第二話 ②
私はお茶碗とお箸を持ったまま固まっていた。
だって、もう完全に絶滅したはずのガングロ女子高生が、玄関からドカドカとリビングに向かってきたからだ。
スゲー……。
ルーズソックス履いてるよ。
「よっ、あさひ!おひさ〜」
と気軽に私に声をかけてきたその声で、わかってはいたけど、あらためて認識する。
「えっと……メイおばさんでいいんだよね?」
多分、私の声は震えてたと思う。
「そだよー。どうだ?すごいだろ?」
メイおばさんは、何故か得意気だ。
「確かメイおばさんって、今年で29じゃなかった?」
「ふふん!私もまだまだイケるってことよ」
うん……。
たしかにメイおばさんは、年齢からするとかなり若く見える。
肌も綺麗だし、皺やシミ一つもない美人なのは知っている……。
いや、でもさー。
「えっと……コスプレはじめたの?」
私が思わず発した言葉に――
「違うって!仕事でしてんの!今回任務で高校への潜入しなきゃなわけでさ。だから現役JKに変装してんの」
メイおばさんは、何故かギャルピースしながら語った。
うん。
ギャルピが最近また流行ってるって、めざましテレビかなんかで見たけどさ……。
すごく平成感漂ってるのよ。
あと、高校に潜入するなら教師とか事務員でいいじゃん!
なんで生徒をチョイスするの?
ああ、高校も今日が始業式だからか。
……って関係ないがな!
おばさんって、日本政府直轄の秘密諜報機関のエリートでしょ?
大丈夫か日本政府。
「そんなわけだから、あさひ。おばさんはやめろ!お姉ちゃんと呼びなさい」
メイおばさ……いや、メイお姉ちゃんは、そう言って両手の手のひらをパーにして前に突き出した。
知ってる。
古のeggポーズでしょ……。
ギャルピはまだ許容できたけど、それはかなりキツい……。
てか、そもそもあんた、その世代でもないやん!
「えっと……メイお姉ちゃん、すごく平成の香りがするんだけど」
恐る恐るそう言ってみると――
「は?全然違うし!ヤマンバメイクとかしてねーし、ナチュラルに仕上げて今風だろ!」
なんとか「今っぽい」をアピールするお姉ちゃんだけど、そもそものギャル知識が古いのよ。
そんな私たちのやりとりを見てたお母さんが、口を開く。
「その高校って、かなり偏差値高いわよね?だとしたら、その格好浮いちゃない?」
ど正論かましてしまう。
メイおば……メイお姉ちゃんは、それを聞いて泣きそうになりながら――
「だってぇ……私、高校時代なんて勉強と修行ばっかだったから、ふつうの高校生なんてわかんないよー!姉さんがさっさと結婚しちゃったらなんだから〜」
そうか。
メイお姉ちゃんが高校生ぐらいの時期に、お母さんが結婚して急遽後継になったから、まともな青春送れなかったんだ……。
うちのお母さんのせいで……ごめんねメイお姉ちゃん。
お母さんも、少し申し訳なさそうに――
「そうだったね。ごめんね芽依」
と、メイお姉ちゃんを優しく抱きしめる。
なんとか落ち着いたメイお姉ちゃんは、私の横に座った。
切り替えの速さに定評のあるお母さんが――
「そうそう。悪いんだけど、あさひがね、名古屋に行く服がないとか面倒臭いこと言い出したから、あんた、東員のイオンまで連れてって、適当にそれっぽいの見繕ってよ。どうせ高い給料貰ってんでしょ!」
おい!母よ。
娘を面倒くさいとか言わないで!
あと妹さんにも、もう少し優しくしてあげて!
なぜか私の横で、もぐもぐタイムに突入してたメイお姉ちゃんは――
「うん。いいよー」
と、能天気に返事してた。
この人も大概、切り替え早いな……。
「名古屋に行く服ねぇ……あさひも色気づいてきたな。思春期ってやつだな」
と、ニヤニチャアするメイお姉ちゃん。
修行のために思春期を殺した少女だったくせに。
私がそんなこと思ってるとも知らず、ご飯を平らげたメイお姉ちゃんが――
「なら早速行っちゃうか」
と、立ち上がる。
ちょうど私もごちそうさまをしたとこだったので立ち上がり――
「うん!」
と、元気よく返事した。
そして二人でマンションから出る。
「そういえば、おばさん車どこに停めたの?」
素朴な疑問をぶつけると――
「お姉ちゃんだって言っただろ!」
って、凄まれてしまった。
「お姉ちゃん、車はどこ?」
私は我慢強いのだ。
「そこのファミマの駐車場停めといた。少しの時間だし、別にいいっしょ?」
国家公務員!!
いいのか日本政府!?
申し訳なさから、私はファミマに入ってペットボトルのお茶を2本買って、1本をメイお姉ちゃんに手渡した。
「おっ、気がきくねえ。あんがと」
この人、大物だと再確認させられたよ。
そして、相変わらずいい車乗ってんな。
確かこれ『BAD BOYS』で、ウィル・スミスが乗ってたのでしょ。
「かっこいいだろ。ポルシェだぞ」
メイお姉ちゃんが、かなりのドヤ顔で教えてくれた。
つまり、助手席に乗る私はマーティン・ローレンスなわけだ。
なんて考えながら、二人でイオンモール東員に向かった。




