、何から聞けばいいのか分からないんだ」

「ははっ、何か面白いな」


 アルスは声を上げて笑った。どうもツボが浅いらしい。

 その時、不意にアルスの目の前に巨大な獣が現れた。狼にも見えなくはないが体毛に覆われておらず、ゴツゴツした肌が露出している。しかし目を見張るべきはその口から生えた露骨なまでの凶器だった。砥がれでもしたのかと思いたくなるくらいにその凶器は鋭利であり、何を食したのか赤々とした液体が滴っていた。

 晴は突然の来訪者に固まってしまった。また晴の頭に恐怖が蘇る。晴が咄嗟にアルスを見ると、アルスは何食わぬ顔で目の前の獣に近づいていった。


「おー、よしよし」


 アルスは手を突き出したかと思うと、倍以上の身の丈のある目の前の獣の顎をくすぐった。獣が気持ちよさそうに吠える。


「おい……、何してんだよ……」


 絞り出すように声を出した晴にアルスは困ったような顔を向けた。


「変に思わないでくれよ。別に俺がおかしいわけじゃないからな」


 そう言いながらアルスは頭を垂れたその獣の頭を撫でた。


「こいつらには俺の血も交じってるんだ。だから人語もある程度なら理解できるし、俺の言うことには従順に従う」


 いくら血を混ぜたところで人の言葉を理解できるようになるとは思えなかったが、そこにはそれなりの事情と言うものがあるのだろう。さすがに驚いたが。


「『こいつら』って言ったよな?」

「ん?……ああ、言ったよ。ここにいる生き物は大抵がそうだ」


 こともなげにアルスはそう言う。相変わらず獣は気持ちよさそうに鳴いていた。


「待てよ、ここにいる生き物って禁獣って言われてるんだろ?」

「らしいな」

「そ、そんな危険な生き物が何で従順になるんだよ」


 晴の問いかけにアルスは急に真顔に戻って答えた。


「何で危険なんだ?」


「は?」

「何で禁獣が危険だと決めつける?」

「いや、だってデカいし……俺を襲おうとしたし……」


 しどろもどろ、言い訳するかのように晴が答えると、またアルスは笑った。


「変な顔をするな。何も危険だから禁獣なんて言われているわけじゃないんだ。この生物の作り方が禁じられているだけだ」

「禁じられている?」

「ああ、単純な話だ。俺の血を混ぜているって言ったろ?多くの場合、高確率で人の血を混ぜられた生き物は死に至るんだ。だけど、それは言ってしまえば命を弄ぶ行為だ」

「だから禁止されている?」

「そういうこと」


 アルスは向き直り、獣を優しくなでた。すると、獣はアルスにこすりつけるように身を寄せる。獣の大きささえ除けば十分に微笑ましい光景だった。


 その後も晴とアルスは雑談めいたものを交わしながら家路を歩いた。道中様々な生き物――そのどれもが晴にとっては恐怖を募らせる類のモノだった――に会ったが、やはりそのどれもがアルスに懐いていた。それらは時にアルスを甘噛みしようとしたり、舐めて愛情を示そうとするものもいる。それをその度毎にアルスは笑っていなす。そしてその度毎に晴は奇声を発し、体を強張らせていた。


「よし、そろそろだ」


 出会う生き物が少なってきたなと感じてきたころにアルスが声を上げた。気付けばすでに太陽は頭上まで登っていた。もう昼だった。

 アルスがそう言ってから少し歩くと、急に視界が開けた。

 また戻ってきた。

 一度は出ようとした家に、もう一度戻ってきた。こういう表現が適切なのかは分からないが、家出から帰ってきたような感じがして、なんだか笑えた。

 アルスの後について、真っ直ぐ玄関へと向かう。

 さすがに少し戻り辛くもある。喧嘩別れではないが、険悪な状態で家を飛び出したのだ。それでもアルスがいる。ただそれだけで不思議と心強かった。


「ただいま戻りましたーっ」


 大きな声を上げてアルスは玄関の扉を開けた。すると、いきなり誰かがアルスに飛びついた。


「ご無事でしたか……」


 ルシアナだった。彼女は泣きそうな顔になりながらアルスを抱きしめた。


「だから、心配ないって」

「万が一があるかもしれないじゃないですか。あーもう、どれだけ心配したと思ってるんですか」

「ありがとう、ルシアナ」


 こともなげにアルスはそう言って、ルシアナの頭を撫でた。

 晴は気恥ずかしさから目を逸らした。

 

「ああ、紹介するよ。この人はルシアナ。俺の母親代わりの人」


 アルスがルシアナを晴に紹介してきたので、晴も佇む木々から目線を二人に移した。


「改めて、初めまして。アルスお坊ちゃまのお守りを務めさせてもらっています、ルシアナと申します。ハルさんが戻ってきてくれて何よりです」

「あ、初めまして。ハルカワ ハルです。よろしくお願いします」


 そう晴が頭を下げたところに、髭面の男が家から出てきた。


「おっ、何だ。戻ってきたのか」


 髭面の男の言葉に、晴は少し眉間にシワをよせた。


「おいおい、冗談だよ。そんな顔するなよ」


 男はそう言って笑った。

 アルスが改めて男を紹介する。


「知ってると思うけど、この人がダリウス」

「ダリウス・アンダートンだ。これからよろしくな」


 そう言ってダリウスが手を差し出してきた。


「……よろしくお願いします」


 晴はあまり感情を込めずに、軽く頭を下げてその手を握った。


「よし、じゃあこれで――」


 アルスがそう言おうとしたところで扉の奥からもう一人出てきた。それを見てダリウスが思い出したように言う。


「ああ、そうだったな。お前らは知らんかもしれんが……女王の妹だ」


 扉の奥から出てきた女の子がペコリと頭を下げる。それに釣られる様に晴とアルスの二人も頭を下げた。

 

