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事実に目を向けなよ

 結希が通学に利用しているバスを自宅近くのバス停で降りて、疲れた足取りで自宅を目指す。

 結希が目指す自宅は田舎で大きな家があるこの地域の中でも、一段と大きな部類に入るものであり、その造りは近代的で、都会の高級住宅地の邸宅にあっても遜色のないものだった。

 しかも、この家に取り付けられている監視カメラの数とセキュリティシステムは一般家庭には不似合いなくらいのものだった。


 「ただいま」


 結希がそう言って、家の中に入って行く。


 「おかえり」


 もう何年も前に大学病院の第一外科部長を退き、この家で隠居暮らしをしている祖父がそう言って、結希を出迎える。

 一緒にここで暮らしている真の声が聞こえないところから、まだ真は帰ってきていないらしかった。

結希は二階にある自分の部屋を目指さず、リビングのソファ横に鞄を置くと、エプロンを制服の上からかけて、キッチンに向かった。

 今日の夕食当番は結希の番で、クリームシチューを作る気でいた。

 食材を取り出し、下ごしらえを始めた時、結希は祖父がいつもと違って、リビングでソファに座りTVを真剣に見ている事に気が付いた。


 「何を見ているのかなぁ?」


 結希はそう思ったものの、それ以上の事はせず、調理を続けた。

 そして、結希が煮込んでいるクリームシチューの味を調えようと、最後の仕上げに入った頃、真も帰ってきた。

 真は二階にある自分の部屋に鞄を戻す間もなく、そのまま祖父に呼ばれ、結希の鞄の横に自分の鞄を寄り添うように置くと、ソファの祖父の横に腰掛けた。


 「二人で何を見てるの?」


 結希は自分だけ仲間外れにされている気分で、不機嫌そうに二人に言った。


 「治安部隊を何者かが襲ったらしいよ。

 それも銃が効かなくて、怪力なんだとか」


 結希に振り向いて、真はそう言ったが、結希には銃がきかないなんて言う話は信じられなかった。

自分の両親たちの命を奪った銃弾。幼かった結希は偶然助かったが、治安部隊の銃撃による惨劇は今でも、その脳裏にくっきりと焼き付いていて、銃の恐ろしさは今でも結希の心にしみついていた。


 「ふーん。治安部隊なんて、無くなってもいいけど、そんな事が本当にあるの?」


 以下にも何を馬鹿な事を言っているの?と言わんばかりの結希の口調に真がきつい口調で返す。


 「あるから、起きてるんだろう。事実に目を向けなよ」


 「事実に目をむけなよ」その言葉は真が結希によく言う口癖のようなもので、いかにも結希が何かから逃げているかのような言い草に聞こえ、結希にとっては不愉快な言葉であった

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