第5話:冷徹なディール
大変稚拙な文章ですが、読んでいただきありがとうございます。短いですが、ここまでが第一章となります。
ご好評であれば、第一章を膨らませると同、に次章も早急に書きたいと思います。
これからもこの作品よろしくお願いたします。
翌朝、村の入り口に一台の豪奢な馬車が停まった。
現れたのは、周辺地域の経済を牛耳る「金色の獅子商会」の幹部、ガルドスであった。
「マルクが多大な無礼を働いたと聞いた。商会を代表し、深く詫びよう」
ガルドスは丁寧に頭を下げたが、その目は笑っていない。彼は、マルクの不祥事を「個人の逸脱」として処理し、わずかな見舞金で村人の口を封じようという魂胆だった。
だが、応接間に現れたレオンがテーブルに置いたのは、一枚の羊皮紙――レオンが徹夜で書き上げた
「損害賠償請求書」兼「事業計画書」だった。
「頭取、単刀直入に言いましょう。マルク個人を罰して終わり、という話にはなりません」
レオンの声は極めて冷淡であるが、ガルドスも冷淡に言い返す。
「 多少の金貨なら用意があるぞ」
ガルドスも決して手ぶらで来たわけでわない。ここに来るまでに、いくらまでなら釣り合うか念入りに計算しているはずである。
「金貨だけでは足りません。私が算出したのは、過去5年間にわたり、マルクが不当な安値で薬草を買い叩いたことによる『村の逸失利益』。そして、それが商会の利益に組み込まれていた事実です」
レオンは指で数字をなぞりながら、毅然と主張を続ける。
「これが公になれば、商会が王室から受けている『優良ギルド認可』は取り消されます。他国との取引も凍結されるでしょう。」
ガルドスの眉がわずかに動く。
「何が望みだ?」
レオンは続ける。
「……さて、商会の『ブランド価値』の暴落と、私への投資。どちらが安上がりですか?」
ガルドスの額に初めて汗が浮かんだ。目の前の青年は、ただの村人ではない。商会の「首根っこ」がどこにあるかを正確に理解している、プロの交渉人だ。
ガルドスは苦虫を噛み潰したような顔で、低い声を出した。
「……認めよう。君は恐ろしい男だ。で、具体的な要求は?」
レオンは不敵に微笑み、三つの条件を提示した。
・損害賠償金の「産業振興基金」化:
現金で受け取るのではなく、村の新産業の運転資金として商会が拠出すること。
・「物流インフラ」の開放:
商会が持つ首都直通の馬車便の空きスペースを、この村の荷物のために無償で提供すること。
・ナミール村新特産品のブランド化と独占販売権の付与:
今後、村で開発する「高付加価値製品」の第一優先販売権をガルドス商会に与える。
「三つ目は商会にとっても利益になります。マルクが失った信用を、新しい『ヒット商品』で塗り替えるチャンスを差し上げているんです」
ガルドスの目が、商売人のそれに変わった。
「……ただの脅迫ではなく、商談を持ちかけるというわけか」
一時間に及ぶ交渉の末、ガルドスは震える手で契約書にサインした。
彼にとって、これは「弱みを握られた屈辱」であると同時に、「とてつもない利益を生むかもしれない金の卵」との出会いでもあった。
馬車が去ったあと、陰で様子を伺っていたエリーナと村長が飛び出してきた。
「レオン! 凄かったわ、あのガルドスさんが最後の方は圧倒されてたじゃない!」
「信じられん……あんな有利な条件を引き出すとは。レオン君、君は一体……」
「ただの会計士ですよ」
レオンは短く答え、手元に残った契約書を見つめた。
「さて、資金と物流ルート(インフラ)は確保しました。次は、これを使って何を『作る』かだ。……エリーナ、準備をしておいて。近いうちに、君と首都へ行く」
「えっ、首都へ!? 二人で……!?」
真っ赤になって慌てるエリーナをよそに、レオンの視線はすでに「次の一手」に向けられていた。
村の再生は、単なる「復旧」ではない。
現代の知識を武器にした、中世経済への「宣戦布告」だった。




