第二話 ①
第二話スタートです。
あさひの家族周りが登場します。
私の名前は霧隠あさひ。
霧隠ってなかなかに珍しいよね。
うん!
今思った通り忍者の家系だよ。
でも私はいたって普通の女子中学生のつもりなんだけどさ……
実際のところそうでもないみたい。
そんな私も中学二年になって、なかなか初日からエキサイティングな展開だったなあ。
そして今週末には、私もとうとう名古屋という大都会に行くことになったのよ。
うう……楽しみすぎる!
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土曜日は朝から名古屋に行くことが決まった。
私のマンションのお隣さんになった転入生の、モデル体型のギャル系超絶美少女な転入生『木全澄夏』が、名古屋駅で映画を観ようと誘ってくれたのだ。
うーん、さすがシティガール。
このど田舎の桑名から、そんな大都会に行くなんて想像してなかったよ。
そんなウキウキ気分で、自宅のある3階まで階段ダッシュしちゃった。
305号室。
ここが私たち家族が住む3LDKだ。
ドアを開けて玄関で靴を脱いで、自室の前に鞄を放り投げ、リビングに向かう。
「あら、おかえり。思ったより早かったね」
そう声をかけてくれたのは、お母さんだった。
「ただいまー。お腹減ったよー」
と、私はお母さんにお昼ご飯を要求する。
「んー……まだご飯炊けてないから、もうちょっと待ちなさい。ぶっちゃけおかずもまだ考えてなかったし」
ご覧の通り、私のお母さんはかなりのマイペースだ。
私のお腹はかなり限界に近くすいてるのに……。
でも、もう少し我慢すればお母さんのごはんが食べられると思えば、なんとか勇我慢できるぐらい、お母さんの手料理は絶品なのだ。
そんなキッチンで料理を始めたお母さんに対して――
「あのね、土曜日なんだけど、新しく友達になった子と名古屋駅まで映画を観に行く約束しちゃった!」
と、私は報告する。
「へー……そう」
おい、母よ。
それだけか?
「名古屋駅だよ!?大都会だよ!?娘がシティガールになっちゃうんだよ!」
「別に名駅なんて、駅から近鉄に乗っちゃえば30分もかからないじゃない。なんなら私も明日、タカシマヤに2階の榊さんとこの奥さんとランチに行ってくるわよ」
私はこのお母さんの言葉に衝撃を受けた。
「えっ?名古屋ってそんなお手軽に行けるとこだったの?」
知らなかった……。
夢見た大都会が、そんな近かったなんて……。
「でも珍しいね。映画ならマイカルでいいじゃない?」
お母さんがそんなこと言うから、私は少し知ったかぶりして――
「ふふん。そこはえっと……ドルビーなんちゃらで観るためだよ!」
さすがにこれは、お母さんも知らないはず。
ぶっちゃけ私もなんなのか知らないけどね。
「そうなのね。たしかに私もIMAXよりドルビーシネマの方が好きかも」
なん……だと……。
知っているのかお母さん。
私が愕然としていると、お母さんは器用に玉ねぎをスライスしながら――
「あんた、とりあえず着替えてきなさい。もうちょっとでできるから」
と、私に言ってきた。
肩を落とし気味に、私は自室に向かい、部屋の前に置きっぱのカバンを掴み、部屋に入った。
そしてクローゼットを開けて、脱いだ制服をハンガーにかけて、あることに気づいた……。
(名古屋に着ていける服がない!)
そう、私のクローゼットの中は、大体お母さんがアピタやしまむらで買ってきてくれたいかにも田舎娘な服しかないのだ。
慌ててスウェット素材のトレーナーとズボンを身につけて、リビングに戻り、お母さんにこの悲痛な思いをぶつける。
「おかーさーん!どうしよう……私、名古屋に着てく服がない!」
お母さんは眉を顰め――
「は?」
と、一言だけ声を発していた。
しばらくの沈黙の後――
「いや、名古屋に着てく服って何?いつものでいいじゃない?」
ダメだ!
お母さんは何もわかっていない。
「だって名古屋だよ!みんなグッチの服にルイヴィトンのカバンで颯爽と街を歩いてるんでしょ!?」
そんなオシャレ上級者が闊歩するところに、私の持ってるような田舎服で行ったら、冷笑されて石を投げられるに違いないのだ。
「はぁ〜……あんた、名古屋をどんなと思ってんのよ……」
お母さんはため息をつきながら、呆れた顔をしているけど、これは早くなんとかしないといけない問題だよ!
「もう、どうしようもない娘だこと……。もうすぐ芽依が来るって言ってたから、東員のイオンにでも連れて行ってもらいなさい。あそこならH&Mとかあるし……」
「メイおばさん来るの?そんで服買ってもいいの?」
私は、お母さんが服を買う許可をくれたことと、久しぶりに会うお母さんの妹であるメイおばさん――こと霧隠芽依に会えることを喜んだ。
⸻
ここで少し、我が『霧隠家』について話しちゃおう。
前に言った通り、霧隠家は霧隠流忍術の宗家であり、現当主は私のおじいちゃん『霧隠博満「きりがくれひろみつ》』である。
そして、その直系は私のお母さん『霧隠彩月』と、その妹の『霧隠芽依』の二人の娘だけ。
つまり、我が家のお父さんは婿養子なのだ。
ちなみにお父さんは39歳、お母さんはなんと32歳になったばかり。
私を産んだのは、高校卒業したばかりの当時ではまだ未成年だったってことになる。
お母さんってば、そんなわけで若くして結婚して家庭に入ったため、あっさり次期当主を辞退した。
天才って言われてたみたいだけど……。
そのため、妹のメイおばさんが次期当主とされているわけ。
しかもメイおばさんは、ちゃんと優秀な忍者にして、日本政府直轄の秘密機関に勤めているエリートなのだ。
普段は東京にいるから、そんなに頻繁に会えないけど、会った時にはすごく優しくしてくれるから、私はおばさんのことが大好きだ。
ん?
なんでお母さんが当主の権利を放棄したのに、お父さんを婿養子に迎えたのかって?
まあ、後継者問題があるからだって。
古い家は、そういうの結構大変なんだよね。
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そんなこんなで出来上がったお昼ごはんの『お母さん特製豚バラとタマネギの焼肉のタレ炒め』と、『レンチンした昨日の残りのコロッケ』をムシャムシャと頬張っていると、インターホンが鳴り、お母さんが対応。
「芽依が来たわよ」
と知らせてくれる。
そして玄関のインターホンも鳴り、そのままドアをガチャリと開いて――
「やっほー」
と、メイおばさんの声が聞こえた。
私が玄関の方に目をやると、そこには……
小麦色に日焼けした肌、金髪の少し巻いたようなロングヘアで、高校の制服をきた平成ギャルがいた。




