第一話 ②
そんな感じで良い4人でワイワイしていたら、ホームルームのチャイムが鳴った。
前の扉が勢いよく開く。
そして――まだ4月だというのに、白のタンクトップにナイロンパンツという季節感ゼロの服装で、角刈りの筋肉もりもりマッチョマンのへん……いや、逞しい先生が入ってきた。
彼を知る生徒たちから、深いため息が漏れる。
いやさ、知ってはいたけどね。
「なんだ、お前ら朝から元気ないな!今から始業式だ!気合い入れろよ!」
先生の大きな声が教室に響く。
始業式で気合い入れることってあるの?
と思っていると、先生が教壇をバンと叩いて
「俺が今年一年お前らの担任する細井健一だ。よろしく頼むぞ!」
細井先生はさらに声を張り上げた。
クラスメイト達からは
「知ってるよ」
「てかちゃんと服着てくださいよ」
など、容赦ないヤジが飛ぶ。
前の席の木全さんが振り返って、
「なかなかパンチの効いた先生だね」
と、それはもう素敵な笑顔で話しかけてくる。
いや、ほんと、いちいちかわいいな木全さん。
そんなことを考えながら、私は
「まあね……悪い人じゃないんだけど……特に木全さんみたいな可愛い子は気をつけた方がいいかも……」
と、一応注意しておいた。
木全さんは首を傾げて
(なんで?)
とでも言いたげな表情で見つめてくる。
ダメだ。
いちいち可愛いな!
私が男子だったら、知り合ってから10分程度だけど確実に恋に落ちるレベルだよ!
「えっとね……細井先生、ああ見えて担当教科が音楽なのよ。去年も私の担任だったんだけど、秋にある合唱コンクールの練習の時期になるとすごくスパルタになるのね。そこまではいいんだけど……熱が入りすぎて一人一人の姿勢とか腹式呼吸のやり方とか指導してくれるんだけど……まあ、男女問わずばっちりボディタッチしてくるのよ。」
去年起きたことを、できるだけオブラートに包んで話してあげた。
てか、改めて思うとよく問題にならなかったな。
「ふーん……それよりさ、あたしのこと木全さんじゃなくて名前で呼んで欲しいな。澄夏って。ほら、す・み・か!」
……どんな脈絡でそうなったのかわからないけど、木全さんがそんなことを言い出した。
いや、細井先生の話題はどこいった?
でも、そんな潤んだ瞳で懇願されたら……
「うう……じゃあ、す、澄夏……さん」
多分、顔は真っ赤だろうなと思いながら、覚悟を決めて名前呼び。
「さんはいらないよー!あたしもあさひって呼ぶからさ」
これが都会の陽キャかぁ……距離感バグってるって。
いや、決して悪い気分じゃない。
……むしろ嬉しいまである。
私も覚悟を決めた!
「わ、わかったよ。澄夏……」
なんとか絞り出したその言葉を聞いた澄夏は、それはもう嬉しそうにしてくれた。
そんなやりとりをしていると
「ムッ!こら!霧隠!ホームルーム中の私語はダメだぞ!」
細井先生が叫び、私の顔目掛けてチョークを投げてきた。
いや、そんなことする教師、お父さんの持ってる昔の漫画でしか見たことないよ。
教育委員会案件だよ!
そう思いながら、私は左手で飛んできたチョークを
パシッと掴む。
「せんせー、これ体罰!」
逆に注意してやった。
細井先生はニヤリとして、
「ふっふっふ……霧隠ならこれぐらい受け止められると信じていたからな。」
などと言っている。
……いや、悪い人ではないって澄夏に言ったけど、自信なくなるんですけど。
まあ、去年からよくあることなんだけど。
私と細井先生のやりとりは結構有名で、クラスメイト達も特に驚かなかったのだが
うーん。
目の前の美少女ギャルと、隣の重度厨二病患者から、かなり熱い視線を浴びてるなあ……
「えっ!?嘘?あさひ、なにいまの?」
目を丸くして澄夏が尋ねてきた。
「いや、私ちょっと反射神経良くてさ。先生も全然力入れずに投げてくれてるから……」
と誤魔化そうとしたけど
すごく目が輝いてますよ?
「それでもすごいよ!かっこいいって!」
なおも興奮気味の澄夏。
そして左隣からは、それとは違う、凝視するような視線が痛いんですけど。
「あはは……神崎くん。そんな見られると恥ずかしいんだけど……」
そう訴えてみると、神崎くんはニヒル?な笑みを浮かべて
「フッ……大したものだ」
なんて言われちゃったよ。
うん、絶対そのセリフ言った自分に酔ってるよね、神崎くん。
そんなやりとりをしていると、細井先生が思い出したように
「そういえば2人、転入生がいたんだったな。神崎、木全、自己紹介してくれるか?」
と声をかけた。
先に神崎くんが立ち上がる。
「神崎宵です。よろしくお願いします。」
軽く頭を下げる。
……なんだ。
普通にできるんじゃん。
彼の症状を知らない女子達が色めき立つ。
拗らせてるのを知らなければ、普通にイケメンだもんなぁ……。
続いて澄夏がスッと立ち上がり
「えっと……木全澄夏です。みなさんよろしくお願いします。」
こちらは満面の笑顔で挨拶。
当然、男子達はざわつき、女子達の息を呑む音が聞こえてきた。
てか、澄夏って背高いなぁ……
170cmぐらいありそう。
そんなことを考えていたら、澄夏が椅子に座り
顔を紅潮させて、私と同じ目線の高さで
「えへへ、緊張するね」
なんて語りかけてきた。
……ほんっとうにかわいいな。
……ん?
あれ?
立ち上がった澄夏は170cmぐらいありそうだったのに、座ったら目線の高さが私と一緒……だと……?
ちなみに、私の身長は153cmだ。
「嘘……だろ……」
絶望した私の魂の慟哭が、ぽろりと漏れた。




