山本が探しているチップ?
書斎の中。机を挟んだ向こう側では、祖父がマウスでパソコンを操作し始めている。そして、その様子を祖父の横に立っている真が眺めていた。
「やはり不完全体だ」
祖父が言う。
「全く同じですね」
祖父の言葉に、真が目を見開いて言う。
「何が?」
一人だけ仲間外れにされた気分の結希が、前にも増した不機嫌さを漂わせた口調で言った。
「いや、何でもない」
祖父が結希の問いかけに対し、回答を拒絶する。
「何でもないことないでしょ」
「まあ、いずれな。
もういいぞ。ありがとう」
結希の再度の問いかけも、祖父はそう返して、結希の知りたいことには一切に触れず、手で出て行けと言う合図までした。
結希がむっとした表情で書斎のドアを大きな音がするほど、思いっきり閉めて出て行くと、書斎の中で二人がひそひそと会話を始めた。
「では、やはり山本が生きていた?」
「おそらくな。
奴はチップが存在するのではと疑っているはずだ」
「あの時のことですか?本当にそうなんですか?」
「ああ。おそらく、あれはきっとチップを探したに違いない。
ここにあると確証を手にすれば、どのような手を使ってくるか分からんぞ。
最も安全な場所にあるとは言え、ここにあると知られぬ事が一番だ」
そう言うと、祖父は見ていたパソコンのアプリを閉じた。
「あっ。データはセーブしておかないのですか?」
「ああ。危険だから、パソコンには落とさない事にしている」
息を潜め、書斎のドアに寄り添って、中の二人の会話を聞いていた結希が全く意味の分からない内容に首をかしげた。
山本。
チップ。
セーブすると危険なデータ。
結希は自分の右手の人差し指を見つめながら、足音を忍ばせ書斎のドアから離れて行った。