「初めまして、フェリテ=ウエスターナです」


 綺麗な人だった。無地の白いシャツに薄い青色のロングスカートという地味な格好にもかかわらず、その存在感は一つ浮き立っているように思えた。透き通るような肌に、くっきりとした目鼻立ち、青と言うよりかは藍色に近い色の髪は後ろで一つにまとめられている。

 スタイルの良さで言ったらルシアナに負けるだろうが、それでも、上品さのようなものを彼女は併せ持っていた。


「初めまして、アルス=クラウヴェルだ」


 驚くことなくアルスはそう言って、フェリテに手を差し出した。フェリテがそれを握り返す。


「あ、初めまして、ハルカワ ハルです」


 そのままフェリテが晴の方に顔を向けたので、慌てて晴も挨拶して頭を下げた。

 晴が頭を上げると、アルスがパンと音を立てて手を叩いた。


「よし、今度こそ終わりだな。それじゃあ飯にしよう」


 そういや昨日から何も食べてないことに晴は気が付いた。すると、急に腹の虫が鳴り出した。

 家の中に入ると、暖かな食事円形の大きなテーブルの上に用意されていた。入ってきた順番に座っていくと、晴の右手がアルス左手側がルシアナという順番になった。

 テーブルの上には野菜に味付けをして焼いた肉、それにパンのようなものという簡素な料理だった。ムラキと宿に泊まった時もそうだが、異世界だからといって食事大して差異がないことに晴は少なからず驚いていた。ただ、食事に使うどちらかと言うとしゃもじ寄りのスプーンはひどく使い辛かった。


「それじゃあ、とりあえず新しいのが二人も来たことだし、これからのことを話しておくよ」


 アルスが肉を頬張りながら口を開いた。


「俺らの最終的な目的はトルカ帝国を滅ぼすこと。そのためにはとりあえず、この一年を変えなければならない」


 アルスの言葉にフェリテが首を傾げる。


「変えるって何をでしょうか?」


 フェリテの問いかけにダリウスがあの長々とした話をだいぶ簡略させた形で答えた。それでもフェリテの顔を曇らせるには十分のようだった。

 ダリウスの話が進むにつれてフェリテの顔に影が差し、眉間にはしわが寄っていった。最後にはうつむき顔を覆ってしまい、ダリウスの話が終わってもしばらくは顔を上げることはなかった。

 辛いのだろうと思う。悲しいのだろうと思う。たとえそれがまだ起こっていない未来の話だとしてもだ。

 うつむき顔を両手で覆うフェリテを見るだけで、晴にはその辛さや悲しみがひしひしと伝わってくる。恐らく、晴だけじゃなくて、アルスにも、ダリウスにも、ルシアナにも伝わっていただろう。眉の端を下げて、何と言っていいか分からないといった表情を作る3人を見ればそうだろうということは容易に想像がつく。ただ、その表情は、同時にフェリテのその胸の痛みはどれほどのモノなのかは分からないということも語っていた。それは晴も同じだった。その辛さの、悲しさの深さも、大きさも何も分からない。それはフェリテにしか分からない。ここにいる誰一人、決してフェリテと共有することはできない。そうと知っていたからこそ、フェリテが顔を上げるまで、誰も喋ることをしなかった。

 しばらく経った後、顔を上げたフェリテは毅然とした表情で言った。


「事実であれ、虚構であれ、私はウエスターナを守ります」


 そこにいる誰でもなく、食器の並んだテーブルを睨みつけてフェリテはそう言った。膝の上で両手を固く握り、少し肩を震わせていた。

 そんなフェリテにアルスが静かに口を開いた。


「どうやって守るんだ?」


 優しい声だった。それでも、アルスがフェリテに突きつけたのは現実だった。


「それは……」


 アルスの問いかけにフェリテは声を詰まらせた。それを見たアルスがここぞとばかりに提案した。


「だったら俺たちと来てくれないか?なあ、ダリウスもそのつもりで連れてきたんだろう?」


 急に振られたダリウスが慌てた様子でしどろもどろとする。


「あ、いや、でも、俺は女王が匿って――」

「な、そうだろ」

「ん……あ、ああ」


 アルスに念を押されるように聞かれたダリウスは戸惑いながらもそう頷いた。

 フェリテに向き直るとアルスはフェリテの顔を覗き込むように身を乗り出して尋ねた。


「なあ、フェリテはどうだ?」


 アルスの目が真っ直ぐフェリテを捉える。うつむき加減のフェリテの顔がパッと上がった。


「いいんでしょうか?」

「どうしてダメなことがある?」

「だって……私はウエスターナであなたはトルカの人間です。それなのに……」


 そこまで言って言葉に詰まったフェリテはまた目を伏せた。


「俺は別に構わない。むしろフェリテの方は大丈夫なのか?」


 アルスの問いかけにフェリテは首を縦に何度も振った。


「それなら、一緒に行こう。俺たちだからこそ出来ることだってあるはずだ」


 そう言ってアルスは晴の時と同じように、フェリテに手を差し出した。


「ありがとうございます」


 フェリテはその手を握り返した。

 お疲れ様でした。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 次回は小さな円卓会議の話になります。とはいえ、その大半がケンカ腰?の会話なので会議っていう会議でもないような感じでもあります。


 次回の更新は来週の金曜日になります。


 長い間お付き合いありがとうございました。

 またのお越しをお待ちしております。

 それでは失礼します。

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