河原 真
「女子を泣かせる奴は最低だ」
結希が落ち着きを取り戻し、由依と二人して戻ってきた教室では学級委員長の河原 真がさっきの遠藤達に怒鳴っていた。
この河原 真はこの学校一の成績をとっているが、それだけでなく全国レベルで見ても指折りの天才である。しかも、運動もできるので、女子からの人気もかなりなものがあるが、今のところ誰とも付き合っていない。
そんな真は幼くして両親を失っていて、周りには秘密にしているが、結希と一緒に結希の祖父の家に暮らしていた。
「うっせーな。勝手に泣いたんだろうが」
「お前が人が傷付くような事を言ったからだろう。
女子を泣かせて、男として恥ずかしくないのか！」
その真の言葉にここぞとばかりの勢いで、由依がずかずかと教室の中まで進み、遠藤たちの横まで行って、きつい口調で言う。
「そうよ。結希に謝りなさいよ」
「俺は同じ男として、恥ずかしいぜ」
今度は白石が真達に加勢した。それでなくとも、気分は真側だったクラスメートたちだったが、これで流れは決した。
クラスメートたちが次々に遠藤たちを非難し始める。
その勢いに負けた遠藤が怒鳴り気味に叫ぶ。
「あーあ、分かったよ。悪かったよ。俺が悪かった」
「全然、悪そうじゃないじゃない。
反省してないでしょ」
由依が睨み付けるような視線を遠藤たちに向けながら、強気の口調で言う。
「悪かった。早川に謝るよ」
遠藤たちはクラスメートたちから向けられた突き刺さるような非難の視線に負け、今度はしおらしそうにそう言った。
その言葉に由依が結希のところまで戻って行き、結希の腕を引っ張っり、結希を半ば引きずりながら、遠藤たちの前に連れてきた。
「ほら、早く謝りなさいよ」
由依が遠藤たちを睨み付けながら言った。
「俺が悪かった。ごめん！」
「いいよ。もう」
遠藤の言葉にそう言った結希は由依の気持ちはありがたかったが、こんな事では何も解決しない事を知っていた。
いつかまた、あの言葉を誰かが自分に言うに決まっている。
あの噂からはずっと逃れられない。そう思っていた。
