銃弾もきかない異様な生き物
真の言葉に結希はむっとした表情になっていたが、真はそんな事は気にしていないかのように、にこやかな表情で言葉を続けた。
「ほら、これらしいよ」
真がそう言うので、見てやろうじゃない的な雰囲気で結希がキッチンを離れ、TVの画面を見に行く。
TVに映し出されている映像の中では、治安部隊の大勢が発砲していて、銃から煙が立ち上っていた。
そして、その彼らが銃を向けて発砲しているその先には、何かの着ぐるみでも着ているのではと言うような人間も思えない生き物が立っていて、両腕をクロスして自分の顔をかばいながら、銃弾の雨の中、じっと立っていた。
銃弾の雨にさらされているにも関わらず、その生き物から血が吹き出してもいない。ただ、その生き物の全身からは、休むことなく何か埃にも似たものが飛び散っていて、また足元にも何か小さな物が激しく地面にぶつかっているらしく、地面からも何かが飛び散っていた。
その常識離れした現実に結希は目を見開いていたが、結希だけではなく、この映像を見た誰もが思うのは、この生き物には本当に銃弾がきかないらしいと言うことだった。
「何?それ?」
結希が自然と疑問の声を上げた。
「人間だろうな。たぶん」
祖父の言葉に、苛立ったように結希が返す。
「そんな事分かってるわよ。
あれは何を着ているのって、聞いているのよ」
結希はその生き物の異様な姿に、銃弾をも通さない何らかの装甲を施した物を着こんでいると思っている。
そんな結希の問いかけに対し、二人は黙ったままだった。
やがて、その異様な生き物は両腕をクロスした状態で、発砲している治安部隊に向かって、突進し始めた。
距離が開いている間は隊列を崩さず、発砲を続けていた治安部隊だったが、間合いが無くなると、散り散りに逃げ出しはじめた。
発砲が止むと、異様な生き物が逃げ出しはじめた治安部隊の隊員に襲い掛かった。
その生き物に頭部を殴られた治安部隊の隊員は、頭部を陥没させながら吹き飛んで行き、胴体のあたりを蹴られた隊員は体を90度と言っていいほどの角度で体を折り曲げ、口から血を吐きながら、吹き飛んで行く。
この生き物の攻撃を受けては、命があるとは思えない。
圧政を敷く大統領の前に不満を募らせていた民衆が治安部隊がやられる様を見て、遠く離れた背後で歓声を上げている。
政府に対し不満を抱いていた民衆を鎮圧するために起きた治安部隊による銃撃事件に巻き込まれ、両親を失った真と結希。
結希にとっても、両親の敵とも言える治安部隊がやられる様は喜ばしいはずではあったが、それ以上に血の恐怖が上回っていた。
血の匂いさえ漂ってきそうな惨状に耐えきれず、結希はリモコンを手に取るとTVを消した。
祖父と真は仕方ない。そんな表情で、二人顔を見合わせている。
そんな二人をおいて、結希はキッチンに戻って行った。