第二話 Y-1
俺はあの衝撃の紫事件の後、神崎宵としての自宅に帰ってきた。
玄関から入ると、台所で昼食の準備をしていた母親が
「おかえりなさい」
と声をかけてくれた。
彼女は俺の本当の母親じゃない。
そしてもちろん、この家の家長の父親も俺の本当の父親ではないのだが……
そもそも黒魔術結社により駒として育てられた俺に両親はいないからな。
じゃあなぜこうなってるかって?
それは結社から授けられた魔術のおかげだ。
この魔術は人の記憶や認知を改変するものなんだ。
その力を使ってこいつらには俺を実の息子と認識させているのさ。
つまり背乗りってやつだな。
もちろん万能じゃない。
そもそも少しの記憶を曖昧にさせたり忘れさせたりならそれほどでもないが……
流石に今みたいに記憶と認知を改変させるには魔力を大量に使うため
俺は自身の魔力のほとんどを『神崎宵』の両親に割いている状況だ。
つまり邪魔になる本物の『神崎宵』に割ける魔力はない……
だから本人はもう……
「おい頼まれてた菓子、買ってきたぞ」
「まじ助かるわw これうまいんだよね。てか学校も行ってきてくれたんだよな?明日からも頼むわ」
ご覧のように、色々手遅れで部屋に絶賛引きこもって怠惰な生活を送ってやがる。
「しかしよくあのバカ親父たち納得させたよな」
呑気にこんなこと言ってやがる。
「いいご両親なんだからそんなふうに言うのはよせ」
そう嗜めておいた。
こいつになり替わることができたのは本当に偶然だった。
5日前、俺は命じられた中学潜入をどのようにするか悩んでいた……
そして意味もなく中学に足を運んで校門の前で考え込んでいたら、
たまたま挨拶に来てた神崎の両親に話しかけられたんだ。
どうやら二人は俺を学校の生徒と思ったらしく、
学校の雰囲気とか、人見知りでも馴染めるかとか、そんな話をしてきた。
詳しく聴けば、息子は前の学校でいじめを受けていて不登校になってしまったとか……
そこで俺は今のアイデアを思いついたってわけさ。
それに何より神崎家の両親、
父親はすごく温厚で息子思いの優しい雰囲気だったし、
母親は……めっちゃ綺麗で、その上色気ムンムンなんだよ!
42歳らしいけど全然30代前半ぐらいで通用すると思うし、
笑顔がかわいいと思う。
その上でなんていうか……うん、エロいんだよ!
醸し出す雰囲気とかがさ。
そんなわけで、この二人に件の魔法をかけて家に連れてきてもらった。
そしたらこの引きこもりがいて、
かわりに学校行ってやると言ったら深く考えず了承したって流れさ。
「しかしお前、ずっとゲームしているな」
俺は呆れていた。
本物の神崎宵は本当に四六時中パソコンに向き合ってゲームばかりしているのだ。
しかもお前……
「それ本当ならお前の歳で買っちゃいけないエッチなやつじゃないか!?」
俺は思わず声が大きくなってしまった。
「へへ……お前も興味あるんだろ?」
本物の神崎宵がゲス顔して俺に聞いてきた。
愚問だな……
「はやくそういうシーンまで進めろよ!」
俺は前のめりにディスプレイに食いついた!
「バカ!こういうのはそこまでの過程をしっかり見た上でってのがいいんだよ!」
なるほど、こいつのいうことにも一理あるな。
相手との関係性を深めてからの方がカタルシスが……
俺たちはこんな感じで、上手く共存共犯関係を保っている。




